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フィリピンとの共同研究を行う「BaCaDMプロジェクト」第1回公開シンポジウム「これからどうなる バナナとカカオ」が開催されました。

2024.07.03

2024年6月9日(日)13時より、玉川大学・大学教育棟2014 521教室にて、「BaCaDMプロジェクト」第1回公開シンポジウム「これからどうなる バナナとカカオ」が開催されました。

近年、バナナとカカオの病害は世界的に拡大しており、生産国の人々の生活にも深刻な影響をもたらしています。日本にとって最大のバナナ輸入国であり、カカオ生産にも注力しているフィリピンでは、未だ防除法が確立されていないバナナの萎凋病やシガトガ病、カカオのVSD病、ブラックポッド病などが多発。バナナの一大生産地である同国ミンダナオ島では2019年に約3,000haのバナナの耕作地が被害のため放棄されました。さらにカカオについても多くの農地で病害による甚大な被害が報告されています。

玉川大学農学部ではフィリピンの大学や農業省と協力してこれの病害から農作物を守り、さらに持続可能な生産体制の確立を目指して、2020年より共同研究「難防除病害管理技術の創出によるバナナ・カカオの持続的生産体制の確立」に取り組んできました。通称「BaCaDMプロジェクト」と呼ばれるこの共同研究は、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS:サトレップス)の採択課題です。
SATREPSは、国内研究機関への研究助成のノウハウを有する国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)と、開発途上国への技術協力を実施する独立行政法人国際協力機構(JICA)が、国際共同研究全体の研究開発マネージメントを協力して行っており、渡辺京子本学農学部教授を研究代表者として東京農工大学や三重大学(2023年度まで)、株式会社ユニフルーティジャパンとも連携しながら進められてきました。またSATREPは国際協力機構(JICA)も関わっており、科学技術外交の強化を目指す、まさに国をあげてのプロジェクトとなっています。
今回のシンポジウムはこのプロジェクトの現状報告を兼ね、関係者がそれぞれの知見と問題意識を共有する貴重な機会となりました。シンポジウムは自由参加で、学生や研究者をはじめこのテーマに関心がある多くの方々が来場されました。

シンポジウムの司会を務めたのは共同研究のパートナーであるセントラル・ルソン州立大学准教授でBaCaDMプロジェクトのマネージャーを務めるパーソンズ・ヘール氏。英語による紹介によって玉川大学小原一仁学長とJSTの長峰司研究主幹が挨拶。それぞれプロジェクトへの期待と参加者への感謝を述べました。

<パーソンズ・ヘール氏>
<小原一仁学長>
<JST 長峰司氏>

シンポジウムの第一部は、フィリピン産バナナやカカオに深く関わる3名の方々によるによる特別講演が行われました。



最初に登壇されたのはバナナなど海外産フルーツの輸送、加工、流通までを手がける株式会社ユニフルーティージャパンの紿田茂哉氏です。「バナナの歴史と現状」と題して、1903年に台湾から初めて輸入されてから現在までの「バナナの歴史」「バナナ輸入数量の推移」について時代ごとのバナナと日本人をめぐるエピソードを交えてわかりやすく解説されました。続けて「フィリピン最大のバナナ生産拠点、ミンダナオ島」「バナナ栽培/収穫から店頭までの流通経路」など、バナナ生産地の環境と近年の小規模農園の増加と生産共同組合結成、日本企業の出資などによる自己管理農園などのバナナ生産の変遷と現状、そして生産地から日本の店頭で売られるまでの意外と知られていない流通の実際について詳しく解説していただきました。
さらにBaCaDMプロジェクトの問題意識とつながる「バナナが食べられなくなる?」「安定した生産の継続と今後への期待」とのテーマによるお話は、食の安全性のために厚生労働省によって2006年より施行された「残留農薬等に関するポジティブリスト制度」のために従来使用していた除草剤や殺虫剤、殺菌剤などが使えなくなった影響、また予防できない萎凋病などによる生産量の減少に関する現状をデータに基づいて紹介。将来的に生産者の負担が少なく、安定した生産を図るための方策が求められていることを訴え、BaCaDMプロジェクトへの期待の言葉で講演を締めくくりました。



2番目に登壇されたのは、わが国における老舗チョコレートメーカーである株式会社明治の土居恵規氏。同社で各国のカカオ豆農家の生産支援を手がけてきた土居氏は2006年にカカオ農家支援活動「メイジ・カカオ・サポート」をスタートさせた方です。
土居氏の演題は「カカオ・セクターのサステナビリティ」。明治が独自に取り組む「メイジ・カカオ・サポート」の問題意識に即して小規模農家に生産が委ねられている「カカオ豆の需要と供給」、近年、記録的な高騰と乱高下を見せている「カカオ豆の市場価格」など、現状の問題点の前提となるカカオ豆生産を取り巻く環境についてお話いただきました。
続いて土居氏は「カカオ・セクターにおける問題点」「業界の取り組み」「当社の取り組み」とのテーマで、自らの見聞と体験を交えながら「貧困」「児童労働」「森林減少」といった生産現場が抱える問題点、世界のチョコレートメーカーや業界のNPOがどのように問題解決に向けて取り組んでいるのかを具体的に解説。そして世界9カ国のカカオ豆生産現場で展開している「メイジ・カカオ・サポート」の詳細について自ら現地で撮影した動画を交えて解説していただきました。「サプライチェーン全体をハッピーに」「生産地=川上の貧困は消費地=川下である私たちの責任」と話す土居氏は、「消費者の皆さんにも私たちの生産地のための取り組みについて知っていただき、そのリスクとコストを誰がどのように負担するのかを考えてほしい」と会場にメッセージを投げかけました。



特別講演を締めくくったのはフィリピン農業省ポストハーベスト開発機械化センター局長のジョニシオ・アルビンディア博士です。アルビンディア博士の英語による講演は「フィリピンのカカオとバナナ産業の現状(Status of Banana and Cacao Industry in the Philippines)」。日本、韓国、中国を主要輸出国とするフィリピンのバナナ産業が小規模農家の労働に支えられ、決して生産性の面では良好とは言えないこと、一方で雇用、インフラ整備、農業の多様化、さらには在外投資、輸出、技術移転などの面でバナナ生産は国にとってきわめて重要であることをアピールしました。
カカオ産業については、フィリピンがカカオ生産に適した機構・土地で競争力のある主要生産国であること、それに伴って政府の支援プログラムなどが充実していること解説。アルビンディア博士によると、フィリピン全土で生産されるカカオ豆の実に78%がミンダナオ島ダバオ地区に集中しているそうです。
一方でバナナ、カカオともさまざまな病虫害や自然災害、農業のあり方などの面でさまざまな懸念材料を抱えていると話されました。そのためフィリピン政府も生産性の改善、研究開発、市場の認知度向上などに関する農家へのバックアップを行い、同時に今後は官民連携の強化によって「One Sector-One Voice」を達成し、カカオ産業のさらなる振興を目指していることを紹介していただきました。

15分間の休憩時間をはさんだ第2部は、BaCaDMプロジェクトメンバーによる報告会でした。
最初に代表研究者である渡辺京子農学部教授が「カカオとバナナの病気を防除するプロジェクトの実施内容」と題して、プロジェクト全体の取り組み概要について説明しました。国際植物防疫年=2020年にスタートしたプロジェクトは、「展途上の重要な換金作物の持続可能な生産」「フィリピンのバナナ、カカオの価値の向上と環境保全」そして「日本の農業技術の信頼性と産業の発展」などの社会貢献を目指して取り組まれてきています。途中、コロナ禍による研究の停滞もありましたが、バナナとカカオの病害防除技術の開発や開発技術に対する経済的評価と普及の面で着実に成果を上げ、現在、この取り組みを次世代につなぐ若手人材育成にも力を入れていると力強く話しました。

続いて農学部の野澤俊介特任助教が、バナナに関する病害防除技術の取り組みと成果を紹介。現地農園での実験を繰り返した末に、バナナの萎凋病が1%のエタノール水を農地に散布する土壌還元消毒によって効果的な防除ができることがわかったという報告を行いました。さらにゲノムデータを利用した迅速な病害診断技術の開発も順調に進められていることを紹介。同時にゲノムデータから新種を含む多様な病原菌を明らかにしていくことを紹介しました。

カカオの病害防除技術の取り組みと成果は、農学研究科博士課程に留学中のセリン・パディラさんが英語でプレゼンテーションしました。
まずVSD病など、未だに主要な原因菌が判明せず、効果的な防除法が確立されていない病害について多数のサンプル採取から約400に及ぶ病原菌を分離したことを報告。「果実腐敗と葉の斑点や葉枯れの病原菌」「VSDと果実腐敗の病原菌」など、フィリピンでは初の報告となる数々の成果について発表しました。
またバナナ同様に1%エタノール水による土壌還元消毒の有効性も確認されたこと、今後は土壌消毒の最適化とともに、病害診断AIの開発に用いる病害の葉の画像の収集なども進めていくことも報告しました。

シンポジウムの最後に「質疑応答」の時間が設けられ、会場の参加者、講演者・報告者それぞれが質問を投げかけ合い、有意義な情報交換・共有が行われました。

なお、次回第2回公開シンポジウムは、本年10月30日にフィリピン・マニラにて開催予定です。

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