文学部「キャリアセミナーB」で、企業人を講師に迎えた「社会が求める『日本語力』」の特別講義を開催。

2019.06.24

6月7日、文学部国語教育学科の「キャリアセミナーB」の授業で、日東工器株式会社人事部部長石川智子氏を講師として迎えた特別講義「社会が求める『日本語力』」が行われました。

石川氏は大学時代に文学部で日本語学を専攻し、広報の仕事を志望して機械メーカーの日東工器に入社。現在は人事部部長、秘書課課長の重責を担われています。茅島教授が石川氏に「社会が求める『日本語力』」について話してほしいとラブコールを送り、ご快諾いただいたことによって今回の特別講義が実現しました。

本来「キャリアセミナーB」は3年生対象の授業ですが、茅島教授はこの日は特別に文学部2学科全学年の学生に授業を開放。当日は、1年生を含む多数の学生が教室に集まりました。

  石川智子氏  

まず石川氏より自己紹介と勤務先である日東工器の会社概要と製品について説明がされました。日東工器は一般消費者にはなじみの薄いB to B(企業間取引)企業ですが、現在世界中で使用されている空気・水・油など流体の配管を接続・切り離しができる迅速流体継手『カプラ』を開発した国内トップメーカーです。機械工具やコンプレッサー、ポンプなどの製品でも高い実績をあげています。企業理念として開発力を重視し、経営方針には会社の発展だけではなく、「社会への貢献」「従業員の幸福」を掲げています。

次に石川氏は「ここからみなさんは(学生ではなく)日東工器の社員になってください」と学生に語りかけ、具体的な6つの事例をもとにした学生参加(ワーク)を含めた講義がスタートしました。

最初の事例は「プレゼン資料」。記憶に残るプレゼンは、短く要点を絞りキャッチーな言葉で伝えることがポイント。石川氏はそのためには単に言葉を工夫するだけではなく、前提となる情報を収集する能力が大切だと話します。そしてその場で、日東工器を「ものづくりで◯◯する会社」という一文を学生が考え、配付したワークシートに書きました。何人かの学生が自分で考えた案を発表するのを聞いた石川氏は「実際に使えそうな言葉もありますね」と笑顔で応じてくださいました。

次の事例は「広報」です。ホームページのニュースリリース文をサンプルに、事実を正確にわかりやすく伝える広報文に求められる役割を解説。「書く以前にまずキチンと事実を把握することが重要。あまり広告宣伝臭を出さないことも広報文のコツです」と実践的なレクチャーがありました。続いて学生が取り組むワークとして「自分にキャッチコピーをつけてください」という課題が出され、学生たちは、広告宣伝・広報の言葉の出発点が、事実=自分自身の把握であることを実感しました。

3番目の事例は学生になじみの薄い「決算資料・有価証券報告書」。石川氏からは日東工器の有価証券報告書内の「独創的なオンリーワンの製品の開発」などをアピールする「経営戦略」のくだりが紹介されました。こうした書類においても「売上や株価などの数字だけではなく、会社が株主の方々の期待に沿って運営していることを納得していただくための『日本語力』は欠かせません」と説明がありました。

4番目の事例は「会議資料」「稟議書」「事業計画書」「報告書」などさまざまな社内資料の作成の仕方です。石川氏が部長を務める人事部へ新人教育担当者が提出した「指導員報告書」を例に挙げ、「忙しい社内で回覧する文書は短い文章の中でいかに読み手に伝わるよう作成するかがポイントです。核心・本質をつかんで要約できる日本語力が、仕事の質に直結します」と話してくださいました。

5番目の事例は「電話応対」「対外折衝」などにおける「言葉遣い」です。「なるほど→仰るとおり」「OKです→かしこまりました」「すみません→申し訳ございません」など、ビジネスにふさわしい言い換えのボキャブラリーが紹介され、若手社員がビジネスマナーを身につけて一つひとつの言葉の重みを認識することが、企業としてのブランド力向上の重要課題の一つなのだと教えてくださいました。

最後は社内メールです。石川氏が実際に部下から受け取った会社のリクルート向け動画の内容チェックを依頼するメールを使い、気持ちよく人に動いてもらうための表現の工夫などについての説明の後、配付された動画のナレーション文を学生全員が日東工器の人事部社員になったつもりで添削しました。

講義のまとめとして、石川氏からチームで取り組む仕事における「日本語力」は「発信力」「傾聴力」「情報把握力」から構成され、その上で3つの「社会人基礎力」が求められていると学生たちにアドバイスがありました。その3つとは、周囲と協力・協調できる「チームワーク」、失敗を怖れず前に踏み出す「アクション」、そしてよりよい製品・サービスのために徹底的に考え抜く「シンキング」です。石川氏自身もこれまでこの3つを念頭に置きながら、仕事に取り組まれてきたそうです。
企業の第一線で活躍する石川氏による講義は、学生たちにとって企業の一員として物事を考え、チームとして働くための日本語を捉える貴重な経験でした。そして「日本語力」という視点から、あらためて一人ひとりが「社会人として働くこと」の意味を考える良い機会となりました。

担当教員から
文学部
茅島路子教授

学生の就職支援をする際にキャリアセンターを通して、日東工器の石川様とお話させていただく機会がありました。お会いするたびに、私はその柔らかいお人柄と理路整然とした美しい言葉遣いに魅了されました。私が会社員になるなら、理想の上司像は石川様のような方です。以来、いつか学生に社会が求める「日本語力」についてお話しいただきたいと思い続け、今回、その夢がようやくかないました。もともと3年生対象の授業ですが、石川様より授業計画をうかがって、「これはすべての学生に聞いてもらいたい」と考え、この日だけは文学部全学生に授業を開放しました。参加した学生たちは授業を聴くだけでなく、ワークに積極的に取り組み、一人ひとりが社会が求める「日本語力」について新たな知見を体験的に得ることができたのではないかと思います。