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2024年・冬 人類と感染症

冬季になって、インフルエンザ、ノロウイルスなどの感染症が増えてきました。こうした感染症は、私たちの祖先の時代より、常に人類と攻防を続けています。こうした感染症について、歴史上の事実から現在や今後について考えてみたいと思います。

人類史と感染症

紀元前3000年には、西アジアで麻しん(はしか)流行の記録があり、その後紀元後1000年ころに日本にも伝わったといわれます。また、紀元前のミイラには、天然痘や結核に感染した痕跡が発見されているそうです。人類の移動と共にこれらの感染症は世界中に拡がり、多くの死亡者が発生し続けました。やがて20世紀になり、天然痘ワクチン(種痘)が開発され、1980年にはWHOが天然痘の根絶を宣言するに至りました。麻しんは現在、ワクチンの普及率によって地域や国で感染者数の差がみられる状態です。また、結核は1930年代を中心に日本でも不治の病として大流行しましたが、現在は治療薬の効果で死亡率が大幅に下がりました。しかし同時に、治療薬に耐性を示す結核菌が増えたことも問題となっています。このほかにも人類は常に新しい感染症にさらされました。なかでもインフルエンザは何度も型を変えてパンデミック(世界的大流行)を起こし、特に20世紀初頭、「スペインかぜ」と呼ばれる新型種では、世界中で4000万人以上の人が死亡したとされます。最近でも世界で約2万人の死亡者が出た「2009年新型」によるパンデミックは記憶に新しいところです。

ここまで例に挙げた4つの感染症は、結核は細菌(結核菌)、その他はウイルスが病原ですが、実は一つの共通点があります。それは4つとも飛沫感染、あるいは飛沫核感染(空気感染)で人から人へうつるということです。人はコミュニケーションのツールとして言語体系を著しく発達させてきた動物です。咳などの飛沫で拡がる病原体にとって、人間社会は絶好の媒体となるわけです。

新興感染症

現在も次々と新たな感染症が発生しており、私たちも古代の人々と同じように過剰反応や混乱をおこしてしまいがちです。2019年に発見され2020年より世界中に広がった新型コロナウイルス感染症は、世界中をパンデミックの渦に巻き込みました。

新興感染症がおこる背景には、いくつかの条件があるとされています。細菌やウイルスなどの微生物自身、生き残って子孫を増やす(増殖する)ために次々と変異していきます。また、新興感染症がおこるための条件の核となる部分は、人間自身が作り出していると考えられます。たとえばコロナウイルスは、野生動物を宿主として生息していたところ、人間がその動物を扱うことで変異が起こり、人に広がった可能性が考えられています。また、アジアやアフリカなどで発生するデング熱は、もともと熱帯地方で繰り返し流行する「風土病」の一つです。ウイルスは、感染者を刺した蚊によって運ばれ、その蚊に刺された他の人にうつります。グローバルな人や物資の流通によって蚊や感染者が日本へ運ばれ、温暖化の中で日本でも蚊が繁殖し、感染を広げる危険性が指摘されています。

感染症と人類の攻防

世界で絶えず発生する感染症に対して、人類はこれまでに様々な対処方法を発見・開発してきました。中世にペストが猛威をふるった時、城壁を閉ざして感染者が入れないようにしたという話がヨーロッパ各地に残されています。当時より経験的に「隔離」という概念があったようです。隔離は感染を拡大させないため行われる基本処置ですが、人の尊厳に最大限の注意を払うことが求められます。さらに近代になると、上下水道の設備など感染症防止のための公衆衛生学的手法も用いられるようになりました。

治療薬とワクチンは、人類が科学の発展によって得た感染症克服法です。ワクチンは無害化した病原体やその遺伝情報などより作られ、これを接種することで病気にならずに免疫をつくります。天然痘ウイルスは、ワクチン(種痘)の普及によって根絶されたと考えられています。ワクチンは、接種した人がその病気に罹りにくくなるだけでなく、多くの人々が免疫を持つことで病気自体を社会から減らし、接種が受けられない人も助けることができます(集団免疫)。副反応のリスクも正しくとらえ、ワクチン接種を進めることが重要です。治療薬としては、細菌感染症に対してペニシリンなど多くの抗生物質が開発されてきました。しかし、抗生物質の過剰な使用は耐性菌(薬の効かない細菌)を生むという問題が発生しています。なお、抗ウイルス薬は、今もその種類が少なく、抗インフルエンザ薬、抗コロナウイルス薬などを除くと、多くのウイルスには今でも治療薬がありません。

個々の特徴を知ること

感染症には、病原体、感染経路、致死率などそれぞれに特徴があります。この特徴を知ることは、効果的対処のために最も重要なことです。ただ、病原微生物が人類より先に絶滅することはありません。感染症には正確な情報を持って謙虚に向き合い、少しでも人間にとって有利な形に病原体を制御してゆくことが、正しい対峙方法といえるのではないでしょうか。

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