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【ミツバチ科学研究センター 研究成果】
準絶滅危惧種ノサップマルハナバチの室内飼育に成功‐日本応用動物昆虫学会英文誌に掲載‐

2023.02.22

概要:

本学学術研究所ミツバチ科学研究センター特別研究員の久保良平博士(兼任:農学部生産農学科非常勤講師)と大学院農学研究科の小野正人教授(学術研究所所長)は、ノサップマルハナバチ(図1)の室内飼育に成功しました。そのマルハナバチは、北海道の根室半島および野付半島の一部に局地的に生息し、環境省のレッドリストで準絶滅危惧種に選定されており、その生態学的な知見はほとんどありません。情報の少ない本種の営巣行動を女王蜂による巣の単独創設を経て次世代の生殖虫(新女王蜂と雄蜂)が羽化するまでの生活史の1サイクルを室内で再現し観察した事例は無く、貴重な記録となりました。本研究の成果は、日本応用動物昆虫学会英文誌“Applied Entomology and Zoology”のBrief Reportに2023年2月6日付けでオンライン公開されました。

図1.長い越冬から覚め活動を開始したノサップマルハナバチの女王蜂

論文タイトル:

Notes on the laboratory rearing of the Japanese endangered bumblebee, Bombus cryptarum florilegus (Hymenoptera: Apidae).
絶滅の恐れのある日本在来マルハナバチ種ノサップマルハナバチの室内飼育に関する知見

掲載誌と掲載日:

Applied Entomology and Zoology
https://link.springer.com/article/10.1007/s13355-023-00817-w
2023年2月6日

著者:

  • 1) 久保 良平:
    玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター特別研究員(責任著者)
    玉川大学農学部生産農学科非常勤講師
  • 2) 小野 正人:
    玉川大学大学院農学研究科 教授
    学術研究所 所長

内容:

ノサップマルハナバチは、北海道の根室半島および野付半島の原生花園のみに生息し、そこに自生する植物種の受粉を担う希少な真社会性ハナバチです。近年、本種は生息環境の悪化や特定外来生物セイヨウオオマルハナバチとの競合により年々数を減らしていると言われています。環境省のレッドデータブックにも準絶滅危惧種として記載され、本種の保護が急務となっています。一方、その希少性から生態に関する知見がほとんどありません。本研究では、本種の営巣特性を明らかにするために室内飼育を試み、延いては効率的な増殖方法の開発にもつなげることで、保護増殖に資する研究として位置づけられました。
野外におけるマルハナバチの営巣は、春先に越冬を終えた女王蜂が土中にある小動物の廃巣などの空間に入り込み、その内部で産卵し、数頭の働き蜂を育てあげる一連の行動から始まります。その性質を利用したマルハナバチの室内飼育法は、1994年に小野教授を中心とした研究グループが開発し、本学におけるマルハナバチ研究の礎となっています。その方法を応用して、北海道根室市納沙布で試験用に採集したノサップマルハナバチの女王蜂を温度と湿度環境を保った専用の施設内で飼育しました。その結果、15頭の女王蜂のうち5頭が営巣活動を開始し、規模は小さいものの、生殖虫(雄蜂と新女王蜂)が生産されるコロニー(図2)へと成長しました。
多くの野生生物が絶滅の危機に瀕しているとされている昨今、希少な野生生物の保護の在り方については、喫緊の課題と言えます。どのような生物も自然の中では単独で生活しているのではなく、他の生物との複雑なネットワークを形成する生態系の重要なメンバーとなっています。ノサップマルハナバチもまた、生息地に分布する植物の授粉を通じて繁殖などにも機能し、多くの動植物が生息できる基盤形成に一役かっているのです。マルハナバチのような生態系におけるキーストーン的な役割を果たしている生物の保護増殖の研究は、これから益々重要になると考えられます。本研究は、その小さな一歩ですが、本種の営巣特性に関する貴重な記録を残すことができました。今後は、ノサップマルハナバチの保護に向けて、新女王蜂を多数生産する大きなコロニーを育成できる室内飼育法への改善と累代飼育法の開発などの研究として展開していくことが期待されます。

図2.実験室内で育てられたノサップマルハナバチの成熟巣
左端:新女王蜂 中央:創設女王蜂と雄蜂 右端:働き蜂

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