大相撲文化の魅力が初めてわかった!
呼出しの邦夫さんが学友会寄附講座にご登壇
―文学部国語教育学科 研修行事「大相撲九月場所観戦」に向けての事前学習―
「ひがあ〜し〜、〇〇〇〇、にい〜し〜、〇〇〇〇」と、相撲の取り組みで力士の四股名を呼び上げるのは呼出しという職業の人たちです。
独特の節回しと響く声で取り組みの雰囲気を高め、演出する呼出し。なかでも、「オペラ歌手のような美声」と人気の高い邦夫さんが2025年6月18日に玉川大学に来校され、文学部国語教育学科1年生に、相撲の奥深い世界を語ってくださいました。
文学部国語教育学科では、「ホンモノの日本文化に触れる」ことを目的に、毎年1年生が研修行事として両国国技館で大相撲を観戦しています。観戦前には、卒業生組織「学友会」による寄附講座を開催。公益財団法人 日本相撲協会の現職の方をお招きして、相撲についてお聴きする事前学習の機会を設けています。今年は本学卒業生で、両国国技館のお茶屋さんの髙砂家の女将さん飯沢祐子さん(文学部英米文学科1985年卒業)のご紹介で、邦夫さんの講演が実現しました。

日本の伝統文化を継承する大相撲

邦夫さんは、高砂部屋に所属されています。
まず、神話の時代から相撲があることに触れ、日本書紀の「野見宿禰(のみのすくね)と当麻蹶速(たいまのけはや)の力比べ」が、相撲のはじまりと言われていることから話されました。
平安時代には、五穀豊穣や天下泰平を祈った年中行事として相撲が取られ、戦国の世になると、城主の前で武士たちが相撲を取り、日々の鍛錬の成果を披露するなど、次第に人に見せる相撲が増えていったそうです。
室町時代には、寺社仏閣の建立資金などを集める勧進相撲が隆盛。しかし、「まちなかで相撲を取っていたのですが、いろいろないざこざが起きて、たびたび中止になったんです」と邦夫さん。江戸時代に入り、1684年からは寺社奉行に許可を得て開催するようになり、その当時の姿が現在まで続いているそうです。
「大相撲に触れるということは、神話の時代から武士の時代、そして江戸の市民文化の時代という日本の歴史と文化の歩みに触れるということなのです。」
何もかもが番付で決まる、力士の待遇
番付は力士の格付けのことで、学生たちは手元に配布された番付表を見ながら、相撲の世界の話に耳を傾けました。

読めないほど細かい相撲文字(手書き!)が並ぶなか、一際目立つのが「蒙御免」の太い字です。「ごめんこうむる、と読み、寺社奉行に開催の許可を得たことを示しています。いまは許可はいらないのですが、江戸時代からの文化がずっと残っているんですね」と邦夫さん。本場所中は両国国技館の入口の前に、「蒙御免」と書かれた大きな木札「御免札」も立つそうです。
「御免札は入り口付近にあるので、九月場所に来たときに探してみてください。こういうものを受け継いでいるところが、相撲の良いところではないかと思います」
さらに、邦夫さんは、「横綱」「大関」など番付の種類や待遇の違いを細かく解説。15時ごろから18時までNHKで放送されている私たちにおなじみの相撲は、幕内という上位力士の取り組みで、実際には朝9時半からはじまっていて、「14時前から観戦するのがおすすめ」とのことです。
理由は、番付の低い力士と高い力士の違いがわかるから。髷、まわし、土俵入り、土俵下の控えでの座布団、また、土俵以外では着物や帯、履物など、相撲の世界ではすべてが番付で決まっています。もちろん、給料も横綱の月給300万円から、序の口の場所手当7万7千円(2ヶ月に1度)までさまざま。幕内力士(上位の力士)になると、取り組みごとに企業からの懸賞が出ることもあるので、多いときは1回の白星(勝ち)で300万円を手にする力士もいるそうです。
番付の東西にも序列があり、東のほうが格上。つまり、最高位の横綱であっても、東の横綱の方が西の横綱よりも上なのです。相撲の世界は、厳しい序列と競争の世界。同格はありません。

このほか、横綱という地位の歴史、本場所の年間スケジュールや1日の流れ、両国国技館のつくりなど、細部に渡ってお話しいただきました。
テレビにあまり映らない両国国技館の見どころもたくさん教えていただき、なかでも「顔触れ言上」という、翌日の取り組みを披露する儀式は、ぜひ観て欲しいとのことでした。テレビもインターネットもない時代に行われていた、相撲の宣伝広告。「これも江戸時代からずっと続いている、大相撲文化の継承です」と邦夫さんは力を込めました。
実はいろいろあります、呼出しの仕事

最も知られている呼出しの役目は、土俵上で力士の四股名を呼ぶ「呼び上げ」ではないでしょうか。「扇子を広げてお相撲さんの名前を呼ぶと、力士が土俵に上がってきます。取り組みのスタートを我々が担当しているわけですが、みなさんは見たことがありますか?」と言うと、邦夫さんは、先生方が挙げた2名の力士の名前をその場で呼び上げてくれました。
約30秒間、教室中に節回しの効いた美声が響き渡ると、誰もがその迫力に圧倒。そこには伝統的な相撲の様式美がありました。
邦夫さんは、「呼び上げは、仕事の割合では一番少ないです」と笑い、続いて数々の呼出しの仕事を紹介してくれました。
呼出しは土俵周りのことも担っています。開催前は3日間かけて土俵をつくり、本場所が始まれば土俵を整備し、口をすすぐための力水を力士に渡します。そして、幕内の取り組みでは懸賞の幕を持って土俵上を周ります。
また、「鳴らす」ことも呼出しの重要な仕事です。「柝(き)」と呼ばれる拍子木を叩いて鳴らすこと、国技館の開場前から取り組み終了まで、相撲のすべてを進行していきます。「支度部屋にチョン、チョンと柝を鳴らしに行くと、お相撲さんが、あ、もうすぐ始まるな、と思うわけです。誰も声を出さない。もう全部これだけなんです」と説明しながら、実際に拍子木を鳴らしてくださいました。
そして、もう一つ重要なのが太鼓です。相撲の神様を呼んで本場所の無事を祈る「寄せ太鼓」、本日の開催を知らせる「一番太鼓」、相撲が終わったときに鳴らす「跳ね太鼓」など、その役割によってすべてリズムや雰囲気が異なります。邦夫さんは、「昨日、音楽スタジオを借りて独りで動画を撮ってきました。ちょっと恥ずかしかったです(笑)」と言うと、それぞれを実演。熟練した伝統的な打ち方に、教室からは大きな拍手が起こりました。
ホンモノの大相撲に触れて教養を身につける

講話が終わると、学生たちから質問がありました。
そのひとつ、「呼出しになったきっかけ」について邦夫さんは、「単純に相撲を観るのが大好きだったんです」と答えました。「呼出しの仕事は本を読んで知っており、高校を卒業するにあたり「人生1回だから入門してみよう」と親方に手紙を書いたそうです。呼出しや行司、床山は相撲部屋に所属するのですが19歳未満しか入門できないため、5月が誕生日の邦夫さんはぎりぎりだったそうです。その後に相撲協会の面接を受けて呼出しになりました。
「呼出しの定員は45人ですが、たまたま空いていました。よく入れたって感じですね(笑)」
江戸時代から変わらない姿で続く大相撲。この9月、国語教育学科1年生は両国国技館で大相撲九月場所を観戦します。 呼び上げ、柝、土俵周り、太鼓といった呼出しの仕事、番付による力士の違い、顔触れ言上など、国技館では今日の講話の内容をリアルに体験することができます。
最後に邦夫さんは、「この先、みなさんが社会人になり、接待でだれかと話をするときや外国人のお客様を案内するときに、相撲について聞かせてよ、と言われるかもしれません。今日のお話は、そんなときに役に立つかな」と話していました。
9月にホンモノの大相撲に触れることで、今日得た知識は教養となります。
大相撲観戦を通じて、学生たちはまた一歩成長していきます。
玉川大学では“ホンモノに触れる教育”の一端として「行事教育」を大切にしています。その一つである「研修行事」では豊かな人間性、多様な価値観を形成するために、一流の芸術や伝統文化に触れる機会を設けています。学部・学科・学年の特性に合わせたさまざまな研修行事を行っています。