玉川大学脳科学トレーニングコース2012が開催されました

2012.08.20

2012年6月28日(木)から30日(土)までの3日間にわたり、脳科学研究所において、「玉川大学脳科学トレーニングコース2012」が開催されました。このトレーニングコースは、脳科学の発展と普及を目的として、脳科学を志す学部学生、大学院生、若手ポスドクを対象に、学際的な研究手法の基礎と応用を実習で学んでもらうことを目的としています。 第2回目となる今回のトレーニングコースでは、5つの実習コースに全国から計107名の応募があり、書類選考で選ばれた26名の方が受講されました。

実習コース

1.ラットのマルチニューロン記録と解析法(受講5名)

担当:礒村宜和

2.霊長類を用いたシステム神経科学の基礎実習(受講6名)

担当:鮫島和行、坂上雅道、木村實

3.ヒトのfMRI基礎実習(受講7名)

担当:松元健二、松田哲也

4.赤ちゃんの脳波計測と最新の解析技術(受講4名)

担当:岡田浩之、佐治量哉、宮崎美智子、高橋英之、北城圭一(理化学研究所)

5.ミツバチの社会性を支える脳機能の観察(受講4名)

担当:佐々木正己、佐々木哲彦、原野健一

共通プログラム

開会式・懇親会(1日目)

Jam Session~分野を越えて思考の調和を奏でよう~(2日目)

担当:酒井裕、南本敬史(放射線医学総合研究所)

閉会式(3日目)

担当:酒井裕、南本敬史(放射線医学総合研究所)

 

受講者の皆さん、3日間の実習お疲れさまでした。今回の脳科学トレーニングコースにより、一人でも多くの受講者が将来の脳科学の担い手となって活躍してくれることを心から期待しています。

主催: 玉川大学脳科学研究所
共催: 玉川大学大学院脳情報研究科・工学研究科
玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター
玉川大学グローバルCOEプログラム「社会に生きる心の創成」
私立大学戦略的基盤形成支援事業「記憶・学習の可塑的発達機構に関する統計的解析」
心の先端研究のための連携拠点(WISH)構築
文部科学省科学研究費補助金「ヘテロ複雑システムによるコミュニケーション理解のための神経機構の解明」
文部科学省科学研究費補助金「予測と意思決定の脳内計算機構の解明による人間理解と応用」
後援: 文部科学省科学研究費補助金「包括型脳科学研究推進支援ネットワーク」
協賛: 小原医科産業株式会社
バイオリサーチセンター株式会社
株式会社フィジオテック
マスワークス合同会社

受講者・実習担当者の声

ラットのマルチニューロン記録と解析法

2012年6月28日から30日にかけて玉川大学脳科学トレーニングコースが開催され、私は礒村宜和先生による「ラットのマルチニューロン記録と解析法」コースに参加させていただきました。ラット班には学部生から助教まで様々な知識、技術的バックグラウンドを持つ参加者が集まっていましたが、メンバーの人当たりの良さが幸いし、早い段階で打ち解けることができました。

初日は開会式の後、これから行う実験パラダイムとそれに関連する知見をレクチャーしていただきました。今回私たちは条件付けした覚醒ラットが運動を遂行する時の運動野でのマルチニューロン活動記録を見学、実習させていただけるとのことで、期待で胸が一杯でした。体験コースが始まりまず驚いたのは、オペラント学習からタスク実行中の運動野での記録に至るまでの、流れ作業のように効率的な実験スケジュールでした。その後はオペラント学習装置の実験を実際に見学することができました。1週に2匹のラットを用いて実験を行えるとのことで、その効率の良さと工夫を凝らした実験装置に圧倒されたことが強く印象に残っています。また実習としてはテトロード電極、コネクターの作成をさせていただきました。その夜は懇親会が行われ、様々な方の貴重なお話を伺うことができ、親睦を深めることができました。

2日目にはタスクを学習したラットの運動野からのマルチニューロン記録を見学しました。私は覚醒動物でのマルチニューロン活動記録を直に見学したいと思い、今回のトレーニングコースに応募したので、覚醒したラットに多点電極を刺入しそれぞれのチャンネルに複数のスパイク活動が同時に観察された時には大きな感動を覚えました。さらにその日は覚醒記録を可能にする、固定器具の埋め込み手術の様子と、記録細胞を染色、同定することができるという利点をもつ傍細胞記録の一部を見学することができました。夜にはJam sessionが行われ、医学、生物学、経済学など様々なバックグラウンドを持つ方々と議論することで、脳を理解することはどういうことなのかについて、深く考える良い機会になりました。

3日目には、実際に得られた複数ニューロンからのスパイク活動を分離する方法を学びました。実際にスパイクソーティングを行う時にはどのようなところに気をつけて行うべきかを伺うことができ、大いに参考になりました。

3日間の実習を通して、実際に研究室で使えそうな実験装置、手技を多数拝見し勉強させていただきました。また実習の合間には礒村先生による現在の研究や、学生時代や留学先での貴重なお話を伺う機会に恵まれました。先生の研究に対する思いや、信念のようなものを感じ、大いに刺激を受けました。スタッフの皆様にはお忙しい中懇切丁寧に説明をしていただき、そのお陰で実習、講義内容の理解を深めることができました。今回このような、先駆的な技術を学び、様々な方と議論する機会を与えていただいたことを、お世話になった講師の先生方、スタッフの皆様にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。

(鳥取大学 米田泰輔さん)

霊長類を用いたシステム神経科学の基礎実習

私は『霊長類を用いたシステム神経科学の基礎実習コース』に参加しました。定員は6名と少人数でしたが、様々な大学から学部生・大学院生が参加しており、脳科学に興味があるという共通点を除くと、現在の研究対象も研究内容も多彩でした。

講義では、霊長類の単一神経細胞記録について実験計画の立て方、手術の手法、計測手法、データ解析など体系的に学びました。私は霊長類で研究を続けたいと思っているので、詳細な講義内容が今後の研究内容を具体的に考える上で非常に助けになりました。他にも筋電・眼電・行動解析等の他の指標について学び、神経活動記録と組み合わせることにより、さらに研究に広がりを持たせることができることを講師の方々に具体的に教えていただきました。

座学以外にも、動物達が課題を遂行している間、神経活動データを取得しているところを間近で見せていただきました。目の前の個体の神経活動が画面に波形として現れる様子を目にし、研究の醍醐味を感じることができました。また、実際に動物達が行っている課題を私たちも予備知識なしで行い、動物達が非常に難しい課題を行うことが可能であることを実感し、霊長類を研究することの意義を改めて感じました。

また、コースの中日にはJam Sessionというイベントが設けられており、ランダムに振り分けられたグループで共通議題についてディスカッションを行いました。グループ内のディスカッションでは、非常にモチベーションの高い学生もいて刺激を受けました。最後にグループごとにプレゼンテーションを行ったのですが、それぞれが独創的な意見を発表しており、研究を進める上で他の研究者との意見交換、脳科学における他分野の方の視点の大切さを痛感しました。

全日程、講師の方々が生き生きと研究内容について話してくださり、参加者が終始笑顔で自由に発言・質問できる雰囲気だったのが印象深かったです。非常に有意義な勉強の機会と交流の場を設けてくださった玉川大学脳科学研究所の皆様方にお礼を申し上げます。

(早稲田大学 菊池瑛理佳さん)

ヒトのfMRI基礎実習

去る2012年6月28~30日、玉川大学脳科学トレーニングコース「ヒトのfMRI基礎実習」に参加させていただきました。私は動物の社会行動を行動薬理学的な手法で研究していますが、人間行動の神経科学的解明にも関心を抱いています。今後の研究の方向性を考える上で参考になればと、本コースに参加を申し込みました。

受講者は学部生から博士課程の大学院生まで、また純粋な興味で応募した方から実際にfMRI研究を始めようとされている方までと、バックグラウンドは様々でした。驚いたのは皆さんのモチベーションの高さです。初対面にもかかわらず、早速神経経済学などの話題で持ち切りとなりました。

1日目は受講者一人ひとりがfMRI実験の被験者となり、村山航研究員が中心となって行った研究(Murayama et al. 2010 PNAS)で用いられた「ストップウォッチ課題」を体験しました。ストップウォッチを5±0.05秒で止めると報酬が手に入ります。頭を固定され、実験者の方に監視された状態で課題を行うのは想像以上に緊張を伴うものでした。文献的には線条体など“報酬関連部位”の活動が高まることになっていますが、果たしてその通りになるのか、期待が膨らみます。

2日目の午前中は講義中心でした。fMRIの計測結果を解析するには、数値解析ソフトのMatlabを用い、SPMと呼ばれる専用のプログラムを走らせる必要があります。そこでまずMatlabの基本的な使い方をレクチャーしていただきました。次いで松元健二先生によるヒト脳の解剖学講義、松田哲也先生によるfMRIの原理に関する講義を受けました。

午後から実際にSPMを起動させ、個人データの解析に移りました。教示いただいた通りにSPMを操作していくと、各自の脳の活動マップが作成されました。私の場合は前頭眼窩皮質に賦活が見つかりましたが、予想通りに線条体が賦活していた方、目立った賦活部位が見つからない方も。fMRIの研究論文を読む際には専ら集団データに着目するので、個人差が大きいのは意外に思われました。

夜にはJam Sessionが開催されました。受講者をシャッフルしてグループを再編成し、1つのトピックスについて議論する催しです。話題提供は南本敬史先生で、モチベーションをいかに定量化するかがテーマでした。参加者のバックグラウンドが多様なこともあり、議論は容易にはまとまりませんでした。結局町田市某所で有志による2次会が催され、先生方も交えて日付が変わるまで語り明かすことになりました。

3日目には集団解析を行いました。少数のデータながらも、中脳腹側被蓋野付近に賦活を見出すことができました。最後に松元先生を始め研究室の皆様が、私たち受講者の矢継ぎ早の質問に答えて下さり、論文からは読み取れないfMRI研究の裏話を多数お伺いすることができました。実のところ私は「ヒトは他の動物と違い、トレーニングしなくても教示一つでタスクをこなしてくれるから実験が進め易そう」と、安易に考えていた節がありました。しかしそれは、人間は教示一つ・実験手続き一つで考えを変える、ということの裏返し。考えが変われば脳活動も変わってくるとのことです。こうしたfMRI研究の難しさ、そしておもしろさをフルに味わった3日間でした。

最後になりましたが、貴重な研究時間を割いて私たちの指導に当たって下さった先生方、ポスドク・大学院生の皆様に心より御礼申し上げます。またコースの運営や事務手続きを円滑に進めて下さった事務スタッフの皆様、協賛・後援企業各位、そして楽しく充実した時間を共にした受講者の皆様に深く感謝いたします。

(北海道大学 小倉有紀子さん)

赤ちゃんの脳波計測と最新の解析技術

私は大学で赤ちゃんの発達の研究をしています。脳波計測の経験はありませんでしたが将来的に乳児の脳波計測のスキルを身につけたいと思い、トレーニングコースを受講しました。

初日は、脳波計測のための環境設定や、頭囲の測り方や電極の付け方の練習を行いました。電磁波計を用いてノイズの大きさを測ったり、手や指で電極の位置を推定したりする実習です。2日目は、赤ちゃんラボの調査協力者である母子に実際に協力していただき、睡眠時の赤ちゃんの脳波計測を体験しました。電極を付け終わる前に赤ちゃんが目を覚まして泣いてしまうことが多く、計測の難しさを実感しました。その分、脳波の揺れを自分の目で確認できたときの喜びは大きかったです。3日目は理化学研究所の北城先生より、Matlabでの脳波解析のレクチャーを受けました。Matlabを使ったのは今回のトレーニングが初めてでしたが、基礎から教えていただき、グラフや図を描くことができました。

Jam Sessionでは異なる班のメンバーとも交流ができました。研究分野が異なる人とディスカッションをしたり、研究内容を共有したりする機会はなかなか得られないため、多くの刺激を受けました。

このトレーニングコースでは、知識を身につけるだけではなく、実習を通して脳科学研究の難しさやおもしろさを肌で感じることが出来ました。それは、私にとっては初めての貴重な体験であり、予想以上に有意義な3日間となりました。ここでの体験を活かして今後の研究を進めていこうと考えています。

最後になりましたが、非常にわかりやすく、かつ熱心に指導してくださった先生方、そして協力してくださった調査協力者のお母さまと赤ちゃんに感謝いたします。

(京都大学 田中友香理さん)

ミツバチの社会性を支える脳機能の観察

今年度から、脳科学トレーニングコースにミツバチのコースが加わりましたので、担当者の立場で体験談を書かせていただきます。

今回の実習では、花蜜や花粉を集めてきた働きバチが踊る8の字ダンスを観察・解析し、ミツバチがどのあたりまで採餌行動に出かけていったかを推定するという実験と、昆虫を材料とした学習実験の典型的な例として、ミツバチにある特定の匂いを嗅がせ、その直後に砂糖水を与えることで、匂いの後にエサがもらえるということを連合学習させるという実験を行いました。私自身は日ごろ分子生物学的な研究を行っているため、凍結保存されたミツバチを使うことが多く、今回のトレーニングコースで久しぶりに時間をかけて生きたミツバチを観察することができました。

8の字ダンスの解析や連合学習実験が上手くいくと、何となくミツバチとコミュニケーションが取れたような気がします。私はミツバチ以外にもショウジョウバエ、アブラムシ、コオロギなど色々な昆虫を研究した経験がありますが、コミュニケーションが取れたような錯覚を覚えるのはミツバチだけです。やはりミツバチが社会性昆虫で複雑で高度な社会的な行動をとる生き物だからだろうと思います。

参加してくれた受講生たちにとって、今回の実習が有益なものだったかどうか少し心配なところもありますが、ミツバチを使った研究のおもしろさなど、何かを感じ取ってもらえたことと期待しています。

(佐々木哲彦)

Jam Session~分野を越えて思考の調和を奏でよう~

6月28日~30日にかけて行われた玉川大学脳科学トレーニングコースの2日目夜のプログラムには「分野を超えて思考の調和を奏でよう」という趣旨でJam Sessionが行われました。Jam Sessionという言葉は、ジャズ音楽の即興演奏を表すこととして使われているのですが、脳科学に異なる領域・手法を用いて取り組む参加者たちが、即興で一つのテーマを考える機会として設けられたそうです。プログラムでは、心の仕組みを計算論的に明らかにする、をテーマに5つの実習コースから横断的に新たなグループを組んで議論を行いました。

初めに、放射線医学研究所の南本先生より、アカゲザルを用いた研究が紹介されました。実験では、提示された条件でレバーを押すと条件に応じた水の量が報酬として与えられる訓練をアカゲザルに与えたところ、期待される水の量が少ない場合には、レバーを押すことを「拒否」することが観察されました。更に「拒否率」は、「報酬となる水の量」に反比例することが報告されたのです。

この拒否率と報酬の関係は、(1)生物種を超えて観察されることなのか、また、(2)それをどのような方法で確認すればよいかを、グループに分かれて議論を行いました。異なる研究背景を持つ参加者が、それぞれの知見を活かして意見を交わします。霊長類、マウス、魚類から分子レベルまで参加者の日頃の研究対象は異なります。私は普段、ヒトの運動制御をテーマに研究しており、「心の仕組み」を扱う神経心理学や実験動物に関する議論は非常に新鮮でした。  グループ討議の結果は、全体討論で順番に報告されました。先の(1)、(2)については、グループによって意見が分かれていました。それぞれのグループが独自の視点から議論を展開し、実験設定についてもミツバチならどうやって拒否を定義するか、という技術的な議論から、ヒトには報酬を際限なく与えると拒否がそもそも起きない、といった哲学的な側面まで広がりをみせました。講師の先生方も一緒に議論していただき、素晴らしい思考のハーモニーが奏でられたと思います。

脳研究は、今回のSessionのように多岐にわたる手法を用いて、脳の仕組みを解き明かしていく領域です。自らの研究領域に加えて、他領域からの意見をうまく取り込んでいくことが斬新なアイディアを生み、発見へとつながる力になると思います。3日間のトレーニングコースに、そうした研究活動へのヒントになるSessionを取り入れていただけたおかげで、非常に大きな収穫を得られたように感じています。

最後に、お世話になった講師やスタッフの皆様、参加者の方々に厚くお礼を申し上げます。これからの脳科学の更なる発展を願い、このような機会をご提供いただいた玉川大学にこの場をお借りして感謝申し上げます。

(東京大学 山本暁生さん)