玉川大学・玉川学園学友会寄附講座開催報告
市川高麗蔵丈講義
日程:2024年11月12日(火)教育棟612教室
講師:市川高麗蔵丈(神辺晃氏・高等部1976年卒)
題目:人生と職業―歌舞伎編―
国語教育学科の2年生を対象に「人生と職業」を考えるキャリア教育(学科授業科目「キャリアセミナーA」)の一環として、市川高麗蔵さんをお招きした体験型の講義が実施されました。
この講義は、3月に実施予定の2年生の研修行事(歌舞伎鑑賞)の事前学習も兼ねており、学生たちが企画し運営したものです。当日の講義内容や構成についても、高麗蔵さんと打ち合わせを行いつつ練り上げたもので、企画準備から一ヶ月半、ようやく学生たちの希望が一つの形となりました。
講義は、高麗蔵さんがなぜ歌舞伎の道に進んだのかというお話から始まりました。ご自身は日本舞踊のお家のお生まれで、大伯父に八代目市川中車、初代市川猿翁がいらっしゃいます。初舞台は4歳、市川百々丸 ・二代目市川新車 ・十一代目市川高麗蔵と名跡を継いできたそうです。女方ではお姫様から女房役まで、そして立役や現代劇まで幅広く演じ分けられるオールマイティーさが魅力の高麗蔵さんですが、そんな高麗蔵さんならではの歌舞伎の解説に学生たちは聞き入ります。台詞に詰まることもあり、日によって同じ台詞でも息継ぎの違いやちょっとした失敗もある、そんな生きた舞台を楽しむこともできるのが歌舞伎の楽しみ方の一つでもある、と歌舞伎役者ならではの裏話や歌舞伎の魅力についてもお話しくださいました。
そして、中盤には企画の目玉でもある「歌舞伎体験」が叶いました。まずは、ご自身の写真とともに花魁の台詞・勧進帳の台詞を即興で演じてくださり、あっという間に教室を歌舞伎の世界に惹き込みます。その後、実際に女方と立役の所作を指導していただくという、夢のような企画が実現されました。
学生3名が直接指導を受け、女子学生は立役の歩き方と見栄を、男子学生2名は女方の歩き方や恥じらい方を教わりました。高麗蔵さんに実技指導を受けて、ロボットのような動きからそれらしい所作になっていくと、見ている側から感嘆の声が上がりました。また、実際に体験した学生からは、体幹の使い方の難しさや、簡単そうに見える所作の難しさについての感想が出されました。
終盤では、学生たちから次々と質問が挙がります。台詞回しについてや最も難しかった役について、つらかった経験、稽古の期間、役者として気を付けていることや生涯現役であり続けたいか、歌舞伎界の今後について…等々、一つ一つの質問に丁寧にお答えになりました。
古典物については、舞台初日までのお稽古は3~4回であること、先輩に教えを請うたり、黒子で先輩の芝居を覚えたり、最近ではYouTubeなどで過去の演目を参考にしたりしながらも役を作り上げていくこと、お家芸についての解説や公演中の体調管理、歌舞伎で使用するかつらや衣装の重さについてなど、歌舞伎界全般にわたってもお話しくださいました。
学業との両立の難しさや少年時代の葛藤や苦労・挫折など、高麗蔵さんの半生が語られるなかで、一つのことを極め、第一線で活躍される役者さんであっても、苦労や努力を重ねられ、今を築きあげられていることを学べる、またとない機会となりました。
歌舞伎には古典物と新作歌舞伎がある。どちらもそれぞれの良さがあるが、今も昔も庶民の娯楽という根底は変わらない。3月は『仮名手本忠臣蔵』という古典中の古典の演目、全てを理解しようとしなくてもいいので、とにかくふれて生の空気感を味わって楽しんでほしい、と高麗蔵さん。最後に学生有志より花束が贈られ、大盛況のうちに講義が終了しました。高麗蔵さんは、1月の歌舞伎座公演(新春大歌舞伎『陰陽師』「鉄輪」で蜜虫役)を控えていらっしゃいます。