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10年目となるK-12のIB教育。「第10回 玉川大学 国際バカロレア教育フォーラム」を開催しました。

2018.01.09

さる11月25日(土)、玉川学園で「第10回 玉川大学 国際バカロレア教育フォーラム」が開催されました。テーマは「全人教育における学びとは 主体的・対話的で深い学びの実現に欠かせない要素とはなにか?」です。
2017年は玉川学園が初めて国際バカロレア(IB)の教育プログラムを取り入れてから10年目になります。また2018年はIB教育が始まって50年目にあたる記念すべき年です。本フォーラムには各地からIB教育に関心を持つ教員などの教育関係者が多数集まり、午前中は文部科学省・IBグローバルセンターの方による基調講演、午後はテーマごとの分科会に参加して、IB教育の真髄と日本における今後の展開に関する知見を新たにしました。

それぞれの立場から「全人教育」と「IB教育」を語る

午前中の会場はUniversity Concert Hall 2016の大ホール「MARBLE」。玉川学園の石塚清章理事の挨拶から始まり、スタート当初はインターナショナルスクールの教育と混同されがちだったIB教育に近年は急速に理解が進んでいることに触れ、自律的な学習者を育てるという意味で全人教育とIB教育の現代的な重要性を指摘しました。

続いて基調講演にはIB教育と全人教育に深く関わる3名の講演者が登壇しました。

生田研一氏(文部科学省国際統括官付)
「今後の国際バカロレア教育の普及促進に向けて」

文部科学省でIB教育の推進を担当されているという生田氏。まず「これまで仕事をしていて国際バカロレア教育に対する否定的な意見を聞いたことがない」と言い、国としても、個人としてもIB教育に寄せる大きな期待を語りました。
そして文部科学省が主導する教育改革とIB教育がめざす方向性の共通点について解説。人口減による構造的な人材不足の中、産業界が求める人材像を見据えた文科省の「高大接続改革」や「学習指導要領改訂」などの教育施策とIB教育がめざす学習者像が重なっていることを示唆しました。またこれまでの文科省の取り組みとして、「日本語DPの開発」「学習指導要領との対応関係」を意識した特例措置、「IB教員の養成・確保」、そして広報活動などによる「IB教育に関する周知と理解の促進」などをあげました。
今後は自律的・持続的なIB教育が日本に根付くためのIBコンソーシアムの構築を通して、現場レベルの課題とニーズに合わせた取り組みを行っていくことの重要性を指摘。日本という国の中でIB教育が重要な存在になっていることを日々実感し、一つのゴールとして「日本の教育の知見とIB教育との発展的融合」を想定していると語りました。

アシッシュ・トリヴェティ氏(IBグローバルセンター・シンガポール, DLDP Project Manager)
「IBプログラムを通じた全人教育」

2005年から2008年まで東京のIBスクールで働いた経験を持つトリヴェティ氏は、インドの宗教家スワミ・ヴィヴェーカーナンダが1890年代に日本を訪れた時の手紙を紹介しつつ、まず日本と日本人への共感を示しました。 次にインドの哲学者ジッドゥ・クリシュナムルティの次の言葉を紹介しました。

「文明の発達した現代社会の中で、私たちは世界を実に多くの要素に分類してきた。そしてその結果、いまや教育は、特定の分野における専門技術や職業技術を学ぶということ以外にほとんど意味を持たなくなっている。つまり教育は、私たち個人がそれぞれにもつ統合された知を呼び覚ますのではなく、何らかのパターンに従うことを促し、それゆえ私たちが己を総合的に理解することを阻んでいる。存在をめぐる数々の問題を様々なカテゴリーに細分化し、それぞれのレベルにおいて解決しようとする試みは、理解の完全なる欠落を示唆している」

この言葉からトリヴェティ氏は文明が発達した現代社会で、教育が専門分野のカテゴリーに細分化され、学校と実社会が分離してしまっている現実を指摘。全人的・総合的な教育の必要性が増していることを訴えました。そして1970年代のIBの資料を引用して、IBには設立当初から「全人教育を行う」という発想を持っていたことを紹介。成城学園の澤柳政太郎と玉川学園の創立者小原國芳の事跡をたどりながら、小原の提唱した全人教育とIB教育を定義する理念の共通点について解説しました。またIBプログラムが育成しようとする学習者の特徴をまとめた「IBの学習者像」、さらに「教師が自分自身を学習者とみなす」ことや「児童生徒の知識や経験が尊重される」「学習は文脈の中で行われる」などIBの重要な教育的原則について説明。最後にIB教育における重要な要素として「多様な文化への理解および言語の習得」「独立した探求」「コミュニティーとの関わり」の3点について自らの教員経験に基づく実践的な解説を行いました。「今日の教育は全人的であることが大切」というトリヴェティ氏の結びの言葉は、玉川学園関係者はもちろん、多くの参加者の心に響きました。

佐久間裕之(玉川大学教育学部教授・全人教育研究センター長)
「国際バカロレアと全人教育」

最後に登壇した玉川大学教育学部教授で全人教育研究センター長でもある佐久間教授は、まず同センターの意義と活動内容について紹介しました。
続いてトリヴェティ氏の講演でも触れられた小原國芳による「全人教育」の来歴を遡り、従来の知識偏重型教育に対する「闘争概念」としての言葉であることを紹介。小原自身の考えでは、全人教育とは決して特殊な教育ではなく、本来的な教育のあり方を示すための言葉であると解説しました。これは「今日の教育は全人的であることが大切」というトリヴェティ氏の言葉と共鳴するものでした。その上で教育には人間文化の全てを盛り込まなければならないと説き、教育の理想を「真」「善」「美」「聖」「健」「富」の6つの価値創造にあると位置付けた小原の理念を紹介。小原の全人教育がめざす「完全人格」とは、いわゆる「完璧」な人格ではなく、調和ある人格、自己らしさを完全に発揮できる人格であり、「6つの文化価値が、秋の庭前に整然と花咲いとるコスモス(Cosmos)の花のように、調和的に成長してほしいのです」という小原の一人ひとりの個性の伸張を願う教育姿勢について言及しました。

玉川学園の全人教育の実践例として「労作教育」と「自由研究」の取り組みについても紹介。一人ひとりを大切に、それぞれの自己実現をめざす全人教育とその理念において共通するIB教育が、現代のグローバル社会の中でお互いを大切にできる平和な社会を築く礎となることを示唆して講演の結びとなりました。

IB教育の可能性と未来を実感できた1日


基調講演終了後は、休憩を挟んで同じステージでK-16玉川コラボレーション企画「タマトーーク!」を開催。玉川大学学術研究所K-16一貫教育研究センター・玉川大学大学院教育研究科IB研究コース担当のカメダ・クインシー講師と玉川大学 大学院 教育学研究科 教育学専攻 修士課程 2年(IB研究コース)の古屋佑奈さん司会進行のもと、玉川学園IBクラスの卒業生と現在、玉川大学大学院国際バカロレア研究コースで学ぶ教員などが参加し、それぞれの体験に基づいた「IBの学習者像」について、優れた点や大切にしていることなどを語り合いました。
また、University Concert Hall 2016ロビーでは、休憩時間に現在IBクラスで学んでいるK-12の生徒たちが、それぞれのノートを使った学習内容の発表を行いました。来場者からは学習内容やIBクラスでの学び方などについての多くの質問が寄せられ、それに対して自らの言葉でしっかりと自信をもって答えていた生徒たちの姿が印象的でした。
午後は会場を高学年校舎・サイテックセンターに移して、基調講演を行ったアシッシュ・トリヴェティ氏も講師を担当する7つの分科会、そして参加者の情報交換会が開催されました。

日本におけるIB教育は10年目を迎えた玉川学園をはじめ、着実にその教育成果を上げており、国からも大きな期待が寄せられています。今回のフォーラムでは、参加者がわが国におけるIB教育の可能性、そして未来を実感することができた1日となりました。

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