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科学するTAMAGAWA 国際学力調査の結果とこれからの日本で求められる「教師力」

2014.01.23

OECD生徒の学習到達度調査とは、日本をはじめアメリカや
ヨーロッパ諸国などの先進諸国が加盟するOECD(経済協力開発機構)が
中心となって行っている、15歳を対象とした国際学力調査です。
この最新結果(2012年調査)が文部科学省より発表されました。
この調査結果から見えてくる日本の教育動向と、
これからの日本の小中学校で求められる教師力について、
玉川大学教育学部 坂野慎二教授にお話を聞きました。

OECD2012生徒の学習到達度調査(PISA)を振り返って

———今回の結果の見方を教えてください。
調査結果で、注目していただきたいのは経年変化の部分と、順位より点数です。点数は平均で500点になるように設定されているので、推移がわかりやすいです。
数学的リテラシーでいうと、最初はトップグループだったのですが、それが落ちかけ、また上がってきています。読解力についても2003年のときに500点を切り、順位も8位から14位に下がりましたので、非常にこれが大きな話題となり、学力低下だとマスコミにも騒がれました。いわゆる日本版のPISAショック*です。けれども、このあとかなり持ち直してきて、2009年や2012年については520点、538点になり、上がってきています。科学的リテラシーは、多少の点数変動はありますが、つねにトップグループにいると考えて間違いないので、他国からすれば「高くてうらやましい」というレベルにあるということです。

———なぜこのような結果になったのでしょうか。
科学的リテラシーについては、他国と比較して言われているのが、学習指導要領が全国一律に定まっているということ。それが高校受験などの理由で定着しているのが、高水準を維持している大きな理由として考えられます。数学的リテラシーや読解力は、教科書が薄くなった分、内容の一部を後でまとめて勉強する形になっていることもあり、途中で学力調査をすると、未習の部分が出てくるのかと思いますね。あとは、いわゆる「ゆとり教育」の政策が始まったのが1998年です。ゆとり教育の目的は「生きる力をつける」。つまり自ら判断し行動する力を身につけることをめざしたわけですが、そのためには基礎基本が必要です。最初の時点では、いきなり判断し行動することだけをやろうとして基礎基本が抜けたのが、この結果に出ているのかもしれないです。

————基礎となる土台がないと応用もないということですね。
そうです。どれくらいをナショナルミニマムとして考えるのかというところもまだ探っている状態ですけれども、1998年のときは、それがちょっと減りすぎたのかもしれません。それが2008年の学習指導要領の改訂により、先生方もやりやすい形で授業を進められるようになってきたと考えられます。

———試行錯誤の上にほどよく理想に近づいてきたと言えるのでしょうか。
2008年の学習指導要領で、生きる力の中の「確かな学力」を3つに整理しています。基礎基本、活用する力、学習意欲・態度。それが確かな学力につながるとしています。今回の調査結果から、やはり基礎基本が重要であると同時に、活用する力もだいぶついてきたことがわかります。ただ、あえて課題をあげるとすると、学習に対する意欲・態度の部分が足りないです。難しい問題にチャレンジして頑張るという姿勢が、日本の子供たちにはまだ十分ではない。他国に比べ、無答の回答率がかなり高いのです。今まさに知識基盤社会で、学校教育を含め“生涯学習”が基本的な方針ですから、一生にわたって勉強していこうというその意欲の部分を伸ばしていくのが課題となるかと思います。

*PISAショック:第1回(2000年)調査の結果にドイツが大きな衝撃を受けたことを指す。

教師に求められる「授業力」とは
玉川の教員育成への取り組み

———これからの時代、教師に求められるのはどのような力でしょうか。
2007年問題などとも言われたように、団塊世代が定年を迎えてベテランの先生が大幅に減り、特に大都市圏では若い先生が増えてきています。そのため、昔なら10年以上の経験を積む中で獲得していた“教師力”を、若い先生は早い段階で身につける必要に迫られています。また、保護者も高学歴化してきており、教師に対する要求のハードルも年々上がっているのが実情です。昔は「まだ新任の先生だし、長い目で見ましょう」という雰囲気が保護者の間にありましたが、今は「新任だろうが先生は先生。きちっと見てくれなくては困ります」といったように、すぐに教師としての高いスキルを求められます。
では、教師力とは一体何でしょうか。その中心は“授業力”です。「(1)児童・生徒理解」「(2)単元のポイントを見抜く」この2つの力が重要です。玉川大学教育学部では、(1)と(2)について、以下のように取り組んでいます。

まず「(1)児童・生徒理解」については、提携先の学校でのボランティアを単位化し、実際に子供たちとかかわる機会を多く設けています。大学1年次では1日ボランティアを行い、子供たちと接するかたわら先生の仕事を間近で観察します。これにより「もしかしたら自分に教師は向いていないかも」と思う学生もいるかもしれませんが、早い段階から違う進路を考えることができますし、その気付きはとても重要なことです。2年次では、教科指導法や教職科目の学習と並行してボランティアに一定日数入り、学校に密着しながら子供の様子を観察し、先生の手伝いをします。そして3年次では、これは後で詳しく述べますが(2)の単元のポイントを見抜く力を養うなど理論の修得に力を入れ、4年次で教育実習に臨みます。このように教育実習の前に何度も現場経験を積ませることで、子供への理解を深めていきます。また、単位にはならなくてももっと多くの学校にボランティアに行きたいと願う学生には、「教師教育リサーチセンター」や教員が近隣の提携先の学校を紹介し、子供と接する機会をさらに提供しています。
少し話がそれますが、私はドイツの中等教育制度を研究しています。ドイツの教育実習は、最初にいきなり学生に授業をやらせ、いかに自分ができないかを痛感させてからスタートし、3カ月以上に及ぶ期間を実習先で過ごします。これは教師になりたい学生しかいないシステム故に実施できている制度なので、日本では難しいですが、玉川の教職大学院では10週間にわたっての実習を行っています。長期間の実習は確実に力がつくので、学部レベルでもぜひ違った形で試みたいところではあります。

次に「(2)単元のポイントを見抜く」ですが、各教科の単元ごとに「ここをこのように教えれば子供が理解できる」というポイントが必ずあります。教材を分析し、どこがポイントなのかを見抜く力が問われています。他大学の指導法の授業では、授業1コマのみに焦点をあてて、その時間内をどのように教えるかということに重きを置いている場合が多いのですが、それではこの力を育てることは不可能です。なぜならば、単元とは数回にわたって教えていくものだからです。そこで玉川では、例えば単元に使用するコマ数が5だったら、その5コマをどのように配分してポイントをわかりやすく教えるのかを徹底的に分析します。1・2年次にボランティアで子供に指導した経験が、3年次の理論学習への理解の助けとなり、さらにそれが4年次の教育実習に活きていく。4年間にわたる理論と実践の往還により、教育実習では、実際の子供のつまずき方のパターンを分析し仮説を立て、それに基づいて子供が理解するまで繰り返し指導を行えるほどにまで学生は成長します。

今年度から全国で「教職実践演習」を実施
問われる大学の姿勢

———玉川の学生は現場で学ぶ機会が多いのですね。他大学では、教育実習でさえもほとんど教壇に立たない学生がいると聞きました。
そのような話はよく耳にしますね。しかし2013年度から、4年制の大学では4年次に「教職実践演習」を修得することが求められています。これは、教師としての資質・能力があるか、教師に向いているのかを判定する少人数授業です。教師に必要とされる4領域の能力・資質がそれぞれ足りているかどうかチェックしていきます。どのレベルなら免許状を与えるのかということを大学が決めるわけですから、まさに「社会にどんな教師を送り出すのか」、大学の真摯な姿勢が問われます。私もこの演習を担当していますが、模擬授業はもちろん、生徒指導の場面を想定し、そのとき自分ならどう対応するかを実際に発表してもらいます。場面設定、つまり「もし○○○だったら」の○○○をも学生に考えさせます。教育の現場ではどんな問題が起こりうるのか、そこから考えていきますから、教職への本気度が試される授業となります。見ていると、やはり積極的に何度も学校に足を運び経験を積んだ学生の方が、模擬授業も場面設定も上手です。

———本当に教師になりたいという意欲がないと、厳しいですね。
私の授業は大変らしいですが(笑)、現場に出たときに困らないレベルにするためには、これくらいの内容をこなさなければいけないと思っています。日本では単位さえあれば教員免許が取れるシステムになっていますので、「教職実践演習」の修得は、学生の能力を高めることはもちろん、教職への意欲を新たにする意味でも大変望ましいことだと思います。若い即戦力を世に送り出すべく、玉川大学教育学部はさらなる質の高い教員養成をめざします。

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