玉川のアクティブ・ラーニング 3
農学部生物資源学科* 宮田徹准教授の授業
動物実験の是非について学生と一緒に考える授業を行っています。
宮田 徹 Toru Miyata
玉川大学農学部農芸化学科卒業。同大農学研究科資源生物学専攻修了。同大農学部助手、講師、助教を経て2012年から現職
*2017年度から生産農学科
私の専門は動物生理学で、哺乳動物の摂食が、母乳から飼料に変化する過程における消化や代謝のしくみを研究しています。研究には動物の解剖実験が欠かせませんが、近年は欧米を中心に動物福祉の観点から、動物実験を問題視する動きが強まっています。では動物実験は本当にいけないことなのでしょうか?
この問題を、私はアクティブ・ラーニングの手法を使って学生とともに考えています。
学生はまず生物資源学科1年次の必修科目「基礎生物学実験」で、脊椎動物の内部形態を把握するためにラットを解剖します。次に「生物資源学」の授業で、実験を行った班ごとに動物実験の賛否を議論し、結果を翌週の授業で発表します。
多くが「医薬品のように開発の際に動物実験のデータに頼るしかないものがある」といった理由で賛成しますが、反対意見を唱える班もあります。解剖をすでに経験していることもあり、話す内容には実感がこもっています。経験を振り返りながら主体的に議論し、発表することはアクティブ・ラーニングの実践にほかなりません。
私たちは動物実験の恩恵を享受しています。医薬品に限らず、食生活を見てもウシやブタなど産業動物の存在なしには成立しません。
一方で倫理的な見地から「人間が自らの都合で動物の命を奪うべきではない」という結論もあってよいのです。究極的には個人の考え方や置かれた状況で解は変わりますし、賛否のどちらかを普遍的な解にすることはできません。
2つの授業は生物学を学ぶために必要な知識やスキルを身につけるだけでなく、研究を取り巻く現実を理解し、状況に応じて自分なりの結論を導き出す判断力を育む意味を持っています。
学生は問題に直面したとき、唯一の正解を探しがちです。でも体験と知識を蓄積するうちに、多様なルートから多様な解に行き着くことがわかってくるでしょう。
動物実験の問題は、私が研究者のひとりとして向き合わなければいけないテーマであり、同時に豊かな現代社会に暮らす多くの人が考えるべきことでもあります。今後、市民レベルで議論する必要も出てくるはずです。
学生がアクティブ・ラーニングで得た学びをもとに、知識や情報を社会に還元し、市民が議論を深めるきっかけをつくれる存在になってほしいと思います。
深く思考するきっかけが得られる授業
1年次に「基礎生物学実験」で行ったラットの解剖実験は今も印象に残っています。ラットは人間と臓器構成が似通っているため、医薬品の研究開発などで実験に用いられていることは知っていました。でも解剖を行わなければ、類似性をリアルに実感できなかったと思います。
「生物資源学」で動物実験の賛否を班で議論したときは、僕は原則的に反対の立場をとりました。でも単純に反対したわけではありません。例えばラットの犠牲によって人間を救う医薬品をつくれる可能性もある。だから動物実験が必要なことは理解できる。一方で、人間と小さな動物で“命の重さ”に変わりがないとすれば、人間が無制限に動物を殺すことは認められない。そこでプレゼンテーションでは、「動物実験がどうしても必要な場合は認めるが、最小限にとどめるべき」と述べました。
解剖実験は命の重さを深く考えるきっかけになりました。もともと生物に興味があって入学した農学部。宮田先生の授業が楽しくて、先生が所属する「動物・昆虫機能開発科学領域」に進みました。これから楽しみながら専門の研究を深めていきたいです。
学びのDATA
「基礎生物学実験」「生物資源学」は生物資源学科の1年次必修授業。2つの授業で共通する5~6名の班をつくり、動物実験をテーマに議論を行う。プレゼテーションの前には、授業外の時間を利用して班ごとに集まり、実験を行った当事者としての意見をまとめる。
「基礎生物学実験」で扱う主な生物と学ぶ内容
- ツバキ:植物の栄養器官の構造
- ツツジ:受粉から受精までのメカニズム
- ネギ:細胞周期のメカニズム
- カイコ:昆虫の基本構造
- ラット:解剖の手法と脊椎動物の内部形態
取材・文=中村宏覚
2016年6月1日取材
『全人』2016年10月号(No.809)掲載