学生のアイデアが「お~い お茶」の未来を変える?伊藤園との産学連携教育 成果発表
芸術学部アート・デザイン学科の博多哲也講師が担当する3年生の必修科目「芸術表現学」では、「お~い お茶」ブランドで広く親しまれている株式会社伊藤園(以下、伊藤園)との産学連携教育に取り組んでいます。授業テーマは「人とお茶の関係をリデザイン(再定義)する」です。
4月に伊藤園社員の方々から、働く女性・スマートシニア・Z世代といったターゲット層に「『おーい お茶』を選んでもらえる方法を考える」という課題が出されました。学生たちは17のグループに分かれ、授業で学んだ「デザイン思考」のプロセスを念頭に置きながら、自由な発想で伊藤園製品の販売・サービス戦略のアイデアを創出。
プレゼンテーションに向けて企画を立案する際、各チームは年齢・性別・家庭環境・人格など、具体的な特徴を持つペルソナを設定し、そのペルソナが求める製品やサービスについて議論を重ねながら、アイデアを絞り込んでいきました。
7月3日と10日の2日間、伊藤園より町田支店長の野村義富氏、マーケティング本部販売促進部課長代理の西村学氏、そして特販管理部部長出でありティーテイスター2級の資格を持つお茶のプロフェッショナル萬伸一氏を審査員に迎え、各グループの最終プレゼンテーションを実施しました。学生たちは、パワーポイントによる企画提案だけでなく、イラストレーション・アニメーション・パッケージの試作(モックアップ)など芸術学部で学んだ多様な表現方法を駆使し、多角的な視点から熱意のこもったプレゼンテーションを行いました。審査員の方々も学生たちの発表に熱心に耳を傾け、大きく頷きながらメモを取られていました。
以下、最終プレゼンを行った全17グループの企画概要を紹介します(発表順)
グループ名:抹茶チーム
17歳のSNS好き女子高生向けに開発した新商品「PASHARI TEA(ぱしゃりてぃ)」は、カメラのシャッター音から名付けました。ピンクを基調としたラベルデザインは、3種類の模様×6色=計18パターンのバリエーションが特徴。友達と一緒に違うデザインを集めて楽しむことができます。さらに、オリジナルチェキやカメラフィルターなど写真を楽しむためのアイテムを利用して、SNSでの拡散を狙います。ノート型の持ち運びやすいボトルに、赤い色味が美しい「サンルージュ」というお茶を詰め合わせました。女子高校生たちの注目を集める「映え」要素が満載の商品です。
グループ名:米
50歳の多忙な女性看護師をペルソナに、仕事で疲れた毎日を送る彼女が求める「リラックス」「美と健康」「家族との時間」を叶えるお茶の詰め合わせ商品「KYUcha」。緑茶、玄米茶、濃い茶、檸檬緑茶、ほうじ茶の5種類のティーバッグが詰め合されており、その日の気分に合わせて好きなお茶で心身のリラックスを促します。手軽に飲めるティーバッグだけでなく茶葉としても楽しめるため、ゆったりとした時間を大切にしたい方にもおすすめです。様々な種類のお茶を味わうことで美容と健康をサポートし、忙しい毎日を送る女性を応援します。
グループ名:お〜い厘瑠
健康志向の女子高校生をペルソナに、「Z世代」をターゲットとしたプレゼンテーションを行いました。茶カテキンの健康・美容効果に加え「スタイリッシュさ」「飲みやすさ」「健康」のイメージを前面に押し出したパッケージデザインを提案。商品名も「Oi Ocha」とアルファベット表記にすることで、より若者向けの印象に。さらに、潰せる素材のペットボトルを採用することで、分別リサイクルのしやすさと、潰す行為によるストレス解消効果も期待できます。
グループ名:えだまめ
妻と子どもと暮らす42歳のカナダ人男性をペルソナに設定。日本のお茶文化を感じられるだけでなく、糖質・カフェインオフで健康に良い成分を含んだ、健康を気にする中高年層向けの「フルーツ麦茶」という新たな商品を提案。特に、ミネラルやポリフェノールが豊富な麦茶に、ビタミンC・Aやカリウムを含む柿を組み合わせた「柿麦茶」は、斬新なアイデアとして注目を集めました。テンポの良いプレゼンテーションで、この新商品の購入意欲を高めるためのスタンプラリー企画や、家庭でも手軽に楽しめるウォーターサーバーの導入といった、ユニークなアイデアを発表しました。
グループ名:アップル
ペルソナに設定した23歳の男性会社員は、睡眠不足や経済的な余裕のなさ、仕事のストレスを抱えています。そこで、こうした悩みを抱える彼に、お茶を飲んでほしいと考え、「奏三茶」を提案しました。3種類のハーブが奏でる香りと味で、朝・昼・夜、それぞれのシーンに合わせたお茶を楽しむことができます。手軽に持ち運べる200mlのパウチ容器で、100円以内という価格設定も魅力。自販機などでも気軽に購入できるため、これまでお茶にあまり興味がなかった人にも手に取ってもらいやすくなっているのもアピールポイントになっています。
グループ名:内定が欲しい
米国オハイオ州に住む、ヨガと読書が趣味の27歳女性がペルソナ。謙虚で、自己評価が控えめな一面を持ちながらも、健康志向でオーガニックな食品に関心を持っています。甘いものが好きですが、健康に良い成分も同時に摂取したいという多様なニーズに応えるため、「お~い お茶ONE」を提案しました。本商品は、近年女性に人気が高いノンカフェインでポリフェノールや鉄分を含むルイボスティーをベースに、自然な甘みのハチミツを加えることで「飲みやすい」「健康的」「美容に良い」という三つの要素を兼ね備えています。上品な赤系のパッケージは女性の心を掴み、手に取りたくなるようなデザインとなっています。
グループ名:お〜い お茶
母親を対象としたアンケート結果から、多忙な日々を送る一方で、健康に対する意識の高い50代の女性が浮かび上がりました。そこで、夫と3人の子どもを持つ50歳の女性をペルソナに設定。忙しい日々の中でストレスを感じている毎日を送る女性たちの心身に寄り添い、癒したいという思いからラベンダーとカモミールの贅沢な香りでリラックス効果の高い新商品「LAVENMILE TEA」を提案。紫が基調の、シンプルながらも品のあるラベルデザインで、大人の女性にアピールしています。ネーミングは、主要成分であるラベンダー(Lavender)とカモミール(Chamomile)を組み合わせ、シンプルながらも覚えやすく製品の特徴が伝わるように名付けました。
グループ名:博多園
ライブが好きな一人暮らしの19歳女性をペルソナに設定し、推し活をする若者が思わず手に取りたくなるようなライブイベント向きのリデザイン案を提案しました。ライブイベント会場内外の自販機やコンビニでメンバーカラーをイメージしたラベルや、「推し」の名前を書き込めるラベルの「お~い お茶」を販売。また、アクリルスタンドなどのグッズと一緒に撮影できるほか、有名企業とのコラボレーションやオリジナルのラベルデザインを作成できるWEBコンテンツ「お〜い お茶」メーカーをリリースし、ラベルに掲載したQRコードで読み込んで作成するという多様な楽しみ方を推し活ターゲットに提案します。
グループ名:3班
「疲れた社会人を癒してくれるペットみたいなペットボトル」というユニークなアイデアで注目を集めました。ペルソナは仕事が忙しくペットと過ごす時間が少ないという悩みを54歳の独身男性。インコ(緑茶)、猫(ほうじ茶)、犬(玄米茶)のモックアップ(模型)を制作し、仕事中でも、いつでもどこでも持ち歩ける「ペット」ボトルの魅力を発表しました。また、交通広告をメインとすることで忙しい毎日を送る社会人に自然と目に触れる機会を増やし、さらに、疲労回復を促進する成分を配合することで「働くあなたの寄り添う」お茶製品であることをアピールしました。
グループ名:濃いお茶
いつも献身的で家族や同僚から頼られる存在だが、一方で自分の頑張りを「ほめられたい」という気持ちも抱いている、夫と中高生の子供と暮らす45歳の「働く女性」をペルソナとして設定し、新商品「フレー!フレー!お茶」を提案。ペンライト型のボトルに応援メッセージが書かれたラベルをデザインし、飲み進めていくと文字が徐々に見えるような仕組みを考えました。ボトルを振ることによって生じる泡はまるで抹茶の泡のように「口当たりをまろやかにする」という効果があります。これは「フレー!フレー!」という応援の掛け声と、ボトルを振るという二つの要素をかけています。自ら制作したモックアップボトルを実際に振るパフォーマンスを交え、商品の魅力を強く印象づけました。
グループ名:ユヅキーズ
「自分だけの時間を大切にしたい」と願う女性をペルソナに設定し、〝ちょっと一手間″ をコンセプトにした「お~い お茶」の新しいセット商品を提案しました。厳選された茶葉とお茶菓子、そしてお茶の淹れ方を丁寧に解説した説明書を、おしゃれな化粧箱に詰め合わせました。さらに「理想の湯呑み」を加えた「PLUS」セット、「理想の急須」もセットにした「MAX」セットなど、好みに合わせて選べるラインナップをご用意。生活時間を彩る趣味としての「お茶」の魅力をアピールし、「お~い お茶」ブランドの価値向上を目指します。
グループ名:ナナハン
ペルソナは、バドミントン部所属でインドア派の17歳女子高校生。アルバイトができないため金銭的な制約があるが遊びたい、部活中の水分補給に水筒だけでは足りず、ペットボトル飲料を購入するが飲みきれないという悩みを抱えています。そこで、必要な水分補給を効率的に行える200mlから600mlまでの幅広いサイズを展開しました。ラベルレス設計によりゴミの減量に貢献し、環境にも優しい商品です。さらに、ボトルに印刷された二次元コードを読み込むとミニゲームを楽しむことができ、若い世代の購買意欲を高めることができる販売促進戦略を発表しました。
グループ名:おーいお茶
「ライブの前後に飲みたくなるお茶」をコンセプトに、音楽好きで、よくライブ会場に足を運ぶ女子大学生をペルソナに設定。ライブ会場では、荷物がかさばることやゴミの処分が難しいといった問題が頻繁に発生します。そこで、これらの問題点を解決するためスリムでラベルレス、簡単に潰せるコンパクトなペットボトル製品を提案しました。中身のお茶は、カフェインレスの穀物ブレンド茶を採用。美容や健康を意識する若い女性に向けて、抗酸化作用など美容効果もアピールします。さらに、スタイリッシュなボトルデザインは、ファッションの一部としても楽しめます。
グループ名:ちぃーむうぉーたー
バスケットボール部に所属する17歳女子高生がペルソナ。お茶は「苦い」、ペットボトル飲料は「荷物がかさばる」「コスパが悪い」「環境に良くない」と感じています。そこで、家庭や学校に置ける「お~い お茶」のペットボトルを模したクリア素材を使った「お茶サーバー」を提案。3種類のお茶から、自分の好きな味と量に調整して飲むことができます。マイボトルを持参すれば、いつでも新鮮でおいしいお茶を楽しめます。マイボトルを持参することでプラスチックごみの削減にもつながり、環境にも優しい生活を送ることができます。
グループ名:右利き
「自分の感情を物や色で表現」をコンセプトに、20歳の女性をペルソナに設定。友人が多い一方で、自分の感情を上手く表現できないという悩みを抱え、「周囲の人が自分の気持ちを察してくれる」手段が欲しいと思っています。そこで「感情」をテーマにした4種類のパッケージラベル「お~い お茶」を提案します。「楽しい」「怒り」「悲しい」「幸せ」という4つの感情に合わせて、パッケージの背景色やロゴデザインをアレンジし、それぞれの感情を視覚的に表現しました。実際にモックアップ(模型)を制作し、商品を手に取った時のイメージをより具体的に表現し、視覚的な訴求力を高めました。
グループ名:チームiPhone
テニスと小説が好きな女子高校生がペルソナ。部活での水分補給で飲むスポーツドリンクの味が苦手という悩みに応え、爽やかな梅の風味と豊富な栄養が魅力の新商品「梅のお茶」を提案。梅に含まれるクエン酸は塩分補給や疲労回復効果を発揮し、激しい運動後の体の回復をサポートします。また、緑茶のカテキンとの組み合わせで免疫力を高め、風邪予防にも効果が期待できます。低カロリーで美肌効果やストレス軽減、熱中症対策など多くのメリットを紹介しました。ただし、運動中以外での過剰摂取は、高血圧などの健康リスクを高める可能性があることをプレゼンテーションで注意深く説明しました。
グループ名:チーム12
ペルソナはゲームが好きなZ世代男性です。苦味が苦手でお茶を飲む習慣がありません。そこで、ゲームを楽しむ前後に飲みたくなるお茶を提案。ゲーム前には、眠気を解消するカフェイン入りで苦みが少なくまろやかな「玉露」を、ゲーム後には、ノンカフェインでリラックス効果のある「カモミール茶」を使用します。さらに、お茶のパッケージにQRコードを掲載し、ゲームとのコラボレーションを企画します。QRコードを読み込むと、ゲーム内で使える限定アイテムが手に入り、コレクション要素も楽しめます。この取り組みを通じて、ゲーム好きの若年層に、お茶を飲む習慣を定着させ新たな市場を開拓します。
プレゼン内容に対する伊藤園の方々の評価は高く、「原稿を読まずに自信を持ってプレゼンする姿が素晴らしい」「しっかり根拠があっての企画内容」「実際に売れそうなアイデアがあって驚いた」「若い世代ならではの発想でこちらが刺激をいただいた」といったご感想をいただきました。また、各チームが制作したモックアップも熱心にご覧いただき、その完成度に驚かれていました。受賞作品は、最終的に7月17日の授業において、以下の5グループに決定しました。
金賞
グループ名:米「リラックスできるお茶」
銀賞
グループ名:3班「ペットみたいなペットボトル」
銅賞
グループ名:博多園「お〜いお茶×推し活」
ちょっとひといき賞
グループ名:えだまめ「柿麦茶」
グループ名:チームiPhone「う~めお茶」
観客賞
グループ名:ちぃーむうぉーたー「おーいお茶のティーサーバー」
- 受講生全員による投票で最も共感を得たプレゼン
~授業を終えて~ 博多哲也講師
「芸術表現学」は、芸術学部アート・デザイン学科3年生必修の科目です。「デザイン思考」によるプロセスを通して、情報を収集・精査し、メディア表現とストーリーテリングによってデザイン提案を実現させていくことを目標としています。
科目の特徴としては、必修科目の中でグループワークを設けているため、自身と同じような考え方ではない、多様な学生でチームが構成されます。チーム内のコミュニケーションに悩んでいる学生も多く見受けられました。しかし、そのような状況が学生のコミュニケーションの在り方を変化させ、デザイン表現を具体化させていくきっかけにもなったようです。最終的には、甲乙つけがたい独創的なデザイン提案が出揃いました。
「デザイン思考」で重要なことは、他者にプロセスの適用を図ろうとすることではなく、それぞれが共にプロセスを俯瞰できるようになっていくことだと考えています。人間を中心とした表現とは何か、向き合う相手は誰かを想像し、アイデアを共有する喜びをさまざまな領域で展開していってもらいたいと願っています。