玉川大学 読売新聞社立川支局 共催 連続市民講座第4回「人間のやる気を脳科学で解明〜自由と平等の大切さ〜」

2018.07.18

2018年4月より玉川大学では、読売新聞社立川支局と共催の連続市民講座「進む大学研究 最先端の現場から」がスタートしました。この公開講座は玉川大学8学部・研究所の先生方が講師を務め、12月まで全11回、それぞれの分野での“最先端”についてわかりやすく講義します。6月30日開催の第4回のテーマは「人間のやる気を脳科学で解明〜自由と平等の大切さ〜」。講師を務める脳科学研究所の松元健二教授が、さまざまな条件下で“やる気”が出たり出なかったりする脳の仕組みについて講義しました。
当日は梅雨明け直後の絶好の行楽日和の晴天。多くの受講者が集まり、会場がたちまち満席となる盛況ぶりでした。

内発的な“やる気”の活動をMRIを使って解明

インターネットや情報技術の発達によって、これまでに経験したことがなかったようなさまざまな問題に直面している現代。そうした社会の変革期においてあらためて「学び」の重要性がクローズアップされています。松元教授は、この学びの「動機づけ」について、わかりやすく言えば“やる気”が出たり出なかったりする脳の仕組みがどのようになっているかを研究しています。

そもそも人間の動機づけ(やる気)には、取り組むこと自体が目標である「内発的」なものと、賞金、ご褒美、名誉などの獲得が目標となる「外発的」なものとがあります。
松元教授はイギリス・レディング大学の村山航准教授とともに、「内発的」なやる気をターゲットとした研究に取り組みました。しかし、人間の内発的なやる気を実験のために操作することは簡単ではありません。そこで松元教授が注目したのは「アンダーマイニング効果」と言われるものでした。これは報酬を与えるなど外発的動機付けを行うことによって、やる気=内発的動機づけが低減する現象です。
たとえばお絵かきが好きな子供が、上手な絵を描くと親からご褒美をもらえる約束をすると、ご褒美無しではお絵かきをやらなくなってしまいます。目標がお絵かき自体から外発的なご褒美にすり替わってしまった結果です。

このアンダーマイニング効果を引き出すためにストップウォッチ遊びの実験を行いました。ストップウォッチをできるだけ5秒ぴったりで止めるという遊びです。±0.05秒以内の誤差であれば「成功」として、1回成功するごとに200円の報酬を約束したグループ(外発的報酬群)と、そのような約束をしなかったグループ(コントロール群)各14名ずつで脳活動の違いを、玉川大学脳科学研究所にあるMRI(核磁気共鳴画像)を使って調べました。すると2回目の実験で報酬なしにすると、外発的報酬群の人たちは大脳皮質と脳幹の間にある線条体という部分の、成功した時の活動が落ちてしまうのに対し、コントロール群の人たちでは同じ部分が変わらず活動していることが判明。また、額の奥に位置する前頭前野でもストップウォッチが始まる合図に対する活動で、同様のグループ間の違いが現れました。これらの実験結果から、前頭前野と線条体とをつなぐ主要な神経回路がやる気に重要な役割を果たしていることが推測できました。単純ながら楽しいゲームでも、報酬が目的になるとその楽しさが失われてしまうという「アンダーマイニング効果」が脳科学的にも裏付けられたのです。

「自由と平等」の重要性を科学的に証明

もともと内発的なやる気があった人に外発的報酬を約束することで、やる気が劣化してしまう……。この現象は「自己決定感」の喪失によって起きると考えられているので、同じストップウォッチによる実験で「自己決定感」の有無による脳活動の違いも確かめました。自分が好きなデザインのストップウォッチを選べる「自己選択条件」と使うストップウォッチをコンピュータに指定される「強制選択条件」とで比較してみたところ、難しさはまったく変わらないのに自己選択条件の方が成功率が高く、前向きな気持ちになることがわかりました。それに伴って前頭前野腹内側部の活動が、自己決定感があると失敗しても落ちないこともわかりました。「選択の自由」が、やる気やパフォーマンスの向上にとても重要な役割を果たしているということです。

そしてこの「選択の自由」と密接な関係にあるのが「機会の平等」です。松元教授は高知工科大学の青木隆太講師と行った「対面ギャンブル課題」の実験を通して、「選択の自由」と「機会の平等」が気分に影響を与える脳の仕組みを調べました。この実験は一対一でカードを1枚ずつ選ぶゲームにおいて、何枚のカードの中から選べるかという選択肢の数と、それが相手と「同じ」か、「多い」「少ない」のそれぞれのケースで脳活動がどう変化するかを調べました。その結果、選択肢が多い、つまり選択の自由が大きいほど線条体の活動が高まり、自分と相手の選択肢の数が近い、つまり機会が平等であるほど、前頭前野腹内側部の活動が高まることがわかりました。

これらの実験を通して「自由」と「平等」は人間の内発的なやる気や嬉しい気分に大いに関連し、人間で大きく発達した脳部位である前頭前野が担う高度な知的活動、ひいては人類社会の文明の発展にまで重要な意味を持つのではないかと松元教授は考えています。
最後に松元教授は「これはあくまで実験室で必要な条件のみを抽出した単純な環境で得られた結果です。様々な条件が絡み合った複雑な環境である実社会にそのまま実験結果があてはまるわけではありません」と受講者に注意を促しました。

受講者にとって今回のテーマは最新の脳科学の研究への関心とともに、家庭での子育てや職場での社員教育にも密接に結びつく興味深いテーマです。講演後の質問も活発に飛び出し、脳科学研究の最前線に触れる喜びに、多くの人々が魅了されていたようでした。

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