科学するTAMAGAWA 理科教育の枠にとどまらない玉川学園のSSH
“次世代を担う人材育成”の取り組みが実施されるなど、刻々と変わる高校教育の現在。
玉川学園ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
第2期SSHは“探求する楽しさを知る”
玉川学園は、「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」を2008年度に1期目、2013年度に2期目の5年間指定を受け、科学技術分野の人材の育成に力を入れています。SSHの担当主任であり、高学年の理科の担当でもある森 研堂(もり けんどう)教諭に、玉川学園における第1期(2008年度~2012年度)および第2期(2013年度~)SSHの取り組みやその目的、課題や今後の取り組みなどについて話を聞きました。
「第2期となった玉川学園のSSHですが、その理念・目的である“先進的な理数教育・科学技術教育を通じた将来の科学者の育成”を目指すことは第1期、第2期ともに同じです。また、課題研究や高大連携での取り組み、実践研究など独自のプログラムで、“生きていくために必要な力を伸ばす玉川のSSH”というスタンスにも変わりはありません。相違点は、第1期は高大接続を軸に、生徒たちの夢の先にある先端技術やその研究にふれる機会を設けることに力を入れてきました。生徒たちの自主的な活動という側面から、放課後にそうした時間を設けることが多かったように思います。第2期は自らが主体となって授業の中で探求する楽しさを体験する機会を多く設けるようにしています。何かを見つける面白さ、わかる楽しさだけでなく、研究をきっかけに大学の先生と話ができるうれしさも味わえるようにしています。これまでにも、9‐11年生(中学3年生‐高校2年生)の段階で、生徒自身が物事を考え組み立てていく必要性を感じていました。システマチックな探求の環境を整えるために参考にしたのが、本学で2007年度より実施しているIB(International Baccalaureate=国際バカロレア)プログラムです」
自分を客観視し、今の自分を知ることが大切
授業の中で探求する楽しさ、わかる楽しさを実感・実体験してもらうのが『OPPAシート』です。OPPAとはOne Page Portfolio Assessmentの頭文字をとった言葉で、ポートフォリオ評価と呼ばれるものです。授業終了前に授業で得られた自らの考えや感じたことを1枚のシートに書き出し、学習内容の理解の状況を把握する評価法です。
「IBクラスやPLコースではなく、普通クラスで実施しています。まずは、知っていることから考えていこうというところから始めて、単元の課題について授業の終了前にシートに記入してもらい、それを教員がチェックして次回の授業にフィードバックするというのが大まかな流れです。記載する文字量も内容も人それぞれですが、客観的に“自分の今”を見ることができますし、それに対しての客観的な評価も得られます。論理的な思考のスキルや、思考したことを表現するためのスキルを身につけるのは『学びの技』です。今年度から自由研究ノートの中に『学びの技』の項目が記載されています。さらに、12年生の国語と理科の教科連携『理系現代文』やPLクラスの10年生で実施している『数理科学』、ELF(English as a Lingua Franca)教員による『SS理科・SS物理基礎・SS化学基礎(英語による理科の授業)』なども実施しています」
こうした学内の教育資源を活用できるのが玉川学園のメリットであり、K‐12の教育の成果・有効性であるともいえるでしょう。
「2014年度より、9・10年生は英語での理科の授業がスタートしています。さらに、SSH課題研究を実施している生徒の成果発表会に玉川大学の各研究所の教員が参加し、研究者の目線から生徒に対してアドバイスをいただいています。またプロアクティブラーニング(PL)コースの11年生では『倫理、政治・経済』の授業で高大連携授業を盛り込むなど、高大連携のさらなる強化も図られています。
理科教育を出発点に「玉川のSSH」確立へ
「SSHに玉川大学の各研究所や農学部、リベラルアーツ学部などの教員に積極的に関わってもらうようにしています。第2期となり、SSHそのものの認知・理解が深まっていることもありますが、第1期に学んでいた生徒たちは、今、大学生となって、研究室に所属し自主性をもって学習・研究にあたっているようです。そうしたことを考えると、高校卒業後の学習・研究に順応しやすい良い経験をそれまでに積めたといえるでしょう。玉川学園は幼児期から高校期までを一連の枠組みとした“K‐12”という考えに基づき様々な教育を行っていますが、それに大学の学部教育の4年間を加えた“K‐16”へと発展させられるのではないかとも考えています。」
課題研究を通して、大学と接点をもった生徒はこれまでもありましたが、高校の教員がそれぞれの窓口となるケースが多かったといいます。
「今後は、生徒たちの知的好奇心をスタートに、生徒自身がそれを知るためにはどうアクションすればいいか、という方向でのバックアップが必要でしょう。研究をきっかけに大学の教員のパイプ、ネットワークづくりの架け橋のような役割です。質問やお願いなど、メールで連絡を取る際のマナーや訪問のアポ取りなど、研究面だけでなく人間性や人間関係の構築に必要なコミュニケーション力なども学ぶことができれば、本当の意味で“K‐16のネットワーク”ができたということができるでしょう。今後の課題としては、SSHを経験した卒業生たちのネットワークの構築とその有効活用が挙げられます。中高一貫だけでなく、大学へと接続していくK‐16というコンセプトの実現は、1キャンパスにすべての教育機関を備えた玉川学園だからこそ可能なことだと思います。それが『玉川のSSH』なのではないでしょうか」
- スーパーサイエンスハイスクール:未来を担う科学技術系人材を育てることを目的に理数系教育の充実を図る取り組み。2002年度より開始され事業継続中。