ごみ処理施設をポジティブなイメージに。芸術学部のプロジェクト型授業で、町田市の熱回収施設等建設工事の仮囲いをデザインしました。

2018.03.26

「アート(芸術)による社会貢献」をめざし、企業や地域社会、公共団体、学内組織などと連携しながら学ぶプロジェクト型の授業を行っている芸術学部メディア・デザイン学科。授業で学んだ芸術表現を実社会で生かすために必要な企画力や提案力、さらにコミュニケーション力などを身につける、またとない機会となっています。
そうした中で現在進行しているプロジェクトの一つが、ごみ処理施設「町田リサイクル文化センター」に新たに建設される熱回収施設等建設工事の仮囲いに、デザインを施すというもの。施工を行う会社からの依頼により、今回のプロジェクト型授業が実現しました。

今回町田市へ新たに建設されるのは、東日本で初の導入となる一般廃棄物をバイオガス化する施設を併設するごみ処理施設となります。単に廃棄物や不要品を処理するのではなく、高効率発電などを行うことで、廃棄物の終着点から新たなエネルギー(価値)を生み出す出発点となる点がこの施設の大きな特徴です。その点に留意しながら、学生たちはデザイン作業を進めていきます。今回はこのプロジェクト型授業に参加した学生たちと、指導を担当した中村慎一教授と渡辺恵理子講師から話を伺いました。
このプロジェクトの発端は、2016年にさかのぼります。新たに建設される施設に関する教育連携を行うことが決まり、そのスタートとして、2017年4月に建設工事現場の仮囲いのデザインを芸術学部が行うということになりました。そしてこのプロジェクトに参加する学生も含めて、夏には現地視察を、また秋には既に稼働している都内の施設の見学なども行い、知識を深めるとともにイメージを膨らませていきました。

「こうして知識を深めた後でまず行ったのが、コンセプトワークです」と中村先生。施設に関連することや課題、目標とすることなどをディスカッションし、書き出して造形化して考えていく際の基盤とします。授業ではコンセプトを必ず言語化させ、きちんと説明できることを目指しているとのこと。そうした経験が、今回のプロジェクトでも役立ちました。

また、最終的なデザイン案に至るまでの過程について、渡辺先生は「今回の仮囲いは、新しい施設のプレゼンテーションの場として考えることが出発点でした。当初は仮囲いの近くにある桜並木から、桜をモチーフにしようと考えていました。リサイクル文化センター周辺では桜祭りが行われるということも聞き、桜が成長していくイメージが合致していると考えていました。しかし、皆で話し合っているうちに桜の花びらがハートに似ていることや、それを重ね合わせると四つ葉のクローバーにもなることに気付き、最終的なデザイン案につながっていきました」と振り返ります。

こうした完成したデザイン案は、「高度先端技術によるハードとハート(やさしい心・環境保全の心)をつなぐ」をメインコンセプトに設定。ハート型をメッセージシンボルとし、ピクトグラム化された資源ごみがエネルギー源となって最終的にハート(国民意識:やさしい心、環境保全の心)になるよう表現しました。またハートが重なって四つ葉のクローバーになることで、施設の特色として掲げられている「市民の生活環境に配慮した施設」、「市民が安心して生活できる災害に強い施設」、「市民がともに学び・遊び・育むことのできる施設」、「市民が安全に生活できる安定的な運営」を表現し、望ましい社会の実現(幸福)をシンボル化しています。「ピクトグラム化された資源ごみも、暖色系がバイオマスと熱回収、寒色系が不燃ごみと粗大ごみに分類されており、ごみ分別への理解が深まるようにしています。またカッティングシートを使用して小さなハートを作り、近隣の小学生たちに自分の夢を書いてもらうような企画も盛り込みました。この仮囲いは数年間使用されるので、自分が書いた夢を1、2年後の子どもたちに見てもらいたいと思っています」と渡辺先生。

コンセプトワーク・ブレーンストーミング
実物大に出力しテストした
町田市立図師小学校児童ワークショップの様子(町田市立図師小学校提供)
ゴミの分別が分かるようリストをWebサイトに公開予定

こうして完成したデザイン案は施設建設を担当する株式会社タクマからも高い評価を得ました。「今まで工事の際の仮囲いに関しては、環境をテーマにした近隣小学生の絵を貼るといったことしか行ってきませんでした。コンセプトやデザイン案を拝見して、率直にすごいなと感じました。施設の内容もアートを通して表現されていると思います。この場所は、地元の小学生たちの通学路でもあります。子供たちの注目も集めるだろうし、こうしたデザインワークに参加できたことは貴重な体験となりました(施工会社の営業担当者)」。

今回のプロジェクト型授業に参加したメディア・デザイン学科3年の学生たちにも話を聞いてみました。

「クライアントの方と接することや、先生からの指示ではなく自分たちでデザインを一から進めていくことなど、今までに経験したことのないことばかりでした。コンセプトを設定する過程で苦労しましたが、現地視察などを経て徐々に固まっていき、エコに貢献するという施設のポジティブな面を伝えるデザイン案に落とし込むことができました(千葉直美さん)」。

「デザインを進めていると目の前の作業に没頭してしまいがちですが、常に『何のためにこのデザインはあるのか』を忘れないようにしました。そうした意味でもコンセプトというものが大事なのだと気付かされました。また、アイデア出しなどでも自分一人で考えていると行き詰まってしまうこともあるのですが、他のメンバーがいいヒントをくれるので、企画としても広がりと深さがうまれたのではないかと思います(藤井瑛玲奈さん)」。

「仮囲いというものに対する知識や、バイオマスなどに関する知識が当初はなかったのですが、いろいろと調べていくとアイデアも出てくるようになりました。普段は自分一人で作品制作を行っているのに対し、今回のように他のメンバーや先生たちと意見をぶつけ合いながら、最終的に一つの企画を仕上げた経験は、自分にとっても大きなプラスになったと思っています(松下加奈さん)」。

クライアントの要望を聞きつつ、その実現に最適な芸術的表現を考え、提案することを学んだ学生たち。「日本の教育では、高校までの美術の授業で表現することを主に学びます。しかし実社会におけるデザインは、著名なアーティストであってもそこで社会とのつながりを形にしていきます。その際に重要になるのがコンセプトです。たとえばイスをデザインする場合、座る意味や使われ方など相手の立場で深く考えることが大切です。またデザインをつくるには関連した社会の課題や未来の社会の形なども考えながら進める必要があります。今回のプロジェクトでもこの施設に込められたサスティナブル社会の実現について、ESD※1・SDGs※2のことや、環境基本計画なども学修していった結果、しっかりとしたコンセプトがあるデザインに仕上がりました。このように授業では実際にさまざまな人や企業と連携したデザイン活動を行うことで、より実践的な知識や経験を身につけられる場になっていると思います」と、中村先生もプロジェクト型授業の意義を語ります。
3月後半には、いよいよ仮囲いがお披露目されます。学生たちがコンセプトから考えた力作を、ぜひ一度ご覧ください。

  • 1持続可能な開発を促進するため、地球的な視野をもつ市民を育成することを目的とする教育。
  • 2持続可能な開発目標(SDGs)…2015年に行われた「国連持続可能な開発サミット」にて、採択されたもので、2015年から2030年までに達成すべき、貧困や飢餓、エネルギー、気候変動、平和的社会などの諸問題に対する17の目標。