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玉川大学・玉川学園学友会寄附講座:玉川の丘に山伏がやってきた!――文学部国語教育学科1年生対象「修験道と現代」を開講

2022.03.31

玉川大学・玉川学園学友会では卒業生を対象とした行事だけでなく、在学生支援にも力を入れています。その一つが学友会寄附講座です。2022年3月9日、文学部国語教育学科 学友会寄附講座として1年生を対象とした寄附講座「修験道と現代」が、大学教育棟2014で開催されました。講師としてお招きしたのは、羽黒山宿坊「大聖坊」13代目であり、羽黒山伏である星野文紘(山伏名:尚文)氏です。

まず、会の始まりに司会を務める国語教育学科秋保亘助教から、星野文紘氏と羽黒山の修験道に関する紹介がありました。山形県庄内地方にある出羽三山は、西の伊勢参りに対して東の奥参りと並び称される東日本を代表する聖地。参拝者が宿泊する施設が宿坊で、星野氏は羽黒山伏であり、歴史ある宿坊「大聖坊」第13代目当主を務めています。
山形県出身の秋保助教は自身が学生時代に修験道を体験され、以来十数年、星野氏のもとで修行を続けてきました。この日はその師(先達)を招いての講演会です。「星野先生の講演から、私たちが接しているサイエンス的な『知識』と修行を通してつかまれる身体的な『知恵』。その違いについて考える機会になることを期待します」と締めくくりました。

すると教室の最後尾のドアが開いて、星野氏が登場。学生たちが拍手で迎える中、大きなホラ貝を吹きながら階段教室の通路を力強い足取りで壇上に向かいました。

まるで知人に話しかけるように、星野氏はリラックスした口調で話し始めました。「山伏とは? 修験道とは?と問われるんだが、その答は『オレだよ。オレを見てくれ』。そこに言葉はいらない」。
そう話しながらも星野氏は「うけたもう!」と幸不幸のすべてを受け入れる山伏修行の基本精神、「人が犬のように山に伏すから山伏。現代の言葉で言うとマインドフルネスに近い」と修験道、山岳信仰の要点を学生にもわかる言葉で解説。「山に雨が降り、川になって海へと流れる。山から運ばれた栄養素で海のプランクトンが育ち、そのプランクトンを食べて、私が持っているこのホラ貝が大きく育つ。山とは新しい生命が誕生する子宮であり、すべての生命は山から始まっている」。
また星野氏は生命の終わりである「死」についても語ります。「死は特別なことじゃない。それは日常が終わった=非日常になったということに過ぎない。死を特別なことと捉えると、他人と自分の生き方を比べたりして、ロクなことはない」。続いて春に降りてくる先祖の霊をお迎えするお花見の由来に触れながら、山が人の魂と自然をつなぎ、人が持つ本来のエネルギーを引き出す自然の営みから感じる山伏としての死生観を語りました。

修験道が成立した理由については「それは日本人の心に染みついている〝曖昧性〟が生んだ」と指摘。日本の四季=春夏秋冬はいつのまにか移りゆくものです。「今日から春、今日から夏!」という明確な区分はできません。また聖地である出羽三山神社にしても、入口の大鳥居から延びる参道というこれまた曖昧な箇所が設けられています。参道は鳥居の中にあるが人家や店舗、宿などが建ち並び「聖地」とは言えません。ヨーロッパの教会が入口を入ればそこは明確に聖地になっているのと対照的です。また伝統的な日本家屋には内でも外でもない「縁側」という曖昧な部分が設けられています。こうした例をあげながら「曖昧性」こそ日本人の精神性の特徴であることを示唆。「曖昧であることによって仏教、道教、アニミズムなど、何でも取り入れる自由な心から修験道が生まれた。この曖昧性は人との関係の上でも、対立や息苦しさを避け、心地よい関係を生む」。続いて「だが明治維新以降、日本はその曖昧な文化を壊し続けてきた。それから150年を経た今、日本人が行き着いたところは?」と会場の学生たちに鋭く問いかけました。
「山からすべてを教わった」という星野氏は、「感じることを大切にしよう。思考だけで先はわからない。若い学生の皆さんは今の自分から生きるようにしなさい。すべては今から始まる」と若い世代へのメッセージで講演を締めくくりました。

質疑応答の時間には「修行をするにはどこの山に行けば良いのか?」「修行とは具体的にどんなことをするのか?」「死ぬことが怖くないのですか?」など多くの質問が寄せられました。そのうち何名かは星野氏の著書にも目を通してから参加したようで、星野氏は学生それぞれの質問に柔らかな笑顔で丁寧に回答していました。

講演終了後にオンラインで寄せられた学生たちの感想には「日常で接する機会がない山伏という存在、その考え方を知ることができた」「共感できる部分や新たな気付きを得ることができた」「自分は自分でいいのだと自信をもつことができた」「調べれば分かる内容ではなく、山伏の生き方や考え方等のリアルなお話を聞くことができた」など、ほとんどの学生が星野氏のお話に感銘を覚え、現代文明に囲まれた私たちの日常の外に広がる広大な精神世界に触れる体験に満足を覚えたようでした。

「ホンモノの伝統文化に触れることによって幅広い視野と教養を身につける」。国語教育科の寄附講座は今後もこうしたコンセプトのもと、学生たちの未来に資する講座を開催していく予定です。

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