田原先生:教育相談のABCVol.2:「境界性パーソナリティ人格障害」って聞いたことありますか?

2012.04.16
田原 俊司

感じ方や考え方、行動様式は人によってかなり異なりますが、各個人の思考や行動様式には比較的一貫した傾向がみられます。このように比較的一貫した思考や行動様式をパーソナリティと呼びます。精神的に健康な人であれば、いつも用いている方法でうまくいかなければ別のやり方を試みようとします。しかし、「パーソナリティ障害」と名づけられている人々はパーソナリティの著しい偏りのために、対処法を変えることがなかなかできません。そのため、問題に対して適切に対処できなくなってしまい、自分自身が悩んだり、家族や友人、先生方など周囲の人を悩ませてしまったりします。
パーソナリティ障害は、国際的に使われている診断基準であるDSM-Ⅳ-TR(精神疾患の分類と診断の手引き)では3群10種類に分けられます。それらの中で、今回は境界性パーソナリティ障害を紹介することにします。「友だちをほめちぎっていたかと思うと非難をするなど態度が両極端で、たびたび態度が入れ替わる」。このような人が周囲にいませんか。境界性パーソナリティ障害の場合、しばしば小児期に、両親の不仲・祖父母の教育への過干渉、あるいは保護者による養育の放棄や虐待を経験し、自分が「いい子」でなければ「見捨てられる」という不安感を持っていることが一般的です。そのため、「思いやりをもって接してくれている」と感じられている間は、本人も一生懸命に努力をして「いい子」でいますが、少しでも「愛してもらえていない」と感じられることがありますと、一転して相手に激怒し、しばしば通常では考えられない行動をするようになります。自分に目を向けてくれているかどうかの二律背反で、その中間は存在しない思考の偏りがあります。攻撃的感情は自分にも向けられ、リストカットなどの自傷行為をすることも珍しくありません。
境界性パーソナリティ障害の人に対しては、どう対応したらいいのでしょうか。方法としては、命に関わる行動を除いて、たとえ周囲を困らせる行動をしても「右往左往せず、認知の修正に焦点を当てる」ということが必要となってきます。具体的には、まず「あなたの行動パターンの問題点は××です」と本人が修正すべき行動が何かを伝えます。次に、そのような行動が現れるのは「周囲の人が中途半端に逃げるような態度をしたとき、急速に不安が高まり、思わず周囲の人の気を引こうとするためです」といったようにをハッキリと問題行動が生じる要因を指摘し、本人が自覚できるようにします。その上で、「あなたは、○○のとき、周囲が困惑する行動があらわれるので、それを知っていてね」といったように問題行動が起こる状況を認識させますと、次第に本人としても周囲に迷惑をかける行動を抑えようとするようになっていきます。自殺未遂等の懸念があり、対応しきれないと感じたときには、保護者との協議の上で入院を含めた医療機関への相談も必要になってきます。