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量子計算機実現の基盤となる新しい数理理論を構築

2014.12.10

玉川大学量子情報科学研究所『量子情報科学研究センター』(主任:相馬正宜教授)の濵田充教授は、量子計算機を実現するための新しい理論的基盤を構築することに成功した。量子計算機は、通常「(基礎)ゲート」と呼ばれる最小情報処理要素の系列で構成されるが、これまでの標準的な万能基礎ゲート系列構成の理論には深刻な誤りがあった。今回、万能基礎ゲート系列構成の最適な方式を厳密な理論とともに提供した。本成果は、平成26年11月26日Royal Society Open Scienceに掲載された。また、本理論の正当性を検証するため最適な基礎ゲート系列構成方式を古典コンピュータ上で動作検証し、その結果は平成26年12月25日東京大学で開催されるJSIAM「行列・固有値問題の解法とその応用」研究会で報告される。

【今回の成果】
量子情報科学研究センターの濵田 充教授は、量子計算機(量子コンピュータ)実現に向けての基礎的な成果を得た。すなわち、量子計算機は、「(基礎)ゲート」と呼ばれる最小処理要素の組み合わせで構成されるが、単一量子ビット系において任意の量子情報処理Uを構成するのに必要な最小の基礎ゲート数N(U,δ)を求め、そのN(U,δ)を達成する具体的な基礎ゲート系列によるUの構成法を与えた(δの意味は後述する)。本研究は、量子計算機の実現可能性に関する議論の根幹において深刻な誤信が、複数の標準的な教科書に見受けられることに気付いたことを契機に始めたものである。その誤信とは、端的に言って、N(U,δ)が常に3以下であるとの盲信であるが、基礎理論ともいえる本成果によればN(U,δ)は幾らでも大きくなり得る。これは、複数の教科書の著者が、それがあたかも万能な方式であるかのように嘯いた方式は、あやふやどころか原理的に存在し得ない幻想の産物であったことを意味する。本成果はそのような幻想に代わる量子計算機の構成方式をアルゴリズムとして具体的に与えており、しかもその最適性まで厳密に証明している。この最適基礎ゲート系列構成の設計アルゴリズムは、通常のPCで高速に動作するものであるが、その動作検証については平成26年12 月25日東京大学で開催される日本応用数理学会「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会第18回研究会において報告する。

■論文名
M.Hamada, “The minimum number of rotations about two axes for constructing an arbitrarily fixed rotation,” Royal Society Open Science, 1:140145, 2014.
http://dx.doi.org/10.1098/rsos.140145.

資料

【背景】

量子力学では、量子状態に加えられる操作はユニタリ行列で表現できるという確立された理論があるが、量子計算では、この枠組みの中で考えている量子計算機が万能(ユニヴァーサル)であるか、すなわち、それがどのようなユニタリ行列(量子情報処理)でも構成できるかどうかが問題となる。いわゆる(単一)量子ビット系とは、量子情報の最小単位である量子ビットを担う量子系であるが、量子ビット系のユニタリ行列Uは、数学の理論によって3次元の回転にうまく対応することが分かっているので、ユニタリ行列と回転を同じものとして扱うことがある。したがって、量子ビット系の万能量子計算機の問題を解くことは、任意の回転を一定の制約のもと回転の系列(の積)として構成するという素朴な幾何学的問題をも解くことになる。本成果におけるユニタリ行列(回転)の系列に対する制約とは、系列中の回転の軸を与えられた2軸に限定するというものである。前述のδは、この2軸のなす角である。変数δは量子計算機の基礎ゲートを特徴付けるパラメータといえるが、本成果はN(U,δ)をUとδの関数として与えた。
なお、最も基礎的な(単一)量子ビット系の万能性を解決すれば、これを応用して多量子ビット系の万能量子計算機の構成問題も理論的には解決することが知られている。

【誤信から本成果へ】

本成果で扱った問題がテーマとなった経緯は以下の通りである。Nielsen-Chuang [1]を初めとする複数の著名な研究者による量子計算機関係の教科書では、「(δの値に依らず)N(U,δ)が常に3以下」ということに等価な記述があり、量子計算機の万能性をこれに帰着させている。濵田教授はこの「N(U,δ)が常に3以下」との主張に疑問を感じ、それが誤りであることを証明した。ここでは、本成果との対応のためN(U,δ)を使って説明したが、量子計算機の分野ではN(U,δ)のような関数を求めるという問題意識すらなかった。(何故なら、その数が3以下だと思い込み、研究価値があることすら認識されなかったからである。)その後、濵田教授は、最適性の点で幾分弱い成果を経て、N(U,δ)とそれを達成する最適なユニタリ行列(回転)の系列構成法を発見し今回の発表に至った。
本来、理論研究者は実験研究者や技術者へ指針となる理論を提供すべきであるが、今回の誤信は理論研究者がミスリードしてしまった残念な事例と言えよう。本成果では、誤信を正すに止まらず、代わりに何が出来るか(ソルーション)を与え、しかもそれが最適なソルーションであることを証明している。

補足:上記誤信が見受けられる最も古い文献はNielsen-Chuang [1]のようである(同書十周年記念版でも訂正されなかった)。これは量子計算機分野の標準的な教科書であり邦訳もされ、また多くの量子計算機に関する教科書がこれの影響を受けている。文献[1]を含めそのような教科書の少なくとも3冊に誤信が明白に記されている。
 [1] M.Nielsen and I.Chuang, Quantum Computation and Quantum Information, Cambridge University Press, 2000.

取材に関するお問い合わせ先

玉川学園 教育企画部
キャンパスインフォメーションセンター
TEL:042-739-8710
FAX:042-739-8723
E-mail:pr@tamagawa.ac.jp
〒194-8610 町田市玉川学園6-1-1

研究内容に関するお問い合わせ先

玉川大学 量子情報科学研究所
教授 濵田 充(はまだ みつる)
研究室:042-739-8684
E-mail: m-hamada(at)lab.tamagawa.ac.jp

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