映画『宝島』のプロデューサー・キャストをお招きし、9・10年生が「相手の立場を慮ることば」について考える。
映画『宝島』の制作陣・キャストが登壇

7月7日(月)、玉川学園Secondary Divisionの9年生(中学3年生)と10年生(高校1年生)を対象に、平和教育特別授業「相手の立場を慮ることば」がUniversity Concert Hall 2016で開催されました。
今回登壇したのは、この秋に劇場公開を予定している映画『宝島』(大友啓史監督)のプロデューサー五十嵐真志さんと、俳優きゃんひとみさん、沖縄ことばの指導を担当した今科子さんです。『宝島』は、アメリカ施政権下にあった1952年から1972年までの沖縄を舞台に、その時代を懸命に生きた若者たちを描いた映画です。本作品は2019年1月に第160回直木賞を受賞した真藤順丈さんの傑作小説を実写映画化したものです。今回は平和教育の視点からお話しいただきました。

最初に登壇した五十嵐さんが「この中で、沖縄に行ったことがあるという人はいますか?」と尋ねたところ、多くの生徒が手を上げました。リゾートのイメージが強い現在の沖縄ですが、太平洋戦争末期には県民の4人に1人が亡くなるなど、日本の他地域とは比較にならないほどの犠牲を強いられたのです。ステージ上のスクリーンに戦争当時の映像が映されると、会場は息を呑む音が聞こえるほどの静寂に包まれました。
エンターテインメントだからこそできる、「物語を伝えること」
そして終戦後、沖縄はアメリカの施政権下に置かれます。「終戦から本土返還までの27年間のことを、沖縄では『アメリカ世(あめりかゆー)』と呼んでいます」と五十嵐氏。アメリカ世では米軍基地から物資を盗み、それを生活困窮者に分け与えていた「戦果アギヤー」と呼ばれる人々がいました。「略奪は犯罪ですが、当時の沖縄県民の生活が厳しいことを知っていた米軍が、積極的に取り締まらなかったとも聞いています」ときゃん氏。きゃん氏の実家も米軍基地内で仕事を得たことで、生活が安定したそうです。「だから私の家は反戦だけど、反米ではないんです」と語ります。そして五十嵐氏も「沖縄の人たちの考えは一つではなく、さまざまな考え方があります。だから皆さんも他人が言ったことを鵜呑みにせず、自分自身で調べて、自分なりの考えを見つけてほしいと思います」と生徒たちに語りかけました。
「今回のテーマは『相手の立場を慮る』ですが、我々エンターテインメントにできることの一つが『物語を伝えること』です。ニュースは、戦争についての情報を伝えてくれます。一方我々は映画などで物語を作りますが、その物語を共有することで登場人物の感情に心を寄せることができる。『宝島』で描かれたような時代があったことを知った上で、皆さんがこれから平和な時代をどう維持していくのか、想像してもらえると嬉しいですね」。


他者に思いを寄せ、自分なりの考えを持つ。その大切さ
特別授業が終了した後、参加した生徒からはさまざまな感想が聞かれました。
「相手の物語を知ろうとすることを大切にしていきたいと思いました。今ある平和は私たちより前に生きてきた人の成果であると知ることができました。そのことを肌で感じながら、想像して相手の立場を慮っていきたいです(9年生)」
「相手の立場をしっかり理解してから行動すること。人は一人ひとり違う考えを持っていて、僕たちはそのような考えを尊重しなければならない(9年生)」
「『戦争は、終わった後も心の中で続いてしまう』という言葉が強く印象に残っています。映画とこの話がつながり、戦争の怖さや残酷さだけでなく、人の強さや優しさも感じることができました(10年生)」
「みんな違う考えを持っているので、自分でさまざまな考え方を見つけ、異なる考え方にも批判的な反応をせず、そのことについて考えてみることが大事なのかなと感じました(10年生)」
映画の制作者から、そして映画に描かれた時代を生きた方から、貴重なお話を伺う機会となった今回の特別授業。生徒たちは沖縄の歴史の一面を知るだけでなく、他者に思いを寄せながら自分なりの考えを持つことの大切さについて学ぶことができました。
