玉川のアクティブ・ラーニング 8
教育学部教育学科 小林亮教授の授業
「彼ら」ではなく「私たち」の視点を持つことの大切さを学んでいます。
小林 亮 Makoto Kobayashi
慶應義塾大学文学部哲学科卒業。同大学院修士課程(教育心理学)修了後、ドイツ・コンスタンツ大学にて博士号取得。ユネスコ本部(パリ)でインターンを経験。2009年から現職
私が担当する「教育学演習ゼミ」のテーマは地球市民教育。ゼミ生の多くが教員志望です。
地球市民教育は、紛争、貧困、気候変動、エネルギー問題といったグローバルな問題を自分のこととして捉え、解決に向けて主体的に行動する力を身につけることをめざす教育プログラムです。国連の専門機関ユネスコが提唱し、2013年にスタートしました。
この地球市民教育を軸に、授業ではアクティブ・ラーニングの一手法であるロールプレイを導入し、学生の当事者意識を喚起しながら学びを進めています。『世界がもし100人の村だったら』をテーマにした教材を使うワークショップもその一環です。
ワークの最初に学生は性別・地域・言語・識字率などの属性が書かれた「役割カード」を引きます。現状を理解したあと、学生はカードに書かれた属性の人物になりきり、共通言語による仲間探しや富の分配、識字による格差などを体験します。グローバルな問題に当事者意識を持つために他者を演じる。その過程で、学生は「彼ら」が抱える問題を「私たち」のこととして考える視点を獲得します。
地球市民としての自覚はグローバル人材となるために不可欠ですし、教員を目指す学生にとっては学級運営の観点からも重要です。
近年、学級で自分の居場所を見つけられずに悩む子どもが増えています。彼らは疎外感に苦しむ点で、国際社会から孤立した民族や集団と共通しています。そんな子どもの状況を理解するために、地球市民教育を通して疎外された立場を実感しておくことの意義は大きいのです。
とはいえ、「多様性を認めよう」などという掛け声だけでは問題は解決できません。私の専門である発達心理学によれば、疎外されると往々にして自尊感情が低下し、相手を尊重する気持ちも薄れます。
地球市民としての相互理解の基盤づくりとして、まず自分の価値に気づくことが欠かせません。誰でも長所や優れたところが必ずあります。それを自ら認識し、正しく自己評価できれば、相手を尊重する気持ちも持てるものなのです。
玉川には「地球はわれらの故郷なり」を掲げてきた歴史があります。この言葉はまさに地球市民教育の信念だと思います。そんな玉川の国際教育の伝統に沿いながら、ゼミ活動を通して学生の地球市民性をこれからも育てていきます。
教室内の体験から未知の視点を獲得できた
3年次のゼミで取り組んだ「箱庭療法」を使った授業には衝撃を受けました。グループで完成させた箱庭をもとに、先生が心理分析を行ったのですが、自分が明確に意識していなかったことまで見透かされていたんです。「他者の問題を自分のこととして考える前に、自分自身を知っておかないといけないな」と痛感しました。卒業後は小学校教員を目指しています。先生を見習って、児童一人ひとりが「自己肯定感」を持ち、お互いを認め合えるような学級をつくるのが今の夢です。
【北村武大さん】
オバマ大統領の広島訪問直後に行われた「大統領にお礼状を書いてみよう」という授業が印象に残っています。日本人という立場を離れて、「人類の一員として、オバマ大統領の行動をどのように感じたか」をグループごとにディスカッションしながら手紙にまとめ、実際にホワイトハウスに送りました。1年間ゼミを経験して、自分にはいままでなかった視点でものごとを捉えられるようになっただけでなく、考えたことを実際の行動に移すことの大切さも学べました。
【武藤菜保子さん】
学びのDATA
教育学部はユネスコの理念実現に向けて国際的に連携する学校ネットワーク、「ユネスコスクール」に加盟している。加盟校は「持続可能な開発のための教育(ESD)の推進拠点」(文部科学省)になる。これらを背景に小林ゼミでは毎年国内ユネスコ世界遺産を訪問している
世界遺産を学ぶゼミ旅行
京都
- 裏千家今日庵(家元)での茶道体験、大徳寺大仙院での座禅体験
長崎
- 平和公園、教会建築群、出島、軍艦島見学
熊野古道
- 古道散策、那智の滝・熊野本宮大社参拝、奈良のユネスコスクールとの交流会
取材・文=中村宏覚
2017年4月13日取材
『全人』2017年6月号(No.817)掲載