中華料理の第一人者で玉川の卒業生、陳建一氏の保護者向け講演会が開催されました。
玉川学園では保護者の皆様を対象に、さまざまな講演会やプログラムを開催する「K-12親学講座」、「K-12父母教養講座」を、一年を通して実施しています。10月19日(月)には陳建一氏をお招きし、「料理で人間を育む」と題した教養講座を開催しました。
陳建一氏は言わずと知れた中華料理のシェフ。お父様である陳建民氏の四川飯店を継いで腕をふるってきました。ちなみに家庭料理の定番である麻婆豆腐は建民氏が日本に広めたもので、現在でも四川飯店の看板メニューとなっています。建一氏自身は2008(平成20)年に厚生労働省から「現代の名工」として表彰され、2013(平成25)年には黄綬褒章も受賞しました。また2011(平成23)年には社団法人日本中国料理協会の会長に就任。まさに日本の中華料理を牽引する、第一人者といえます。現在、お店の運営は長男である陳建太郎氏に任せ、自身は四川飯店グループの会長として、後進の育成や四川料理の普及にも努めています。そして建太郎氏と二代続けての玉川っ子でもあります。
中華料理を代表するシェフといっても、その語り口はテレビの料理番組で見せる気さくな雰囲気そのもの。この日も「こんなに天気がいいのなら、ゴルフの予約を入れておけばよかったなぁ」と言って場を和ませます。
小さい頃から食べることが大好きだった建一氏が本格的に料理の修業を始めたのは、高等部・大学と玉川の丘で過ごした後のことでした。当時の料理界は徒弟制度が厳しく、厨房に怒号が飛び交うような雰囲気だったとのこと。「これではいけない」と感じた建一氏は、職場の雰囲気を変えることから始めたそうです。スタッフ同士のあいさつはもちろん、食材を納入する業者の人にも笑顔で「ご苦労さま」といった言葉を欠かさないようにする。こうした姿勢は、今日まで続いているそうです。
「現場の雰囲気を変えていくのは簡単ではありませんでした。ただ、そのときにいつも思い出したのは、玉川学園のモットーである『人生の最も苦しい いやな つらい損な場面を真っ先に微笑みを以って担当せよ』で、この言葉は今でも弟子たちを指導する際によく使います」と建一氏。人気シェフとして各地でのイベントやテレビの収録など、さまざまな場所へ呼ばれることの多い建一氏ですが、そうした場所でトラブルに見舞われたり、大変な思いをすることもあるといいます。「進行に不手際があったとしても、来て下さったお客様にそんな素振りは見せず、喜んで帰っていただきたい。それがプロというものです」。そうした料理の技術以外の、「姿勢」の部分がきちんとしていないと、料理人としても大成しないそうです。「やはり料理で大切なのは心であり、愛情。食べてくれる人のことを思いながら作ることが重要です」。
話の途中にさまざまなエピソードを織り込んで、会場からは笑いの絶えることがなかった陳建一氏の講演会。90分という時間が、あっという間に過ぎていきました。講演後には建一氏に対して質問が寄せられました。ご主人がイギリス人というお母様から「文化の違いもあって、子どもにテーブルマナーを教えるのが難しい」という質問には「外ではマナーに少し気を遣うなど、TPOから始めてもいいのでは? また家庭内でイギリスのマナーの日と日本のマナーの日を作ってみては?」といった回答が。また「ご家庭では奥様の作る料理を召し上がっているのですか?」という質問には「もちろん! ウチの奥さんは天才だから」と笑顔で答えられていました。ちなみに奥様も、高等部時代の同級生だそうです。
保護者の皆さんにとっては、玉川学園での学びが実社会でも活きていることを卒業生の一人から聞くことができた貴重な経験だったようです。