【脳科学研究所】利他主義者は素早く協力し、利己主義者は時間をかけて協力する-米国の科学雑誌"米国科学アカデミー紀要(オンライン版)に論文を発表-

2017.05.31

玉川大学脳科学研究所(東京都町田市 所長:小松英彦)の山岸俊男(やまぎしとしお)特別研究員(一橋大学特任教授)、坂上雅道(さかがみまさみち)教授、高岸治人(たかぎしはると)助教、李楊(りよう)元研究員、松本良恵(まつもとよしえ)研究員、青山学院大学の清成透子(きよなりとおこ)准教授、アラヤ・ブレイン・イメージングの金井良太(かないりょうた)代表取締役らは、利他主義者は意思決定が早い人ほど協力的に振る舞うのに対して、利己主義者は意思決定に時間がかかる人ほど協力的に振る舞うことを世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、米国の科学雑誌“米国科学アカデミー紀要速報版(オンライン版)に2017年5月31日に掲載されました。

掲載論文名

Response Time in Economic Games Reflects Different Types of Decision Conflict for Prosocial and Proself Individuals
経済ゲームにおける反応時間は、利他主義者と利己主義者の意思決定における異なるタイプの葛藤を反映する

本研究は、20代から50代までの男女443名を対象に、協力行動と意思決定の早さの関連を調査。

<この研究のポイント>
  • 利己主義者は、時間をかけて意思決定をすると協力的に振る舞うようになることを解明した
  • 利他主義者と利己主義者が異なるメカニズムで協力行動をとることを解明した
  • 両方のタイプの人々から協力行動を引き出すには、異なる制度が必要になる可能性を示唆した

【研究の背景】

他者に対する協力行動は時間をかけた熟慮的な行動なのか、それとも素早い直感的な行動なのかという問いは近年大きな注目を集めており、幅広い分野において研究が行われてきました。これまで2つの立場を支持する結果が示されてきましたが、どちらの立場が正しいのかは未だ決着はついていません。そこで本研究では、20代から50代までの男女443名を対象に、複数の経済ゲームにおける協力行動と意思決定の早さの関連を調べました。その結果、協力行動と意思決定の時間との関係は、その人が持つ社会的価値志向性によって異なるパターンを示すことが明らかになりました。

【実験方法】

2012年から2017年までの間に複数回行われた実験で、協力行動を測定する複数の経済ゲーム実験(図1)に参加し、その意思決定にかかった時間を測定した。本研究では協力行動以外にも、利他傾向を測定する社会的価値志向性尺度(図2)を異なる方法で複数回測定し、他者から搾取されることを回避したいと思う傾向である社会的リスク回避傾向を測定した。

図1 経済ゲームの一例(独裁者ゲーム)

図1 経済ゲームの一例(独裁者ゲーム)

独裁者ゲームは2人1組で行われた。分け手は実験者から受け取ったお金を自分自身と受け手との間でどのように分けるかを決め、受け手は分け手が決めたとおりのお金を受け取った。この実験では、分け手の役割になった人が受け手に渡す金額が協力行動の指標として用いられた。独裁者ゲーム以外にも、囚人のジレンマゲーム、公共財ゲーム、信頼ゲームが協力行動の指標として用いられた。

図2 社会的価値志向性尺度の一例

図2 社会的価値志向性尺度の一例

自分と他者の間で仮想的にお金を分配する状況に直面した場合、どのような分け方を好むかをたずねる。複数の回答の結果によって、回答者は利他主義者(Prosocial)と利己主義者(Proself)に分類される。

【実験結果】

社会的価値志向性尺度で一貫して利他主義者と分類された人は、素早く意思決定を行うときには協力的に振る舞い、意思決定に時間をかけると非協力的に振る舞うことが明らかになった。一方、社会的価値志向性尺度で一貫して利己主義者と分類された人は素早く意思決定を行うときには非協力的に振る舞い、意思決定に時間をかけると協力的に振る舞うことが明らかになった(図3)。また利他主義者の意思決定の時間は社会的リスク回避傾向が高まるほど長くなっていた。この結果は、早い意思決定では協力する人々も、他者から搾取される恐れついて考えることに時間を費やすと協力的に振る舞うのをためらうようになることを示唆している。また時間をかけて協力する利己主義者は、短期的な利益ではなく、自身の評判などを含めた長期的な利益を考慮して協力することが示唆された。

図3 社会的価値志向性ごとの全体的協力傾向と意思決定時間の関係

図3 社会的価値志向性ごとの全体的協力傾向と意思決定時間の関係

図の縦軸は全体的協力傾向を表しており、数字が大きくなればなるほど協力傾向が高いことを示している。横軸は意思決定にかかった時間を表しており、数字が大きくなればなるほど意思決定にかかった時間が長いことを示している。一貫利己主義者は意思決定の時間が長い人ほど協力傾向が高く、意思決定の時間が短い人ほど協力傾向が低い。一方で、一貫利他主義者は意思決定の時間が短いほど協力傾向が高く、意思決定の時間が長い人ほど協力傾向が低い。協力行動と意思決定の時間はそれぞれ標準化された得点である。

【実験の成果】

社会の中には、その人が持つ社会的価値指向性によって、素早く直感的に協力する人々と、自己利益を追求する人々の両方が社会の中には存在していると言える。それら2種類の人々は異なるメカニズムで協力行動をとると考えられるため、その両者から協力行動を引き出すには、単一人間モデルではなく少なくとも2種類の人間モデルを仮定した制度が必要になる可能性を示している。