玉川大学脳科学トレーニングコース2013が開催されました

2013.07.25

2013年5月30日(木)から6月1日(土)までの3日間にわたり、脳科学研究所において、「玉川大学脳科学トレーニングコース2013」が開催されました。このトレーニングコースは、脳科学の発展と普及を目的として、脳科学を志す学部学生、大学院生、若手ポスドクを対象に、学際的な研究手法の基礎と応用を実習で学んでもらうことを目的としています。

第3回目となる今回のトレーニングコースでは、5つの実習コースに全国から計117名の応募があり、書類選考で選ばれた27名の方が受講されました。

実習コース

1.ラットのマルチニューロン記録と解析法コース(受講5名)

担当:礒村宜和

2.霊長類動物の行動・神経計測技術コース(受講6名)

担当:鮫島和行、坂上雅道、木村實

3.ヒトのfMRI基礎実習コース(受講6名)

担当:松元健二、松田哲也

4.赤ちゃんの脳波計測と解析の基礎コース(受講4名)

担当:佐治量哉

5.逆転写定量PCR法による遺伝子発現解析コース(受講6名)

担当:佐々木哲彦、原野健一

共通プログラム

MATLABプログラム講習会(1日目)

開会式・懇親会(1日目)

ランチョンセミナー「社会科学にとっての脳科学の意義」(1日目)

講師:山岸俊男(東京大学特任教授、玉川大学元教授)

Jam Session~分野を越えて思考の調和を奏でよう~(2日目)

担当:酒井裕

閉会式(3日目)

受講者の皆さん、3日間の実習お疲れさまでした。今回の脳科学トレーニングコースにより、一人でも多くの受講者が将来の脳科学の担い手となって活躍してくれることを心から期待しています。

  • 主催玉川大学脳科学研究所
  • 共催玉川大学大学院脳情報研究科・工学研究科
    玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター
    私立大学戦略的基盤形成支援事業「記憶・学習の可塑的発達機構に関する統計的解析」
    心の先端研究のための連携拠点(WISH)構築
    文部科学省科学研究費補助金「ヘテロ複雑システムによるコミュニケーション理解のための神経機構の解明」
    文部科学省科学研究費補助金「予測と意思決定の脳内計算機構の解明による人間理解と応用」
  • 後援文部科学省科学研究費補助金「包括型脳科学研究推進支援ネットワーク」
  • 助成日本神経科学学会
  • 協賛尾崎理化株式会社
    小原医科産業株式会社
    バイオリサーチセンター株式会社
    株式会社フィジオテック
    マスワークス合同会社

受講者の声

ラットのマルチニューロン記録と解析法

今回、ラットのマルチニューロン記録と解析法に参加させていただきました。私はげっ歯類を用いた睡眠覚醒研究を行っていますが、今後インビボ電気生理手法の導入を考えており、受講を希望しました。また応募用紙には書きませんでしたが、インビボニューロサイエンスの優れた論文を数多く発表する礒村研の、研究戦略や技術の工夫を学びたい気持ちも強くありました。

1日目は、まず礒村先生よりラボの研究方向性、研究目標と手法について要点を解説していただきました。続いて、極めて効率的なオペラント学習を可能とするスパウトレバー装置と、ラットの前肢運動訓練を見せていただきました。一見簡単な装置の工夫が、驚くほどの実験効率と成果を上げるアイディアに驚かされました。またラボ内の様々な実験装置と、硬膜開窓術を見学しました。夜の懇親会では他の研究室の先生方ともお話させていただき、様々な分野の研究者による多彩な脳機能へのアプローチ法を知り、大変勉強になりました。

2日目は、行動タスク(前肢運動)中のラットのマルチニューロン記録と傍細胞記録を見学させていただきました。続いて、覚醒ラットでの記録を可能にする頭部固定具の取付け手術、コネクタ作成を見学しました。いずれも、使用製品や手技の細かい工夫まで丁寧に教えていただき、極めて実用的かつ有意義な見学となりました。夜のJam sessionでは、文系理系の多様な分野の参加者と一つのテーマについて話し合い、異分野の研究者とのディスカッションにより自分の視野が広がることを経験しました。

3日目は、実験で記録した多数のニューロンのスパイク活動を分離するスパイクソーティングについて教えていただき、自動ソーティング後の手動ソーティング(自動解析の手動修正)の実習がありました。このような解析は私には慣れないものでしたが、その手順と意味を充分に理解することができました。

今回5名のコース受講者は、学部生から助教まで、また理論系から既に同じ手法で実験している人まで多彩でしたが、皆それぞれが収穫を得て満足していたように思います。3日間の実習の間、質問には全て答えていただき、ラボの全てを惜しみなく見せていただき、礒村研ならではの最先端技術を学べたことに大変感謝しています。また様々な分野の脳科学研究者と知り合えたことも、私にとっては収穫でした。最後になりましたが、貴重な研究時間を割いて御指導下さいました礒村先生、スタッフ・大学院生の方々、また玉川大学脳科学研究所の関係者の皆様に心より御礼申し上げます。

(北海道大学 夏堀晃世さん)

霊長類動物の行動・神経計測技術

私は鮫島和行先生が主担当である「霊長類動物の行動・神経計測技術」コースに参加させていただきました。

1日目は、霊長類を用いて研究することの意義や頭部固定法・電気生理計測法の基礎を学びました。例えば頭部固定法における「fMRIの画像を曲げずに固定の強度を増すための工夫」など、論文には載ってこないノウハウを聞くことができ、実験の準備段階の手順についてより具体的にイメージを持てるようになりました。その後は坂上雅道先生から眼球運動の基礎と測定方法についての講義をいただいた後、眼球運動計測装置を用いた行動実験を体験しました。夜にはトレーニングコース全体での懇親会が開催され、班内の親睦を深めるとともに様々な方の貴重なお話を伺うことができました。霊長類班には様々な研究バックグラウンドを持っているメンバーが集まっており、研究に対するモチベーションについて語ることなどを通して、非常に大きな刺激を受けることができました。

2日目は、木村實先生から行動計測の意義や計測法の基礎、行動計測を用いた先行研究などについて講義をいただきました。1日目と同様座学だけではなく、筋活動計測を用いた実験を実際に体験し、実験・計測システムの基本的な扱い方を知ることができました。またこの日は実際に実験を行なっている現場を見学することができました。3日間を通して特に印象に残っているのはこのカリキュラムで、検証したい仮説からそれを検証するための実験系をご紹介いただいた後、実際の実験を計測器に出力される生データと共に見ることができました。その他にも切片染色の体験や逆行性刺激法の装置見学、実験タスク訓練の見学など、まさに研究の現場を見ることができました。座学で学んだ理解を深めるとともに、高次機能の神経メカニズムを解明する営みを体感することができ、大きな興奮と感動を覚えました。

3日目は、実験体験で計測した行動計測データをMatlabで解析する方法を学んだ後、実験課題の訓練方法について学びました。訓練方法については、実際に自分たちで訓練をすることができるレベルのノウハウを惜しみなく知ることができ、大変参考になりました。最後に鮫島先生が取り組まれている研究のご紹介と実験タスクの体験ができたことで、今後自身が研究に取り組む大きなモチベーションとなる締めくくりとなりました。
3日間を通して、論文や書籍を読むだけでは分からない実験の現場を体験することができ、理解を深めることができました。また、お忙しい中惜しみなく第一線のスキルやノウハウを教えていただいた先生方や研究員の皆様をはじめ、様々なバックグラウンドと高いモチベーションを持った受講生の皆様と交流できたことはとても刺激的で、今後に大きく役立つ財産となりました。皆様方と、トレーニングコースを支えていただいたスタッフの方々に、この場を借りてお礼を申し上げます。

(企業研究所 沖津健吾さん)

ヒトのfMRI基礎実習

「“私”は、この世界に確かに物理的に存在していた。」

都心に帰る夜の小田急線に揺られながら、ぼんやり思い返していました。
それは、素直な驚きでした。その日、初めてディスプレイに映る自分の脳のMRI画像を見たのでした。私が生まれる前から仕組まれたある枠組みをもって、私の棲家とする「脳=身体」はかくしてそこにありました。
私の現在の研究テーマは、ヒューマノイド型の会話ロボットを用いて社会的行動の認知プロセスをモデル化することです。普段は違う分野・手法で研究していましたが、もっと神経科学に踏み込んで探求したいと思っていたところだったので、今回のセミナーは脳機能イメージングに入門するには絶好のタイミングとレベル設定でした。

初日は、さっそくfMRIの撮影を行いました。今回のセミナーの課題はMurayama et al. による「アンダーマイニング効果」をfMRIにより世界で初めて捉えた研究 [1] を参考に、それを部分的に追実験することを通してfMRIの手法を学ぶというものでした。特に金銭的な報酬があるときにどの部位が活性化するかを確認する課題設定となりました。上記の研究で行われたものと同じ「ストップウォッチ課題」を行い、各参加者のfMRIデータを撮影しました。

2日目は、各個人の脳活動データの解析を行いました。本格的な解析に先立って、松元教授から脳の解剖学的理解に関する講義、松田准教授からfMRIの原理と実験設計に関する講義をしていただきました。続いて、蓬田研究員からSPMを用いた解析方法をハンズオンで講義いただきました。
3日目は、前日の各参加者のデータをもとにグループ解析を行いました。今回はごく少数の被験者数だったので、先述の論文で語られるように線条体付近が活性化しているかどうか統計的に結論を導き出すにはデータが少なすぎるものでしたが、仮説の可能性を感じるには十分なものでした。予想に反して他の部位が同時に活性化していたことに関しても盛んな議論が起こりました。仮説を立証するためには、現象に対して誠実にあって、実験条件のデザインや被験者への教示のひとつひとつについてあくまで慎重に手続きを踏まなければなりません。その上で得られる結果には、必ず目を開かせるような知見があります。fMRIを通して改めて学んだのは、そのまさに科学の基本的な作法でした。

修了式後には、脳科学研究所の各研究室の見学をさせていただきました。私は、岡田浩之研究室(認知発達ロボティクス)、酒井裕研究室(神経計算論)、鮫島和行研究室(計算神経科学/認知神経科学)などを見学させていただきました。サルを用いた実験手法から神経計算論まで、夢中に聞いているうちに予定の見学時間も大幅に超えて日が暮れるまでお邪魔することになってしまいました。私自身の研究についてもお話しさせていただく機会もあり、分野横断的な非常に示唆に富む議論ができました。例えば「社会性」の定義にしても、分野が違えば見ている現象や抽象度が全く違うものです。その都度定義を合わせながら議論をしていく過程は、それ自体ワクワクするような知的冒険でした。

実に素晴らしいセミナーでした。磯村先生をはじめ準備に関わった方々は、セミナー資料から食事に至るまで、滞りない進行のためにも多くの労力を費やされたことと思います。ありがとうございました。また、fMRIコースをお世話いただいた松元先生、松田先生はじめ、青木さん、蓬田さん、Adamさん、阿部さん、その他の研究室関係者の方々にもこの場を借りて改めてお礼を申し上げます。今後の研究活動に大いに活用させていただくと共に、玉川大学の先生方や他の参加者の方々とのお付き合いも続けさせていただければと思っています。

(早稲田大学 松山 洋一さん)

  • [1] Murayama et al. "Neural basis of the undermining effect of monetary reward on intrinsic motivation." Proceedings of the National Academy of Sciences 107.49 (2010): 20911-20916.
    (http://www.tamagawa.ac.jp/brain/news/101206_01.html)

赤ちゃんの脳波計測と解析の基礎

私はこれまで、脳波(EEG)や機能的近赤外分光装置(fNIRS)を用いて、成人の脳機能に関する研究を行ってきました。今回、小児の脳機能を計測するためのスキルを学ぶために、脳科学トレーニングコースを受講しました。

1日目は、赤ちゃんの脳波計測のための研究倫理、基礎知識、環境設定などについて学びました。実習では、赤ちゃんの人形を用いて頭囲の計測ならびに脳波電極の装着を行いました。赤ちゃんを対象とした脳波計測では、成人を対象とした際とは異なり、様々な面において“特別な配慮”が必要であることを経験しました。また、電磁波測定器を用いて、どのような場所からノイズが出現し、どのようにしたらそのノイズを軽減できるかを実際に確認することができ、脳波計測のための最適な環境作りについて改めて考えさせられました。

2日目は、4組の母子にご協力いただき、赤ちゃんの睡眠時脳波の計測を行いました。この実習では、1日目に学んだことを実際の赤ちゃんを対象として経験することができました。今回の計測が睡眠時脳波であったこともあり、実際に計測できたのは2組だけでしたが、成人を対象とした際とは異なる難しさを学ぶことができました。

3日目は、Matlabを用いて2日目に計測した脳波データの解析を行いました。Matlabを解析で使用したのは今回が初めてでしたが、ひとつひとつ丁寧に教えていただきました。ここでは、周波数解析とその図の作成について学びました。

今回のトレーニングコースでは、赤ちゃんの脳波計測に必要な基礎知識と手技、脳波解析法について学ぶことができ、大変有意義な3日間を過ごさせていただきました。今回学んだことを基にして、今後の自分の研究を大きく発展させたいと思います。

最後になりましたが、今回の脳科学トレーニングコースを開催してくださった先生方、赤ちゃんコースで非常にわかりやすくかつ丁寧に指導してくださった佐治先生、そして脳波計測にご協力いただいたお母さんと赤ちゃんに深く感謝いたします。

(畿央大学 中野英樹さん)

逆転写定量PCR法による遺伝子発現解析

私は5月30日から6月1日の3日間、脳科学トレーニングコース2013の「逆転写定量PCR法による遺伝子発現解析」コースに参加いたしました。このコースはセイヨウミツバチを用いて、採餌蜂と育児蜂間におけるMRJP1とαグルコシダーゼ遺伝子の発現量を、リアルタイムPCR法を用いて比較するという内容で、私は自分の今後の研究に広がりを持たせられればと思い、今回このコースを受講させていただきました。

初日は開会式の後、まずミツバチ科学研究所の蜂場を見せていただきました。私は普段からミツバチを扱っていることもあり蜂の巣箱は見慣れているのですが、行動観察巣箱や養蜂環境などとても参考になりました。次に下咽頭腺の摘出の為、ミツバチの頭部の解剖を行いました。頭部の解剖を行ったのは初めてでしたが、佐々木先生や研究員の方に丁寧に教えていただけたので何とか解剖を行うことができ、ミツバチの脳の構造を実際に見て知ることができました。こうして得られたサンプルを用いて、RNAの抽出を行いました。
二日目はcDNAの合成と逆転写定量PCRを行い、最終日は得られたデータの確認を行いました。佐々木先生がプロトコールの意味を一つ一つ丁寧に教えて下さり、RNAやcDNAが現在どういう状態で存在しているのかを鮮明にシミュレーションしながら作業を進めることができました。今回初めて逆転写リアルタイムPCRを通してやってみたのですが、理論通りにPCR産物が増え、得られたデータから作成した検量線からも期待する結果が得られたということが、単純ながらも非常に達成感があり、実験の面白さや奥深さを思い知らされたような気がいたしました。

二日目の夜には、JamSessionという一つのトピックについて即興的に行うディスカッションを初めて体験させて頂きました。トピックの内容が自分の専門ではないという方のほうが多く、自らの得意分野をトピックに関連付けたりして手探りのような形で進めていったのが、とても面白いなという印象を受けました。

今回のトレーニングコースには非常に様々な専門の方が参加されていて、初日に開催していただいた懇親会やJamSession、コース実習を通してお話させていただく機会が多々ありました。そういった他大学・異分野の方々や、玉川大学の先生方、ポスドクの方とのお話は自分の狭い興味を大きく広げるきっかけとなり、大変刺激になりました。貴重なお時間を私達のために割いて下さり、また、このように有意義な勉強と交流の場を設けて下さった玉川大学脳科学研究所の皆様方、今回のトレーニングコース関係者の皆様方に深く感謝申し上げます。

(筑波大学 齋藤佳奈さん)