優れた演奏と楽器に触れた1日。玉川学園9-12年生の芸術鑑賞会が開催され、玉川の丘に音楽が響き渡りました。

2021.02.01

玉川学園の行事として、最初に音楽祭を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。毎年、保護者の皆さんが観客として鑑賞する音楽祭を開催していましたが、本年度は新型コロナウイルスの影響もあり中止となってしまいました。そこで玉川学園(9-12年)では芸術鑑賞会と変更しました。昨年の12月10日(木)に12年生の合唱発表会と、各グループに分かれて芸術鑑賞会が開催されました。

「本物に触れる」、芸術鑑賞会

玉川学園の教育活動に脈々と受け継がれている「本物に触れる」教育。今回の芸術鑑賞会はまさにそういった機会となりました。プログラムは「ベートーヴェンの世界」、「オルガンの世界」、「室内楽の世界」「玉川学園と音楽教育」の4つの分野で組まれています。各プログラムは、University Consert Hall 2016を中心に、礼拝堂やホームルームなど、幾つかの会場に設け、密にならないよう学年毎に分かれ各会場で鑑賞しました。各プログラムの内容をご紹介します。

ベートーヴェンの世界

ベートーヴェン生誕250周年となった2020年。University Concert Hall 2016のMarbleでの鑑賞会では、「『月光』を紐解く」と題して玉川大学芸術学部長の小佐野圭教授がステージに上がり、ベートーヴェンについての講義が行われました。当時の時代背景や、彼のパーソナリティ、どのような状況で名曲が生まれていったのか、楽曲の特色などスクリーンを用いてわかりやすく解説してくれました。講義のあとは、ベートーヴェンの死後に「月光」と呼ばれるようになった「ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調」の演奏が行われ、アンコールとして「エリーゼのために」を披露してくれました。スクリーンには芸術学部長小佐野圭教授が鍵盤を弾く手元が大きく映し出され、滑らかな指先のパフォーマンスと、そこから奏でられたホール全体に響く美しい音色に誰もが聴き入っていました。通常のコンサートではなかなか見られない細部までのテクニックをライブ映像によって理解することができました。

オルガンの世界

学園創生期に玉川の丘に建てられた礼拝堂には、創建当時からパイプオルガンが設置されています。10年前の2011年3月に起こった東日本大震災で、礼拝堂も少なからず影響を受けました。耐震補強工事を機に、パイプオルガンのメンテナンスも併せて実施し、今でも創立時と変わらない音色を響かせてくれています。創生期の玉川音楽の象徴ともいえる礼拝堂も今回の会場のひとつとなりました。
このプログラムでは礼拝堂のこのパイプオルガンを使い、玉川大学芸術学部の中村岩城教授が「めぐみゆたけき」、「フーガ ト短調」、「汝にこそ喜びあり」、「トッカータとフーガ ニ短調」、「ロンドンデリーエアーによる前奏曲」、「Joy to the World」を演奏。パイプオルガンの音を重ねて行く特徴を活かした曲や、12月という時期にふさわしいクリスマスの曲が、多彩な音色をもって会場全体に響き渡りました。また演奏だけでなく、当時としては大変珍しいパイプオルガンを備えた礼拝堂について、玉川学園と共に歩んだ歴史を学んだり、特注で設置されたパイプオルガンの鐘が鳴る仕組みを聞くなど、生徒は改めて礼拝堂の存在に感動したのではないでしょうか。演奏終了後にパイプオルガンを間近で見せてもらった生徒からは、「最近ピアノを始めたので、パイプオルガンの音が出る仕組みにとても興味を覚えました。もっと聞きたいですね」という声が聞かれました。

室内楽の世界

University Concert Hall 2016の106教室では、フルート、ヴィオラ、ピアノのトリオによる三重奏の鑑賞会が行われました。演奏するのは北川森央さん(フルート)、安藤裕子さん(ヴィオラ)、川田健太郎さん(ピアノ)。皆さん第一線で活躍する現役の演奏家であり、北川森央さんは小学部から高等部までを玉川の丘で過ごした玉川っ子でもあります。

この日の演奏では三重奏となる「トリオ・ソナタ ニ短調(C.P.E.バッハ)」や、それぞれの楽器の独奏となる「牝山羊の踊り(A.オネゲル)」、「『おとぎの絵本』より 第4曲(R.シューマン)」、「夜想曲 第20番 遺作 嬰ハ短調(F.ショパン)」を演奏。最後に「ロマネクス(R.アーン)」が披露されました。指揮者がいない中、3人が息を合わせて奏でる美しいハーモニーに教室中が包まれます。またオネゲルの「牝山羊の踊り」は、1919年の初演時に、演奏を担当したフルート奏者のルネ・ル・ロワをイメージして作られた曲ですが、この日、北川さんが持参したフルートはそのルネ・ル・ロワがかつて所有していたもの。約100年前の初演当時と同じ音色だと思うと、当時を想像し、タイムトリップをしているような不思議な感覚に包まれます。交響曲のイメージが強いクラシックですが、室内楽ならではの繊細な音色や、三重奏ならではの一つひとつの楽器の音が重なり合うソリストたちのアンサンブルを肌で感じられたことでしょう。

玉川学園と音楽教育

自身も小学部から高等部までを玉川学園で過ごした教育学部の朝日公哉准教授による、「なぜ、玉川学園では音楽教育を大切にしているのか」をテーマにした講義がオンラインでありました。生徒にとって身近な存在である愛吟集を題材に、玉川学園における音楽教育が持つ意味を解説。他者に聞いてもらい評価してもらうために音楽を学ぶのではなく、豊かな人間性を育み、他者と協調する全人的人間教育、学習者が主体の教育こそが、玉川学園における音楽教育であることを、朝日准教授はさまざまな事例を交えながら解説してくれました。大学の講義のような興味深い内容に刺激を受けた生徒たち。日々の歌への取り組み方が、少し変わるかもしれません。

ライブ配信された、12年生の合唱発表会

芸術鑑賞会のプログラム終了後、12年生はUniversity Concert Hall 2016のMarbleにて合唱発表会を行いました。玉川学園(9-12年)の音楽祭では、毎年最後に登場する12年生。そこで披露される「ディエス・イレ(モーツァルトの『レクイエム』より)」は、下級生にとっても学園生活の集大成としていつか歌いたいと思わせる、迫力に満ちた楽曲です。本年度は残念ながら音楽祭が開催できませんが、12年生のそうした想いを受け、今回学年別の合唱発表会を開催することになりました。
この日の12年生の合唱発表会では生徒たちはステージに上がらず、客席側に等間隔の距離を保ち、歌唱用のマスクを付けて舞台に向かって整列。合唱の様子はライブ配信されるので、保護者はネットを通して鑑賞します。指揮と指導を担当するのは、音楽科の高橋美千子教諭です。前日に練習したとはいえ、昨年までのように十分な練習時間が確保できなかった分、本番直前まで熱のこもった指導で、生徒たちの声を引き出していきます。生徒たちも真剣に指示に従って応えています。予定通り始まった本番では「ディエス・イレ」に加えて「いざもろともに」、「夢讃歌」、「玉川学園 校歌」、そしてアンコールとして「旅立ちの日に」を見事に歌い上げました。

今年の12年生は、2019年の音楽祭で披露した「ナブッコ(ヴェルディ)」の出来が素晴らしく、「12年生になったときの『レクイエム』が楽しみ」と期待されていた学年。もちろん生徒たちも音楽祭で歌うことを楽しみにしてきました。思い描いていたものとは異なるステージになってしまいましたが、だからこそ本人たちにとってはより感慨深い合唱となったのかもしれません。何より、十分な練習ができなかったにもかかわらず、高いレベルの合唱を実現させた生徒たちからは、「歌に始まり、歌に終わる」という音楽にあふれた玉川学園での日々が、一人ひとりに息づいていると感じられました。高橋教諭も「全員が揃って練習を行ったのは、昨日が初めてです。それでも『曲のこの部分はこういうイメージで、このテンションで、このスピードで』と伝えれば、希望通りに返してくれる。これはやはりこれまでの積み重ねと、彼らの意識の高さだと思います」と、生徒たちのポテンシャルの高さについて語ってくれました。

盛りだくさんのプログラムで、玉川の丘に音楽が響き渡ったこの日。開催が実現したことで生徒たちは、歴史を物語る楽器やプロの奏者による演奏といった本物に触れる貴重な機会を得ることができました。また「レクイエム」を合唱するだけでなく、曲について背景など深く授業で追求してきた12年生も、本物に触れる体験となりました。例年とは異なる形態で実施された芸術鑑賞会ですが、諦めず、さまざまな工夫を凝らして実現できたことは、生徒たちにとって忘れられない経験となったことでしょう。