【ミツバチ科学研究センター 研究成果】日本産ツツハナバチの交尾行動の詳細を解明
研究の概要
玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センターの原野健一教授は、日本産のツツハナバチ Osmia taurus (ハキリバチ科ツツハナバチ属)(図1)を対象に、その交尾行動を詳細に観察・解析しました(図2)。研究の結果、オスは交尾後も1時間にわたってメスの背中に乗り続け、翅を震わせながら振動音を発する「交尾後ディスプレイ」を行うこと、またメスは一度交尾するとその後はそれ以上の交尾を受け入れなくなるだけでなく、交尾を行うのは出現註)直後のごく短い期間だけであることを明らかにしました。
註) 成虫となって巣から野外へ出てくること
この成果は11月12日に学術専門誌 Entomological Science誌に掲載されました。
研究の背景
ツツハナバチ属のハチでは、オスが翅を震わせて音や振動を出すなど、他のハナバチには見られない独特な配偶行動があることが知られています。この振動や音は、メスとの交尾を促す「求愛信号」としての機能があるだけではなく、オスの資質を示す信号となっていると考えられていますが、日本産の種でその詳細が調べられた例はありませんでした。また、どのようなメスが交尾するのかについての知見もありませんでした。今回の研究は、玉川大学構内に巣場所として設置したアシ筒(図3)から得られたツツハナバチを用いて、オスの配偶行動とメスの受容性の詳細を調べたものです。
研究の内容
実験室内での観察により、ツツハナバチの交尾行動は大きく3つの段階に分けられることが分かりました。
- 交尾前行動(求愛):オスはメスの背に乗り、翅を小刻みに動かしながら「ブブブ…」という振動音を発します。これが求愛ディスプレイと考えられます。
- 交尾段階:短時間の交尾(約17秒)を行います。
- 交尾後行動(交尾後ディスプレイ):交尾が終わっても、オスはすぐには離れず、平均で1時間近くメスの背に留まり、一定のリズムで体を震わせながら音を出すディスプレイを繰り返します。
この「交尾後ディスプレイ」は、他のオスが近づかないようにする“メスのガード行動”であると同時に、メスの体内で生理的な変化を引き起こし、それ以上の交尾を受け入れないようにしている可能性もあると考えられます。
さらに、メスの日齢によって交尾の受け入れ率が変化し、出現した日(0日齢)には約6割が交尾しましたが、1日後にはその割合が急減し、2~3日齢になると全く交尾しなくなりました。この短い期間に交尾をしなかったメスは、一生受精卵を産めなくなるはずです。にもかかわらず、なぜこのように短期間しか交尾しないという性質が進化したかは謎のままです。
本研究で得られた知見は、単独性ハナバチの交尾行動の進化を理解するうえでの基盤となるだけでなく、本種を含めたツツハナバチ類の保全にも役立つことが期待されます。
掲載論文
Mating behavior and female receptivity in a Japanese mason bee Osmia taurus (Hymenoptera: Megachilidae)
Ken-ichi Harano
Entomological Science (2025) 28: e12627
図1. 巣の前で飛翔するツツハナバチのメス
図2. ツツハナバチの交尾ペア。上がオス
図3. 営巣場所として設置したアシ筒