幼稚部からプログラミング教育に取り組み、その内容を大学・研究所が研究。ワンキャンパスだからこそ可能な、教育と研究の循環
2020年度より小学校でも必修となったプログラミング教育。子どもたちに対してどのようにプログラミングを指導するのか、全国の学校でも模索が続いています。こうした中、玉川学園ではプログラミングの準備教育を2020年度よりスタート。小学部1~2年生と幼稚部年長組を対象に、プログラミングに必要な考える力を専用の知育玩具を用いて遊びの中で育んできました。
この活動をサポートしているのが、教育学部の高平小百合教授(研究代表)、K-16一貫教育研究センターの油川さゆり助教をはじめとする6名(大森隆司名誉教授・鈴木美枝子教授・小酒井正和教授・小原一仁教授)の研究グループです。情報システム教育コンテスト(ISECON2022)では、この活動をもとに行った研究発表「PCに依存しない幼児・低学年のプログラミング教育カリキュラム」で最優秀賞を受賞。また日本子ども学会のポスターセッションでは、2年連続の優秀発表賞も受賞しました。
本年度のプログラミング準備教育は2学期と3学期に実施されます。ここでは11月14日に幼稚部で年長組のチャレンジプログラムの一環として行われた様子をお伝えします。
準備教育では、まずプログラミングの概念を理解してもらうため、パソコンではなくキュベットと呼ばれる知育玩具を使用。キューブ状の木製ロボットであるキュベットを、指示通りに動かすことを体験的に学んでいきます。キュベットは、ボードと呼ばれる指示板に緑・黄・赤のブロックをはめ込むことで、指示した順番通りにマップ上を移動します。けれども先生は幼稚部の子どもたちに対して、そうした説明は一切行いません。子どもたちは二人一組になり、まずはボードでキュベットを動かすところからスタート。徐々にボードにはめ込むブロックの色により、直進・右折・左折をするということを理解し、マップ上でキュベットを動かしていきます。
ここで重要になるのが、適切なアドバイスを送るファシリテーターの存在です。「今度は山に行ってみようか」などと声をかけ、何マス進めば目的地に到着できるのかを子どもたちに考えさせます。このファシリテーター役を担当するのが、教員の他、教育学部を中心としたボランティアの大学生たちです。将来教員を目指す学生にとっては、教育実習以外で子どもたちと触れ合い指導役を担当できる貴重な機会となっています。また「プログラミングを研究する際の参考にしたい」と、工学部の学生も参加しています。
ファシリテーターの話をヒントに、自分たちで考えながら答えをみつけていく子どもたち。ブロックの意味を理解すると、積極的にキュベットを移動させたり、グルグルと回転させて楽しむなど、グループによって遊び方はさまざま。自分で指示を出してキュベットを動かすことはまさにプログラミングといえるのですが、子どもたちは遊びの中からその概念を理解してきます。一通り体験した後、先生から「キュベットはどうでしたか?」と尋ねられると、子どもたちは「赤のブロックをはめ込むと右に曲がるんだよ」など、理解したことを競い合うかのように元気な声で答えていました。
ファシリテーターとして参加した学生たちの声
幼稚部 参加学生
将来の目標がまだ定まっていないのですが、総合大学のメリットを活かしていろんなことを経験したいと思い、参加しています。子どもたちの気付きの速さや柔軟さに驚かされます。
工学部マネジメント・サイエンス学科2年 小原光善さん
幼稚園教諭資格取得を目指し、通信教育課程で学んでいます。このチャレンジプログラムでは先生方が教えすぎず、上手に子どもたちの興味をかき立てる様子がとても勉強になります。
通信教育課程 西山愛理さん
小学部 参加学生
キュベットという教材をどのように児童へアプローチするのか、先生方それぞれのアプローチ方法を知ることができ、勉強になりました。
教育学部教育学科1年 落合聡美さん
理解の早い児童と遅い児童の双方に、適切なタイミングで声をかけることの重要性や、何より児童をよく観察することの大切さを、大学1年という早期に理解することができて良かったです。
教育学部教育学科1年 片桐愛梨さん
この取り組みについて研究の代表を務める教育学部の高平小百合教授に話を聞きました。
「キュベットでは、先生もファシリテーターも敢えて説明をせずに、子どもたちにゲーム感覚で遊んでもらうようにしています。その中で自ら発見する喜びを感じてもらうと、自然と頭の中でシミュレーションできるようになっていきます。それがプログラミングの基礎になっていくと思います。またITの分野ではエンジニアがチームを組んでプログラミングを行いますが、キュベットも複数名で取り組むことで、協調性などが身に付くと考えています。玉川学園のプログラミング教育の良いところは、大学での産学共同研究と学園での実践教育が結びつき、その一環として大学生ファシリテーターが参加することで相乗効果を得られることだと思います。これは、幼稚部から大学院までが一つのキャンパスの中にある玉川大学だからできることだと思います」
今後は、大学と学園の連携をより深め、お互いに協力しながら学園の先生方のニーズに合わせてファシリテーターとして教育学部の学生を送り、プログラミング教育現場を経験させられるシステム作りを検討しています。
また油川助教も「パソコンの操作に慣れていないこの年代の子どもたちに対して、友だちと一緒に楽しんだという経験が、この後のプログラミング学習に反映されていくといいなと思います。ファシリテーターの存在が非常に重要なので、より多くの大学生に参加してもらえればいいですね。学生時代にプログラミング教育に参加した経験は、教育現場に出た際に大きな力になるはずです」と、子どもたちと大学生双方のメリットについて語ってくれました。
まだまだ手探り状態のプログラミング教育ですが、玉川学園では幼稚部から大学院、さらに研究所までを擁するワンキャンパスのメリットを活かし、幼稚部や小学部でプログラミング教育を実施し、大学生がそれをサポートする、そこで得たデータを用いて研究チームが分析し、その研究成果を教育活動に活かすという、いい循環ができています。
第19回日本子ども学会のポスターセッションで優秀発表賞を受賞。
9月23日(土)・24日(日)の2日間、白百合女子大学において第19回日本子ども学会学術集会が開催されました。高平小百合教授、油川さゆり助教をはじめとする研究グループが「プログラミング的思考を育む活動の行動分析 ―低学年の上位と下位の行動の違い―」と題したポスター発表を行い、優秀発表賞を受賞。昨年に続き、2年連続での受賞となります。2020年度より、高平教授、油川助教、鈴木美枝子教授・小原一仁教授、工学部の小酒井正和教授、そして脳科学研究所の大森隆司名誉教授ら6名で取り組んできました。この研究発表では、キュベット研究の中で撮影した授業の様子を基に動画分析を行い、プログラミング的思考を測る認知得点の上位と下位の児童の行動の違いを明らかにしました。
「柔軟に研究ができており、幅広いデータを取得できたことが、評価されたポイントと考えています」と油川助教。こうした研究の成果を、今後は幼稚部や小学部で活かしていきます。