田原先生:教育相談のABCVol.3:「目のまばたき」や「肩上げ」などを頻繁に繰り返す子はいませんか?

2012.04.23
田原 俊司

「まばたきをする」「顔をしかめる」「口を曲げる」といった動作を頻繁に繰り返す子どもはいませんか。一見すると落ち着きのない子どものように感じるかもしれませんが、チック症かもしれません。チック症とは、とくに目的があるわけではないのに、身体の一部(構音器官を含む)が本人の意思とは無関係に繰り返し動いてしまうことをいいます。10人に1~2人が発症するといわれており、決して珍しい症状ではありません。発症年齢は3~4歳の幼児期から始まり、7~8歳の学童期にピークとなり、大多数の子どもは10歳ころまでに発症します。男性と女性の出現比率は3:1で、圧倒的に男性が多くなります。ただし、チック症の重症型といわれる慢性多発性のチック症(トゥレット症候群といいます)に限定すれば、学童・思春期に比較的多く見られ、男女比は10~15:1とさらに男性の方が多くなります。これらの症状を本人は故意にやっているわけではありませんので、止めようと思っても止めることができません。
発症の原因としては、身体因と心因が相互に関係しあっていると考えられています。身体因としては、脳内の神経と神経のつなぎ目であるシナプスにおいて情報伝達を行う神経伝達物質がうまく作動していないという「神経伝達物質不均衡説」(運動がスムーズに行えるよう全身の緊張を調節している大脳基底核に異常があり、ドーパミンが情報をうまく伝達できていないという考え方)や、脳の線状体障害説などがあります。心因としては不安や緊張などの精神的ストレスが、チック症状を引き起こす「引き金」になるというものです。近年、チックの発症に関しては身体因を重視する傾向があり、従来指摘されていた本人の性格や保護者の養育的態度(厳しすぎるしつけなど)は根本的原因というよりは、ストレスの1つとしての「引き金」となっていると考える傾向が強くなっています。
チック症状は10代半ばまでがもっとも激しく、思春期を過ぎるころになると症状は自然と消失したり、残っていたとしてもほとんど気にならない程度に軽微なものになったりします。トゥレット症候群でも成人期になりますと90%程度の人は症状が軽減・消失します。このように多くのチック症は、特別の対応を取らなくても、比較的短時間で消失します。ただし、症状が長期化し、なかなか消えないようであれば、チック症が生じる「引き金」となっていると考えられる精神的ストレスを特定し、できるだけリラックスさせてあげることが必要となってきます。たとえば、本人の動作が緩慢でなかなか指示されたことができなかったり、言えなかったりしたとき、ついつい「早くしなさい」「きちんと言いなさい」と言ってしまうことが多くなりますが、口うるさく言うのは避けるようにしてください。また、無理にやめさせようとすることもしないようにしてください。ただし、日常生活に支障をきたしている場合や、症状が長期・慢性化し、多発・激症化している場合には、児童精神科などの医療機関や相談機関での対応が必要となってくることがあります。