玉川のアクティブ・ラーニング 4
中学年社会科 市川信教諭の授業
体験を軸にして学習意欲を高める「お米の学習」を展開しています。
市川 信 Makoto Ichikawa
群馬大学教育学部卒業。2007年から玉川学園で教える。低学年算数科と国語科の担当を経て2010年に中学年へ。2014年度から社会科を担当
6月の半ばのある日、5年柳組では社会科「お米の学習」が行われていました。授業冒頭で市川信教諭がホワイトボードに模造紙を貼りつけると児童たちは、「あっ、ベン図だ!」と即座に反応します。ベン図にはお米の生産者と消費者の関係が2つの円で示されています。さあ、前回までの学習のおさらいです。
「たくさん収穫できるお米がほしいのは生産者、消費者のどちらかな?」と質問する市川教諭に「生産者!」と声が続きます。「品質がよくて安心して食べられるお米は?」「消費者です!」
おさらいの後はこの日のテーマ、「お米屋さんからお米のことを学ぼう」へ。お米に関する10個の質問が書かれたプリントともに、『お米・ごはんBOOK』(米穀安定供給確保機構発行)という冊子が配布されます。質問はすべて児童が考えたもの。田植えを経て学習意欲が高まる中、主体的な学びを深化させるため、児童の疑問を活かす取り組みを市川教諭が考案しました。児童自身が問いを考えて、解を探るアクティブ・ラーニングです。
事前に市川教諭が代表してインタビューに出かけたのは米穀店。生産者と消費者に関するベン図の理解をもとに、「両方を知るお米屋さんならたくさん教えてくれるはず」と児童も納得してのことでした。インタビューの結果、多くの答えが調べられる冊子を授業で活用することになったのです。
答えを調べ終えたら今度はクイズです。市川教諭が問題を出します。「お米の産地で有名な新潟県。コシヒカリは9月下旬の出荷ですが、同じ新潟県でも別の品種の出荷は9月中旬出荷。なぜ複数の品種をつくっているのかな? ヒントは『機械』だよ」
「みんなで同じ稲刈機を使っている農家の場合、ほかの農家も稲刈りをしようとしたら機械が足りなくて使えないかも」「いろんな品種をつくれば稲刈りの時期がずれるから、機械は不足しないと思う」などと答える児童たち。さらに稲の病気や天候の問題から、多品種生産の必要性を市川教諭が解説します。
「お米の学習」は単にお米への理解を深める授業ではありません。「根拠に基づき論理的に考える姿勢を養い、9年生で取り組む『学びの技』に接続したいと考えています」と市川教諭。
5月に始まったお米づくりは10月に稲刈を実施し、11月の脱穀・精米で学びを集大成します。
田植えの体験が想像と関心の幅を広げる
僕はサッカーをやっていて、体力が持つように毎日ご飯をいっぱい食べています。お米は大好きで、「お米の学習」は毎回楽しかったです。
お米づくりでは、種もみから苗を育てました。田植えは手作業。機械化されていなかった昔の農家の大変さがわかりました。 お米にはいろんな種類があって、日本のお米は丸みがあるけれど、外国には細長いお米があることも知りました。お米好きとして興味があるので、いつか外国のお米も食べてみたいです。
【横山夢樹さん】
私が考えたお米屋さんへの質問は、「いちばん売れているお米は?」と「いちばん高いお米は?」の2つ。答えは、売れているお米が「つや姫」、高いお米がコシヒカリから生まれた「龍の瞳」でした。調べていくと、お茶碗1杯分のお米が稲2株分ということもわかり、食事のときに考えることが増えました。「お米の学習」でいちばん楽しかったのは田植えです。足がはまってしまい、動けなくなることもありましたが、大学生のお兄さんお姉さんが助けてくれました。
【小松真優さん】
学びのDATA
「お米の学習」の授業は、教室での8時間と玉川大学農学部と連携した7時間で構成される。農場では農学部の教職員と学生が支援する。教室での学習とお米づくりの実体験を結びつけて、内容の理解と知識の定着を促している。米穀店への取材は来年度は児童が行うことを検討中。
農学部と連携したお米づくりの流れ
- 1回目 種もみの選別、育苗箱づくり
5月16日 2時間 - 2回目 田植え
6月6日 2時間 - 3回目 稲刈り
10月17日 2時間 - 4回目 脱穀、精米
11月7日 1時間
2016年6月15日取材
『全人』2016年11月号(No.810)掲載