第一線で活躍する玉川大学の研究者たちが高校生・中学生にレクチャー「高校生脳科学教室 2019」開催

2019.12.25

2019年11月16日、玉川大学脳科学研究所、玉川大学工学部、脳の世紀実行委員会主催の「高校生脳科学教室 2019」が開催されました。人工知能(AI)や脳科学への関心が高まっている現在、将来、それらの分野を研究したいと考える中高生も増えています。「高校生脳科学教室」では、玉川大学脳科学研究所の研究者が、高校生や中学生にそれぞれの研究分野の面白さと奥深さを伝える講演や体験学習を実施。一人ひとりの知的好奇心を刺激し、進路を考えるきっかけを提供しました。
なお、このイベントはわが国の脳科学分野の教育・研究の拠点であるNPO法人「脳の世紀推進会議」による「世界脳週間2019」のイベントでもありました。

小松英彦脳科学研究所長/脳科学研究科教授のあいさつの後、「脳科学が導く人工知能の進歩」と題した一般の方も聴講できる全体講演から始まりました。
講演者は玉川大学工学部/脳科学研究所の大森隆司教授です。まず「人工知能の歴史」から話が始まりました。


「ユダヤ教の伝承に由来する自分で動く泥人形ゴーレムや19世紀の小説に登場する人造人間フランケンシュタイン、そして1920年にカレル・チャペックの戯曲で「ロボット」という言葉が生み出され、1960年代には日本のアニメ「鉄腕アトム」が人気を博します。
その間、1930年代に最初のコンピュータが生まれ、1950年代に早くも第1次人工知能ブームが到来。並行して脳科学も進展し、その成果をヒントに生まれたニューラルネットワークの概念が第2次人工知能ブームを支えました。そしてビッグデータやディープラーニング技術が可能性を拓き、始まったのが現在の第3次人工知能ブームです」大森教授は、こうした人工知能研究の歴史を、時にはユーモアを交えつつわかりやすくひもときました。
そこからもう一つのテーマ「真の知能に向けて」へ話は進みます。人間の「感情」「思考」を人工知能は再現できるのか?たとえば人工知能が「嫉妬」や「愛着」を感じたり、「直感」的に考えたり、まったく新しいものを「創造」することは可能なのか?そんな問いかけの中から、脳科学の進展が人工知能の進展を導いていることを解説しました。

講演終了後は、いよいよグループに分かれての体験学習です。この日の体験学習は、以下4つのテーマで行われました。

A AIと君の脳の意思決定を比べよう─強化学習と脳の決断─

講師:鮫島和行(玉川大学脳科学研究所)

囲碁名人を打ち負かすAI囲碁は、取るべき行動を「決断」する問題を扱う機械学習の一種「強化学習」によって鍛えられました。では、私たちの脳はどのように「決断」しているのでしょうか?この体験学習ではコンピュータゲームの「行動実験」によって、「決断」を支配する「原理」や「法則」について講師のレクチャーを交えて考えました。
「日常で行っている自分たちの決断を数式で表せることが面白かった」と、参加した生徒の声が聞かれました。

B 目は口ほどにものを言う 眼球計測からわかる心の働き

講師:高岸治人(玉川大学脳科学研究所)

メガネのように装着して眼球の動きを計測する機器「アイトラッカー」を使って、金銭を分配する課題を遂行中の眼球の動きをデータとして記録。自分が感じていた感情とその強さを確認し、講師が前頭前野部で感じる罪悪感などのメカニズムについて解説しました。
参加者は「何気ない視線の動きが思いのほか深く感情と結びついていることが興味深かった」と感情のメカニズムの不思議さに驚いているようでした。

C micro:bit(マイクロビット)を使ったIoT入門

講師:岡田浩之(玉川大学工学部/脳科学研究所)、武藤ゆみ子(玉川大学脳科学研究所)

現代のIoT(Internet of Things=モノのインターネット)のシステムを考えるヒントとして、現代の家電や産業機器に組み込まれている「組み込みシステム」の基礎を教育向けのマイコンボード「micro:bit(マイクロビット)」を使って学びました。LEDで文字やアイコンを表現したり、じゃんけんゲームで遊んだり、温度計を作動させたり…「先生方の説明がわかりやすかったおかげで、漠然と抱いていたプログラミングへの興味が強くなりました」との感想が聞かれ、和やかなムードの中、参加者が楽しみながら取り組む姿が印象的でした。

D 神経の活動って何だろう? 神経活動データの解析

講師:田中康裕(玉川大学脳科学研究所)

タブレットやノートパソコンで、一般に公開されている脳のデータベースにアクセス。膨大に蓄積されているデータを参照しながら、神経活動と行動の関わりを視覚的にとらえるという体験学習が行われました。数値や文字ではない神経細胞の活動と行動の同時記録からは、動物の行動による神経細胞の変化が一目瞭然で「脳の形や神経細胞の数までわかって驚き!神経細胞の種類やつながりも面白かった」と興奮しながら語る生徒も。データ解析の初歩なども学び、脳科学研究の基礎を体験することができました。

各コースの発表および講評の様子
小松脳科学研究所長
参加した生徒による各コースの発表
鮫島教授
高岸准教授
武藤研究員
田中准教授

「高校生脳科学教室 2019」を終えて

玉川大学脳科学研究所准教授 田中康裕

玉川大学では「夏休み小学生理科教室」を実施して、大いに好評を博してきました。今回は高校生・中学生を対象に「脳科学」にテーマを絞った教室ということで、どのくらい参加者が集まるかと思っていましたが、学園内外から多数の参加者があり、充実した「教室」になったと思います。
私を含む体験学習の講師は、参加する高校生・中学生にわかりやすさとともに、どれだけインパクトを残せるかを工夫しながらプログラムを考え、準備を進めました。ただ、高校生と中学生では関心や理解の度合いも異なりますし、当日まで心配もありましたが、楽しそうに体験学習に取り組む姿を見て安心しました。もう少し時間があれば……という部分もありましたので、次回からは体験学習の時間・内容ともより楽しめるプログラムにしていきたいと考えています。この「高校生脳科学教室」を継続して開催していくことで、若い人たちの脳科学分野への道標となり、日本の理科教育を底上げしていければと考えています。