主権者教育特別講演会『非常ベルは聞こえているか!!』2024年度は自然災害からの復興を通して「主権者」としての責任を考える機会となりました
2016年の選挙制度改正により、18歳以上の若者も一票を投じる権利を得ました。このような背景から、大学などの教育機関では、若い世代への主権者教育の推進が求められています。

玉川大学では学生一人ひとりが主権者としての意識を養うことを目的に、継続的な主権者教育を実施しています。その一環として一昨年の2023年12月、馳浩石川県知事を本学にお招きして、『非常ベルは聞こえているか!!』と題した主権者教育特別講演会を開催しました。
講演会から約1か月後の2024年1月1日、最大震度7を観測した「能登半島地震」が発生しました。馳知事は発生直後に首相官邸入りし、その日のうちに陸上自衛隊に災害派遣を要請。自らも自衛隊ヘリコプターに搭乗し現地入りするなど、迅速な対応を行いました。その後も震災からの復旧・復興に尽力していましたが、同年9月、台風14号から変わった熱帯低気圧による「能登半島豪雨」によって、震災被災地である奥能登地方は再び甚大な災害に見舞われました。度重なる自然災害への対応を極めていましたが、2024年度の本学講演会への参加をご快諾いただき、昨年同様、中田幸司 玉川大学文学部長を聞き手としてお話をうかがうこととなりました。
ところが、2025年1月10日(金)の講演会当日、石川県地方は大雪に見舞われました。馳知事はその対応指揮のため県庁を離れることが困難となりました。そこで急遽、オンライン講演会に変更。講演会場である「University Concert Hall 2016 Marble」と石川県庁をZoomで中継し、ステージ上の大型スクリーンに馳知事が映し出されました。

中田文学部長と馳知事は、長年の友人であり馳知事ご自身も「友」と表現されるほど深いご交友関係にあります。昨年の講演では、私立高校教員、オリンピック選手、プロレスラーなど馳知事の華麗な経歴から、国政・県政におけるご活躍まで、幅広い話題にわたり二人の軽妙なトークで会場を盛り上げました。しかし今年は、能登半島を襲った地震と豪雨という未曽有の災害への対応が中心テーマとなりました。馳知事は、特に被害が甚大だった奥能登地方を83回にわたり視察し、その際に目にした崖崩れや液状化などの光景、そして被災地の現状を写真やデータを用いて克明に説明しました。そして消防、警察、自衛隊の迅速な救助活動に加え、政府や全国の自治体から約1200人もの人々が支援に駆けつけ、さらには多くの若者たちがボランティアとして尽力したことに対し深い感謝の意を表しました。



馳知事は、復興支援において『なりわいの再建』を特に重視されています。土地や建物の復旧だけでなく、人々の暮らしを支える商業活動、自然環境、地域イベントなど多岐にわたる『なりわい』の回復こそが真の復興であると訴えました。その考えに基づき、10年という長期的な視点で『石川県創造的復興プラン』を策定。スローガン『能登が示す、ふるさとの未来』を掲げ、被災地の住民の方々や国、関係機関と連携しながら、一日も早く『創造的復興』を実現させようと取り組んでいます。

中田文学部長からの「震災など自然災害に対する常日頃からの準備に対する心構え」といった質問に対し馳知事は率直に回答。特に、震災当初のボランティア受け入れに関するネット上の誤解については冷静かつ丁寧に説明しました。また、学生たちに向けては県が推進する学生限定短期地方留学制度「いしかわサテライトキャンパス」のさらなる拡充や、東京駅近くのアンテナショップ『八重洲いしかわテラス』を紹介し、「みなさんにもっと石川県の魅力を知ってほしい。ぜひ一度、足を運んでみてください」と熱く呼びかけました。さらに、かつて「学生三大駅伝」の一つと呼ばれた『能登駅伝』の復活にも意欲を示し、「大会を通して多くの学生に被災地の現状を見てもらい、石川への関心を持ち続けていただきたい。記録よりも記憶に残る大会にしたい」と語りました。

中田文学部長が学校教員、アスリート、政治家など、多様なキャリアを積まれた経験について質問したところ、「常に自分と社会に対する問題意識を持ち、様々な選択肢の中から『今の自分にとって最も満足できる道は何か?』と問い続けてきた結果です」と、子供時代や青年期のエピソードを交えながら話されました。「皆さんもぜひ、問題意識を持ち、様々な選択肢を意識しながら生きてほしい」と会場に向けてアドバイスを送りました。
国会議員時代には児童虐待防止法、発達障害者支援法、性同一性障害者特措法など37本の議員立法に携わり、県知事として県内行政のDX化をはじめ、数々の課題解決に尽力されている馳知事。そのエネルギーの秘訣は、「毎朝4時に起床し新聞を読み、トレーニングを欠かさないという規則正しい生活と、信頼できる仲間との活発な議論と笑い合いにある」そうです。この日もオンライン形式ではありましたが、力強いエネルギーが会場に伝わる印象深い講演会となりました。
講演後、学生からの質疑応答の時間には「政治家のマニフェストを有権者はどう判断すべきか」「議員立法と内閣立法についての考え」といった質問に対し、学生の目線に立ってわかりやすく解説していただきました。また、中田文学部長や会場の大学教員に向けて「今後、私学の未来に関してはドラスティックな改革が必要となるでしょう。地域との連携など、さまざまな課題について真剣に考えていただきたい」と提言がありました。



この1年、石川県の復旧・復興に全力で取り組んだ自らの体験を通して、学生たちに政治と社会に目を向けることの大切さを訴え、若い世代への励ましと期待を投げかけてきた馳知事。大勢の学生がその真摯なメッセージを胸に刻み、次のステップへ進む勇気と希望を得たのではないでしょうか。