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玉川大学 読売新聞社立川支局 共催 連続市民講座第5回「光技術を使ったおいしい野菜作り─LED植物工場の技術開発─」

2018.11.05

2018年4月より玉川大学では、読売新聞社立川支局と共催の連続市民講座「進む大学研究 最先端の現場から」がスタートしました。この公開講座は玉川大学8学部・研究所の先生方が講師を務め、12月まで全11回、それぞれの分野での“最先端”についてわかりやすく講義します。10月6日午前には、7月28日より延期となっていた第5回「光技術を使ったおいしい野菜作り─LED植物工場の技術開発─」を開催。講師を務める生物機能開発研究センター主任・農学部先端食農学科の渡辺博之教授が、LEDを使ったレタス栽培の方法や宇宙空間での植物工場実現に向けた取り組みなどについて講義しました。

未来型農業システムとして大きな期待がかかる「植物工場」の研究

渡辺博之教授は、タイムリーな天候不順の話題から講義を始めました。2018年の夏は気温40度以上の猛暑日が頻発し、各地で集中豪雨や台風被害に見舞われました。こうした異常気象で生鮮野菜の価格が高騰し、品質にも悪影響を及ぼしています。

「植物工場」はこうした天候不順に関係なく安定した農業生産を可能にする方法の一つです。また、わが国では農業人口の減少や農家の高齢化など多くの問題を抱えており、省力化・無人化が可能な「植物工場」はその点でも有望な生産手段となり得ます。さらに閉鎖された室内での人工光型植物工場なら、無農薬でそのまま洗わず食べられる野菜や果物を作ることも可能になります。

このように多くのメリットが見込まれる植物工場は、日本でも1980年代より企業主導で太陽光併用型などさまざまなタイプが登場していました。渡辺教授はそうした実例を写真と共に紹介。それぞれ生産技術の面では成果をあげてきましたが採算性などの課題をクリアできず、少数の例外を除いて安定した事業化は実現できませんでした。渡辺教授自身、当時は企業の研究員として植物工場の技術開発に関わっており、現在に至るまで30年近くにわたって未来型の農業システムとしての植物工場の研究に取り組んできたそうです。

LEDの光を駆使しておいしさと安全性、栄養価を自在にコントロール

植物工場で重要なポイントの一つは「光」といえるでしょう。人間の目は緑の光を最も敏感に感じる特性がありますが、光合成を行う植物は赤と青の光を敏感に感じ取ります。渡辺教授は光源に赤や青の発光ダイオード(LED)を使った野菜作りに取り組んでいます。これは3人の日本人研究者・技術者がノーベル物理学賞を受賞することになった1990年代の青色LEDの発明によって初めて可能となった技術です。

2013年、玉川大学キャンパスに完成したSci Tech Farm「LED農園®」では太陽光の代わりに、独自に開発した長寿命のLED光源を使っています。渡辺教授はLEDの色による野菜の生育について次のように解説します。
「青色LEDをあてると野菜はストレスを感じ、体内に抗酸化成分を生成して独特の風味やビタミンが増えます。一方、赤色LEDをあてると葉が大きく伸び伸びと成長し甘みが出ます。緑の光に関しては現在その効果を研究中ですが、生育過程において細かくLED光の青と赤のバランスを調整することで、栄養価や風味・食感を細かく調整することができるようになりました」

現在、Sci Tech Farm「LED農園®」では玉川ブランドのリーフレタス「夢菜」7品種が1日3000株の規模で生産されています。7品種それぞれは主に青と赤のLED光を調整することで生まれたものです。なお、生産されたレタスは小田急線沿線にあるスーパーマーケット「Odakyu OX」で販売され、「おいしくて、無農薬。しかも洗う手間が省ける」と、今やすっかり人気商品となっています。もう一つ「夢菜」の特長としては、無人の栽培スペースで雑菌がつかないように育てられるため、普通のレタスよりはるかに日もちが良く、冷蔵庫で保存すれば3週間後もシャキシャキの鮮度を保てるのだそうです。

月面上の植物工場の実現を目指してJAXAやパナソニックと共同研究

渡邊教授のLEDを使った無農薬ハイテク野菜作りの研究拠点は、2010年にオープンしたFuture Sci Tech Lab「植物工場研究施設」です。現在、レタスの他にイチゴやトマト、ハーブやシソなどの栽培研究、さらにゲンノショウコなどの薬草や抗がん剤、病院食などに使用できる低カリウム野菜などの研究も進められています。

また、Future Sci Tech Labには宇宙空間における植物工場の実現を目指す研究施設「宇宙農場ラボ」も設置されています。米国では火星有人探査計画が進んでおり、わが国でもJAXA(宇宙航空研究開発機構)が日本人宇宙飛行士による月面探査の実現を目指す計画を発表しています。将来的に月面基地を作って、そこに人間が滞在することになると、食料確保の問題が文字通り死活問題。地球から食料を運ぶ手間とコストを考えると、月面上の植物工場での食料生産が合理的です。そこで「宇宙農場ラボ」ではJAXAとパナソニックとのコラボレーションにより、無重力空間である月面でジャガイモを生産する植物工場の実現に向けたさまざまな研究が進められています。

渡辺教授は「ほんとうは工場や研究施設を直接見ていただきたいのですが」と、「植物工場研究施設」や「LED農園®」の動画を紹介。スクリーンに映し出される植物工場での野菜作りの様子を食い入るように見つめる受講者も多く見られ、質疑応答の時間には野菜の生育から事業採算性、世界の植物工場事情まで幅広い質問が寄せられました。

当日のランチタイムには、朔風館2階の学生食堂「Cafeteria Sakufu」で受講者を対象としたスペシャルメニューとしてSci Tech Farm「LED農園®」産のリーフレタスをふんだんに使ったサラダうどんが登場。講義を聞き終わったばかりの受講者が長い列を作るほどの人気ぶりでした。

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