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解読できない暗号?

2009.09.25

自宅のパソコンからネットで買い物、銀行振り込み。ここ数年で、ネットを通じて様々なことが出来るようになりました。その際に入力するパスワードや口座番号などの重要なデータは、暗号によって守られています。しかし、それが解読されたら?口座に入っていた預金が第三者によって、ある日、突然ゼロにされてしまうことも無いとは言えません。そうならないように、より強度な暗号が日々開発されています。

暗号はどうやって作る?

現在の暗号は、方程式を使って送りたいデータを暗号化しています。鍵のみが非公開で、方程式は公の機関を通して公開する決まりがあり、例のような簡単な式では、鍵を知らなくても、何度か通信を傍受すれば、逆計算ですぐに解読されます。式の逆計算が難しいほど優れた暗号と言えるため、暗号学者たちはより複雑な方程式の発見を目指して研究しています。しかし、暗号に使われる方程式には必ず「解」がありますから、どんなに複雑な式も、いつかは解読される危険性を持っています。

たくさんの鍵

では、解読できない暗号は存在するのでしょうか?情報理論の創始者シャノン(C.E.Shannon)は、解読できない暗号の条件を証明しました。それは、方程式で使われる鍵を通信データごとに取り換えるというものです。別の言い方をすれば、「家のドアに無数の異なる鍵を取り付け、すべて正しい鍵を入れないと開かない」ようなものです。確かに安全性は高まりますが、無数の鍵を持ち歩くのは不便で効率が悪いでしょう。

「量子ゆらぎ」の不思議な力

そこで、ノースウェスタン大学のユーエン(H.P.Yuen)と私は、「量子力学」の理論を使った、新しい、そして解読できない暗号を発表しました。それは、強力なレーザー光に内在する“量子ゆらぎ”を使って、盗聴者の観測データのみをめちゃくちゃにするもので、光通信量子暗号と呼ばれています。その原理は次のようなイメージです。文章を書いた紙とインクの小瓶(量子ゆらぎを閉じ込めてある)をセットにして送るとしましょう。あらかじめ指定された鍵を持つ人はインク(量子ゆらぎ)を外せますが、通信途中でそのセットを無断で見ようとした場合には、「鍵」がありません。鍵なしで見ようとすると、インクの小瓶(量子ゆらぎ)が破裂して真っ黒になってしまいます。一度、真っ黒になったものは元に戻せず、後から鍵を手に入れてもやり直すことができません。方程式を使わないため、逆計算で暗号を解読することもできないのです。

セキュアな明日のために

量子ゆらぎを用いた暗号は、シャノンの理論にしたがいません。そのため、今までなかなか理解されませんでした。しかし、最近、この新暗号を認める論文も発表されるようになりました。玉川大学では、学内の500kmの光回線を使って光通信量子暗号の試験を続けています。すでにハイビジョン映像の暗号通信実験にも成功し、実用性が確認できました。銀行や遠隔医療などで、安全性に優れたデータセンターサービスが実現する日も、すぐそこまで来ています。

【プロフィール】
広田修(ひろた おさむ)
玉川大学 学術研究所量子情報科学研究センター主任教授 東京工業大学助手などを経て現職。電気通信普及財団賞、MIT量子情報科学顕彰など受賞。パリ第11大学物理学科客員教授、ノースウエスタン大学客員教授など歴任。

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