玉川大学 研究所

玉川大学・玉川学園Webサイト
IEサポート終了のお知らせ

玉川大学・玉川学園webサイトTOPページリニューアルに伴い、Microsoft 社の Internet Explorer(以下、IE)のサポートを終了いたしました。本学園が運営するサイトをIEで閲覧した場合正しく表示されない恐れがございます。
皆様にはご不便をおかけしますが、別のブラウザを利用しての閲覧をお願いいたします。

【ミツバチ科学研究センター 研究成果】熱帯に大型のハナバチが生息している理由を解明

2023.03.17

研究の概要

玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センターの原野健一教授は、ブラジルの半乾燥地農科大学のミヒャエル・フルンシール教授と共同で、ブラジルの熱帯乾燥林に生息するクマバチ2種の採餌行動を比較し、大きな体サイズは体温維持を容易にすることで、早朝の採餌を有利にしていることを明らかにしました。大きな体サイズは高温環境では不利であると考えられていましたが、その有利性を示す事によって、なぜ熱帯に大型のハナバチが分布しているのか、という謎に対して一つの回答を示しました。

本研究の成果は、イギリスの国際学術誌「Ecological Entomology」に2023年2月23日付けでオンライン掲載されました。

研究の背景

変温動物である昆虫の体温は、気温の影響を強く受けます。体温が低いと筋肉を十分に動かすことができないため、低気温下では活動できなくなります。しかし、多くのハチ類は、翅をはばたかすための飛翔筋を震わせることで体温を上げ、低温下での活動を可能にするしくみを持っています。このような体温調節には、体サイズが大きな影響を及ぼします。体サイズの大きな昆虫は、体積に対して表面積が小さいため、生産した熱を逃しにくく、高い体温を保つことができます。一方で、小さな昆虫は、体から熱が逃げやすく、体温維持が困難です。(お湯を入れて水風船を作った場合、小さな水風船の方がすぐに冷えてしまうのと同じ原理です。)そのため、低温環境では、冷えにくい大きな体が有利になり、逆に高温環境では、体温を逃がしにくい大きな体は、オーバーヒートの危険性を高めるので不利になると考えられていました。実際、涼しい高緯度地域にいくほど生息するハナバチは大きく、熱帯など低緯度地域にいくほど小さくなる傾向があります。しかし、例外も存在します。クマバチ属はハナバチの中でも特に体が大きなグループですが、熱帯・亜熱帯など高温地域を中心に分布しています。高温環境では大きな体サイズは不利になるはずなのに、なぜこういった大型種が熱帯に分布しているのかは長い間謎でした。

研究の内容

私たちは、「熱帯でも大きな体が有利になる場面があるのではないか」と考え、ブラジル北東部の熱帯乾燥林に生息する体サイズの異なるクマバチ2種(大型種=Xylocopa frontalis、小型種=Xyolocopa cearensis)に注目し、アラマンダAllamanda sp.の花から花蜜を採餌しているときの体温と行動を比較しました(図1)。

図1.(上および下左)ブラジル東北部の熱帯乾燥林に生息する大型クマバチXylocopa frontalisと(下右)小型クマバチX. cearensis
図2.クマバチ2種の時間的な訪花パターン。大型種は小型種よりも早い時刻に採餌する。早い時刻ほど花蜜が多いことも明らかになっている。

その結果、大型種は花蜜が豊富な早朝に採餌を集中させているのに対し、小型種は花蜜の少ないより遅い時刻に採餌をしていることが明らかになりました(図2)。サーモグラフィーを用いた調査では、体サイズと熱収支の理論が予想するように、同じ気温下では小型種よりも大型種の体温は高くなることが確認できました(図3)。先行研究から、熱帯産クマバチは高温耐性が高いかわりに低温環境での活動が苦手で、飛翔するために高い温度が必要であることが知られていました。私たちの調査地は熱帯にあり、早朝も気温が25℃を下回ることはありませんでしたが、それでもクマバチにとっては涼しすぎて飛翔するためには発熱して体温を上げる必要があったと考えられます。大きな体サイズはこの時に有利に働き、熱を逃がしやすい小型種が十分に体温を上げることができない早朝に、大型種は高い体温を維持することで、花蜜を多量に持つ花を独占していると推察されました。大きな体の利益はそれだけではなく、体温を高く維持することで筋肉の働きを高め、それによって花間の移動や花蜜の摂取速度を上げていることを示唆するデータも得られました。

図3.(左)気温とクマバチ2種の体温の関係。大きな体は熱を逃しにくいため、大型種の体温はより高くなる。(右)サーモグラフィーによる体温測定。
図4.クマバチ2種の一つの花あたりの滞在時間。短いほどすばやく花蜜を摂取していることを示す。体温の高い大型種の方がすばやく花蜜を摂取する。体温が高いほど、一花滞在時間が短縮するというデータも得られた。

この研究により、高温地域における大きな体サイズの利益が初めて明らかになりました。熱帯といえども、朝夕は比較的涼しくなります。大型種は、そのような時間帯の活動に適応しているため、小型種との競争に負けることなく、熱帯に生息し続けられるのかもしれません。

掲載論文

Harano, K. & Hrncir, M. (2023) Big in the tropics–Are there thermal advantages of large body size for carpenter bees in hot climates? Ecological Entomology, in press

著者

原野健一(玉川大学 学術研究所ミツバチ科学研究センター/大学院農学研究科 教授)
Michael Hrncir(ブラジル国立半乾燥地農科大学/サンパウロ州立大学 教授)

謝辞

この研究はJSPS科研費基盤研究(C)20K06078およびNational Council for Scientific and Technological Development Grant no.311590/2019-5, 309914/2013-2の助成を受けて行われました。また、この研究は玉川大学長期研修制度を利用して行われました。記して謝意を表します。

シェアする