「選択の機会の平等」を感じる脳の部位を発見

2014.05.01

-米国科学雑誌に論文を発表-

玉川大学脳科学研究所(町田市玉川学園6-1-1 所長:木村 實)の松元 健二(まつもと けんじ)教授と青木 隆太(あおき りゅうた)研究員らは、人間の脳が「選択の機会の平等」に対してどのように反応するかを、脳機能イメージング法を用いた実験により世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、米国の科学雑誌“The Journal of Neuroscience”に2014年4月30日(米国東部標準時間)に掲載されました。

【掲載論文名】
Social equality in the number of choice options is represented in the ventromedial prefrontal cortex(選択肢の数についての社会的平等性は前頭前野腹内側部において表現される)

 

人間社会における平等や公平性を考えるうえで、「機会の平等」は「結果の平等」と並ぶ重要な概念です。「結果の平等」に脳がどのように関わっているかについては近年の研究により分かってきていましたが、「機会の平等」に脳がどのように関わっているかについては何も分かっていませんでした。本研究では、「機会の平等」を「人々の間での“選べる選択肢の数”の平等」として定義する経済学理論をベースにした実験課題を開発し、「機会の平等」に対する脳の反応を「結果の平等」とは区別したうえで検証することに成功しました。

実験の結果、金銭的報酬(お金)が得られるときや心地よいと感じることがあったときに活動する脳の領域のうち、前頭前野腹内側部という領域が「選択の機会の平等」の度合いに応じた活動を示し、対照的に線条体という領域は「選択の機会の平等」とは無関係に自分の選択肢の数の多さに応じた活動を示すことが分かりました。これらの結果は、他者との「機会の平等」を求めることに、前頭前野腹内側部が重要な役割を果たしていることを示唆しています。本研究成果は、近代の人間社会において、「結果の平等」だけでなく「機会の平等」も考慮されるようになった理由についてのひとつの自然科学的な説明を提供し、社会制度設計の在り方にも洞察を与えるものと期待されます。

資料

実験方法

実験参加者(大学生男女20名)は、何枚かのトランプカードの中から1枚を選び、それが「アタリ」のキングだったら報酬(お金)をもらえるトランプゲーム課題に、もうひとりの相手プレイヤー(初対面の別の大学生)と同時に取り組みました(図1)。このゲームでは、毎回4枚のカードが配られますが、4枚のどのカードからも自由に選べる条件に加えて、選べる選択肢が、実験者に指定された2枚もしくは1枚のカードに制限されている条件も存在しました。実験参加者の選べる選択肢と相手の選べる選択肢は毎回、別々に指定したので、実験参加者の選べる選択肢の数は、相手より多かったり、少なかったり、等しかったりしました。常に、4枚のカードのうち半分の2枚が「アタリ」であったので、選べる選択肢の数によらず、報酬が得られる確率は常に一定の50%であり、実験参加者もこのことを十分理解していました。実験参加者には、このゲーム課題を磁気共鳴画像撮影装置(MRI)の中でおこなってもらい、課題に取り組んでいる最中の脳活動を測定しました。ゲーム終了後、実験参加者は、自分と相手が選べる選択肢の数の組み合わせ(9通り)のそれぞれに対して、どのような感情(うれしかった、かなしかった、など)を抱いたかを評定しました。

実験結果

ゲーム終了後の感情評定の結果から、自分(実験参加者)と相手プレイヤーの選べる選択肢の数の差が小さく平等なほど、ポジティブな感情が高まることが確認されました。これに対応して、脳活動解析の結果からは、金銭的報酬に対して反応する脳領域(図2)のうち前頭前野腹内側部は、自分と相手プレイヤーの選べる選択肢の数の差が小さく平等なほど、活動が高まることが分かりました。一方、金銭的報酬に対して反応するもうひとつの脳領域である線条体は、自分自身の選べる選択肢の数が多いほど活動が高まり、相手の選べる選択肢の数との平等性には無関係であることが分かりました(図3)。

前頭前野腹内側部や線条体は、金銭的報酬を得た場合や自分にとって良いことがあった場合に活動が上昇する領域として知られています。本研究で用いたトランプゲーム課題では、選べる選択肢の数やそのプレイヤー間での平等性自体は金銭的報酬とは無関係であったにもかかわらず、これらの領域に活動がみられた点で注目されます。

実験の成果

「選べる選択肢の数の平等」に対して前頭前野腹内側部が特異的に反応するという本研究の結果は、「機会の平等」が人間の脳内でどのように処理されているかを解き明かすための第一歩となる知見です。また、これまで社会学・政治学・哲学において盛んに議論されてきた「機会の平等」について新たな視点を提供することで、融合科学としての社会脳科学の推進に貢献するものであり、社会制度設計の在り方にも洞察を与えるものと期待されます。

<図1>実験に用いたトランプゲーム課題の模式図

ゲームの開始時、自分(実験参加者)と相手の選べる選択肢の数が呈示された。課題の流れを示した図の例では、自分の選べる選択肢の数が2つであるのに対して、他者の選べる選択肢の数が4つであることを意味している。実験で用いた、自分と相手の選べる選択肢の数の組み合わせ9通りを拡大して示してある。各プレイヤーが選択肢の中からひとつずつ選んだ後にトランプのカードが表示され、選んだ場所に「アタリ」のカード(キング)が現れた場合に報酬を得ることができた。図には、自分は「ハズレ」、相手は「アタリ」であった例を示している。

<図2> 前頭前野腹内側部と線条体

金銭的報酬が得られるときに活動する前頭前野腹内側部(緑色)および線条体(赤色)の場所。これらの領域は、画面上に図形が表示されたときに素早くボタンを押すことができればお金をもらえるという課題を用いて同定した。

<図3> 「選択の機会の平等」に対する脳の反応

金銭的報酬に対して反応することが確認された脳領域のうち、前頭前野腹内側部は自分と相手の選択肢の数が平等に近いほど高い活動を示した。対照的に、線条体は自分の選択肢の数が多いほど高い活動を示し、選択肢の数の平等性とは無関係であった。誤差線は標準誤差を、*は統計的に有意(p < 0.05)な変化をあわらしている。