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科学するTAMAGAWA 学内外で教員養成に取り組む玉川大学教職大学院

2012.10.25

玉川大学教職大学院は、少人数制での手厚い指導で
修士レベルの教員を養成するとともに、
大学の専門的な研究成果を現場に伝える通訳として、
地域社会の教育にも貢献しています。

これからの教職大学院に求められること

現在、日本には国私立あわせて25校の「教職大学院」が設置されています。教職大学院とは、より質の高い教員養成を目的として2008年にはじまった制度で、玉川大学でもいち早くその動きに対応し、2008年に教職大学院を開設しました。

そして今年の8月28日、中央教育審議会は新たに、“教員養成を修士レベル化し、教職大学院をその受け皿とする”旨の答申を取りまとめました。答申は、標準的な免許状である修士レベルの「一般免許状」と、学士レベルの「基礎免許状」を創設し、基礎免許状取得者は早期に一般免許状を取得することが期待されると提言しており、その養成の主な担い手となるのが教職大学院だとされています。

このように、教員養成制度が大きく変化し、質の高度化が期待される中で、玉川大学教職大学院ではどのような取り組みを行い、それはどのような成果として実を結んでいるのでしょうか。今回は、玉川大学教職大学院主任の阿久澤栄教授に、教職大学院の現在について、そして、現在の教育現場で大きな課題となっている「特別支援教育」についてお聞きしました。

現場で本当に役に立つ力を育成する

「玉川大学教職大学院の特徴、それは、教育現場で本当に役に立つ学びしか提供しないということです」と阿久澤教授は強く訴えます。「そもそも学部で学ぶのは教育に関わる理論であり、教育現場の実際を学ぶ機会はほとんどありません。教育実習はありますが、受入学校側からすると、あくまでも“お客さん”としての表面的な対応であることもしばしばです。したがって教職大学院では、学部ではできない“理論と実践の融合”、言い換えれば、教育現場ですぐに役立つスキルを身につけさせることが求められるのです」。

その点、玉川大学教職大学院で独自に行っている「期間集中型実習」は、優れた教育効果があると阿久澤教授は説明します。「教職大学院では、5領域の基本科目20単位が必修になっています。また、教育実習で10単位を修得することが定められていますが、玉川大学教職大学院では、まとめて10単位の実習(『教職専門実習A』=10週間程度、または『教職専門実習B』*=2週間程度)を行うこととしています。これは、全国に25校ある教職大学院の中で、玉川大学教職大学院だけが実践していることです」。

  • 現職教員は教職経験等により、10単位または8単位の実習が免除できるが、8単位免除の場合には2単位の実習が行われます。この実習を『教職専門実習B』と呼んでいます。

では、連続で実習を行うことは、そうでない場合と何が違うのでしょうか。「教育現場で最も必要とされる力、それは、子どもたちの前で自信をもって授業ができる力に他なりません。10週間連続で行う期間集中型実習では、実習でつまずいたり気づいたりした課題に対し、即座に現場で対応することができる。しかも、学部時代とは違い、この教育実習は教員免許を持ったプロフェッショナルとして行うものですから、学校側でも“使える一人の教員”として対応してくれます。こうした“教員としての継続的な経験”こそが、子どもたちを前にしっかりと授業ができる力を培うのです」と阿久澤教授。この期間集中型実習は学校側からも評価が高く、期間を延長して実習に来て欲しいという依頼もあるほど。この取り組みが高い教育効果を上げている証ともいえるでしょう。

さらに、修士論文にあたる『学校課題研究』は、必ず学校現場における調査などを行った上で報告書を作成することとしています。「いわゆる“研究のための研究”は認めていません。あくまでも現場における課題を見つけ、その解決のための研究を行うのが『学校課題研究』の狙いだからです」と阿久澤教授。“現場で役立つ”という視点を徹底していることが、ここからもうかがえます。

アットホームな少人数教育の場

玉川大学教職大学院のもうひとつの特徴となっているのが、少人数制のアットホームな教育環境だと、阿久澤教授は話します。「現在、1・2年次合わせて28人の学生が学んでいます。それに対し、専任教員は11人。実に3人の学生に対し1人以上の教員が対応する手厚い教育環境を整えています。また、教職大学院では、専任教員のうち最低4割を教育現場での経験が豊富な『実務家教員』とすることが必要とされていますが、玉川大学教職大学院では、研究者教員と実務家教員がバランスよく学生を指導できるこの環境のおかげで、学生は研究上重要な理論を学びながら、それが現場でどう活かされるのかもしっかりと理解することができるのです」。

さらに、実習期間中も学生が安心して学べる環境を整えています。「教育実習の際には、1人の学生に研究者教員と実務家教員が1人ずつ付き、週に1回は指導に入ります。また、大学のメールアドレスを通じ、実習中に何かあればいつでも相談に乗れるよう配慮もしています。自宅に転送される学生からの連絡が深夜になることもしばしばですが、少なくとも翌朝までには返信するようにしています。教員にとってはかなり大変ですが、ここまで手厚い指導をしているからこそ、学生は安心して実習に集中することができる。この環境でしっかりと学べば、必ず実力は伸びますよ。」と阿久澤教授。

こうした手厚い指導の成果は確実に実を結んでおり、学部を出てそのまま教職大学院に進学した学生(ストレートマスター)の教員採用試験合格率は、2011年度は100%でした。

現職教員の学び直しの場として

さて、先に挙げた答申では、「基礎免許状取得者は早期に一般免許状を取得することが期待される」とされており、つまり、教職大学院は現職教員の研修の場としても機能することが求められています。その点、玉川大学教職大学院ではどのように考えているのでしょうか。阿久澤教授は次のように語ります。

「現在、28人の学生のうち9人が、近隣の教育委員会から派遣されて学ぶ現職教員です。こうした学生に対しては、各種の手続きや制度のベースとなる教育行政上の知識や、学校を指導する立場である『指導主事』として適切な助言ができるスキルに関しても重点的に指導しています。ただし最も力を入れているのは、やはり現場に直結したスキルの養成であり、いままで教育現場で行ってきたことが本当に正しかったのかどうかを振り返ってもらう機会を多く設けています。特にベテランの教員になるほど、自分の“型”ができあがってしまい、それを子どもに当てはめてしまいがちです。その型を一度壊し、最新の理論や研究の成果をもとに、教育現場で本当に必要とされることを理解してもらえるよう配慮しています。

例えば、模擬授業などはストレートマスターの学生と一緒に行うことで、型にはまらないストレートな意見に触れる機会が生まれ、固定的になった型を壊すことができます。同時に、現職教員とストレートマスターが同時に学ぶことは、現職教員は初任者教員への教育のしかたを学ぶことができますし、ストレートマスターは先輩教員にどう指導を仰いだらいいかの練習にもなるといった相乗効果も期待できます」。

しかし、必ずしも一緒に学ぶことだけがいいわけではありません。「特に経験がないとわかりにくい科目に関しては、現職教員とストレートマスターを別々に指導する方が効果的です。ですから、同じ科目名であっても授業は別に行います。これも、少人数制で手厚い教育環境を整えているからこそできるわけです」。

教育現場との連携を強化

学内での教育・研究のほかに、教育現場との連携も教職大学院の重要な仕事だと阿久澤教授は話します。「教育実習を受け入れていただいた学校に対しては、教職大学院の教員を校内研修の講師として派遣するなど積極的な活動をしています。こうした密なつながりを構築していくことで、教育実習にさらに行きやすくなりますし、玉川大学教職大学院の評価の向上にもつながります。大学の財産を地域に還元するといった意味でも、非常に有益だと考えています」。

中でも特に研修のニーズが高いのが、阿久澤教授が専門とする特別支援教育の指導方法だといいます。阿久澤教授は長年小学校教諭として勤務し、発達障害のある子どもへの指導に携わってきた専門家でもあるのです。「特別支援教育は、障害のある子どもを含め、一人ひとりの子どもの教育的ニーズに合わせた適切な指導や支援を行えるよう、2007年4月に制度化されました。これにより、特別支援学校や特別支援学級だけでなく、すべての学校の通常の学級で、障害のある子どもに配慮した指導が行われることになりました。この特別支援教育制度化の背景にあるのが、近年、知的には問題がないのに指導の難しい子どもが増えてきているという事実です。そのうち何割かは、自閉症(高機能自閉症・アスペルガー障害)、学習障害、注意欠陥多動性障害といった発達障害をもつ子どもであることもわかってきました。そうした子どもたちの障害特性を考慮した適切な指導を行えるよう、特別支援教育が制度化されたのです」と阿久澤教授。

障害特性を考慮した教育とは

では、障害特性を考慮するとは一体どのようなことなのでしょうか。「一例を挙げると、ある障害を持つ子どもが授業中に突然立ち上がりました。担任の教員が『何してるの?』と聞くとその子は『立っています』と答えました。その言葉に教員がカッとなって『勝手にしなさい』というと、その子は教室を勝手に出て行きました。この場合、教員の『何してるの?』という言葉には、『授業中だから席を立ってはいけません』という言外の意味があるわけですが、障害のある子どもの中にはそれを理解できず、文字通り解釈してしまうことが多く見られます。ここで、『いまは授業中だから席に座っていましょうね』とダイレクトに言えば、何も問題は起こらなかったのです。このようなちょっとしたことが、障害のある子どもを指導する上では大切になってくるわけです」と阿久澤教授は話します。

「もうひとつ例を挙げます。算数の教科書には『タイルが10個集まると1つの棒になります。それが10です』という位取りの説明が出てきます。するとある高機能自閉症の子どもは『9個でも棒になるよ、11個でも棒になるよ』というのです。考えてみれば、9個でも、11個でも“棒”にはなるわけですよね。しかし、この子は1円玉が10個集まると10円になるということは知っています。お金を使えばすんなり10の位が理解できるのです。これまで教員はあたりまえのように『タイルが10個で棒になる』と教えていましたが、子どもにとってそれはわかりやすい指導ではなかったということですね。こうしたことは障害のある子どもに限ったことではなく、例えば算数が苦手な子どもにとっても同じなのです。障害のあるなしにかかわらず、クラスのみんながわかりやすい指導をすること、それも特別支援教育がめざすことなのです」。

教職大学院にできることの一つ、それは「通訳」

しかし、特別支援教育が制度化されて5年が経ちますが、まだまだ対応に困っている学校は多いと阿久澤教授はいいます。「制度としては成立しても、実際現場で働く教員は、障害を持つ子どもへの指導やその保護者の信頼を得るためのノウハウを全くもっていないことが多々あります。それでなくても現在、教員に求められる仕事は多岐にわたっており、手が足りない学校も多いのです。

しかし、阿久澤教授はそう悲観的には考えていないとも話します。「日本の教員は優秀です。しっかり研修を受けノウハウを身につければ、現状の教員数で特別支援教育を十分やっていけると思います。そのためには、私たちのような現場経験をもちながら教職大学院で専門的な研究も行っている実務家教員の力が役に立つはずなのです。専門的な内容ばかりでは現場の教員に伝わりませんが、ある程度の専門性がなければ、現場の教員に教えられない。専門と現場の間に立って“通訳”する人間が必要なのです。ですから、これからも玉川大学教職大学院では多くの学校へ大学教員を講師として派遣し、大学の専門的な研究成果を現場へと伝える“通訳”としての使命も、精力的に果たしていきたいと考えています」。

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