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玉川大学脳科学研究所特別講演会が開催されました

2014.12.01

2014年10月31日(金)に、基礎脳科学研究センター主催の特別講演会が開催されました。
本講演会では、我が国のげっ歯類の心理学的・神経生理学的研究をリードしてこられた櫻井芳雄先生に、オペラント条件づけを利用した行動・電気生理実験の基本技術と最先端のニューロオペラントに関する研究成果を、松崎政紀先生に、運動課題を学習するマウスの大脳皮質の層特異的な機能的活動の変化を数週間にわたり二光子イメージングで追跡した最新の研究成果を紹介していただきました。

報告書

「齧歯類の高次行動のオペラント条件付け」
櫻井 芳雄教授(京都大学大学院 文学研究科心理学研究室)

京都大学大学院文学研究科心理学研究室の櫻井芳雄教授に、「齧歯類の高次行動のオペラント条件付け」というテーマでご講演していただいた。櫻井先生の豊富な経験に基づいた、齧歯類のオペラント条件付けの訓練手順や詳細な方法、注意点についてご教授いただき、さらに神経細胞にオペラント条件付けするニューラルオペラントと、その技術を用いたBMI(ブレイン‐マシン・インターフェース)についてご紹介していただいた。

具体的には、まず実験を行う前のハンドリングはその有無が実験結果に影響するので必ず行う必要がある。次に体重統制や装置馴化は一律ではなくラットの個性に合わせ、個体ごとに実験を行う最適な状態を見極めることが重要である。また強化子摂取訓練では即時強化することが最も重要であり、そのためには条件性強化子が必要である。餌などを強化子として用いる場合、条件性強化子によって正しい反応をした時すぐに強化することができる。さらに行動形成では目的とする行動に近い反応が出現したら強化し、それを繰り返して反応が増幅したら消去するという手順を繰り返すことで段階的に目的とする行動に近づけていく。これらの点を、行動形成を成功させるポイントとして挙げられた。

課題訓練では、行動形成の時とは対照的に、最初からその課題の最終形の訓練を行う。初期の簡単な課題から訓練させるとその時の簡単な解決法が身についてしまい、最終目標とする難しい課題ができなくなってしまう。したがって課題訓練では最後の目標とする反応からさかのぼって訓練を行う。また複数課題の訓練の場合も同様に、より難易度の高い課題から訓練を行う。加えて、偶然による正解を避けるため試行間間隔と矯正試行も必要である。このように、適切な手順に従えば、オペラント学習の行動実験を容易に実現できるとのことであった。

ニューラルオペラントとはニューロンの活動をオペラント条件付けしたものであり、運動出力型BMIを実現化する方法として有力である。例えばロボットアームを動かして物を掴み取るという目標を達成することはそれ自体が報酬であり、それにより神経活動が強化され増加するというのは、報酬を与えられた行動が強化されて増加することと原理的に同じである。オペラント条件付けにより神経活動を自ら自在にコントロールすることは、今後BMIの研究に必然的に含まれると語られた。

櫻井先生による詳細なオペラント条件付けの訓練方法の解説は大変有意義であり、またニューラルオペラントのお話ではオペラント条件付けの新たな可能性やBMIの実現化に大きな期待と刺激をいただいた。


報告者 重住宙(玉川大学大学院 脳科学研究科 修士課程1年)

「運動学習中のマウス大脳皮質運動野細胞活動のダイナミクス」
松崎政紀教授(基礎生物学研究所光脳回路研究部門)

今回の講演では、運動学習課題遂行中のマウスから二光子イメージングを行うシステムの開発(Hira et al., J.Neurosci., 2013)、数週間にわたる運動学習中における一次運動野2/3層と5a層における細胞活動の変化(Masamizu, Tanaka et al., Nat.Neurosci., 2014)、二光子イメージングによる単一細胞オペラント条件づけを用いて明らかにした大脳皮質運動野2/3層における報酬タイミング依存的な短期可塑性(Hira et al., Nat.Commun., 2014)、の三本柱で最新研究をご紹介いただいた。

運動や学習といったさまざまな脳の機能解明のためには、個々の細胞レベルだけでなく、神経細胞集団の活動パタンから回路としての理解が重要である。多くの細胞活動を同時に記録できる二光子イメージングは強力なツールであるが、この方法を用いるためには顕微鏡と対象とする脳領域の位置関係が動かないように頭部を固定する必要がある。そのためまず頭部固定マウスに運動課題を学習させ、数週間にわたって記録が可能な実験・(画像)解析システムを開発した(Hira et al., J.Neurosci., 2013)。これまでも歩行やグルーミング、舌なめ行動(Licking)のような生得的な行動を用いた課題では報告があるが(Dombeck et al., 2009; Komiyama et al., 2010)、ヒトや霊長類のように手を器用に使った課題(Kimura et al., J.Neurophysiol., 2012)であることは大脳皮質運動野の活動解析を行う上でも効果的であると考えられる。

次に、このような運動課題の学習経過に伴う大脳皮質運動野の変化を調べた(Masamizu, Tanaka et al., Nat.Neurosci., 2014)。具体的には細胞活動からレバーの動きをどの程度予測できるか(予測精度情報量)を計算し、レバーに関係する細胞活動を定量した。大脳皮質運動野の出力層(第5b層)の錐体細胞には第2/3層と第5a層が投射を持つが、これらの2つの層はそれぞれ運動学習の進行に伴って異なる様相を見せた。第2/3層の細胞は、集団として、予測精度情報量は学習前後で変化しなかったのに対し、第5層の細胞は学習前よりも学習後で予測精度情報量は増大した(およそ1/3の細胞)。興味深いのはこのように学習前後で予測精度が増大する細胞の情報量の上がり方が、実際の行動パフォーマンスの学習曲線の「後」から追随して起きていることである。これらの層特異的な活動パタン変化は、学習ステージへの異なる関与を反映している可能性があると考えられる。

また最新の研究として、二光子イメージングで観察した細胞活動でのオペラント条件づけを行い、報酬タイミング依存的な短期可塑性が起きること、そしてこの短期的な活動調節が光遺伝学的手法を用いた局所的な操作によって再現できることも示した(Hira et al., Nat.Commun., 2014)。

さまざまな機能を実現する脳のメカニズム解明のためには、厳密なタスクコントロールと精密な脳活動の計測・操作が不可欠である。そのような頑健なデータに基づいたストーリーを語る松崎先生のお話には強い説得力を感じた。


報告者 山中航(玉川大学 脳科学研究所)

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