玉川のアクティブ・ラーニング 10
観光学部観光学科 曽山毅教授の授業
歴史的な視点から異文化を理解することの大切さを学んでいます
曽山 毅 Takeshi Soyama
慶應義塾大学経済学部卒業。立教大学大学院にて博士(観光学)を取得。名桜大学国際学部観光産業学科助教授、九州産業大学商学部観光産業学科教授などを経て、2013年から現職
観光学部の学生は2年次後期から3年次前期にかけて1年間、オーストラリアに留学します。帰国した学生が口にするのは「他国の文化や国際情勢をもっと知らなければと思った」ということ。私が担当する「観光学ゼミナールⅢ」は、学生の課題意識を踏まえた学修内容を設定しています。
まずアジア、アメリカ、イスラム諸国などに関する文献を輪読し、総合的に海外事情や国際関係の基礎を学びます。次にゼミのテーマである「文化史からみた東アジアの国際観光」の研究に取り組みます。焦点は東アジアのなかでも特に日本との交流が盛んな台湾です。その歴史を俯瞰しながら、東アジアで観光という文化が成立する過程を探ります。
台湾は今やアジア有数の人気観光国となっていますが、じつは台湾の観光産業の発展には戦前の日本が深く関係しています。日本統治期の鉄道網整備を契機に近代的な観光文化が浸透しはじめ、日本人主導で観光地が形成された歴史があるのです。
台湾史を俯瞰するうちに、東アジアにおける観光文化の成立過程の事例が明らかになるだけでなく、日本と東アジア諸国との関係も見えてきます。
学びは座学に終わらせず、アクティブ・ラーニングの一環として台湾への研修旅行を実施しています。フィールドワークという位置づけで日本統治期の建築群をめぐり、現地の学生と交流します。
台湾は人口約2,300万人。日本を訪れる観光客は年間約400万人です。なぜ多くの台湾人が訪日観光客となるのか。インバウンド観光対策の点で、台湾は歴史的経緯を交えて考察する格好の材料になるでしょう。
インバウンドというと、英語力やホスピタリティを磨くことばかりが重視されがちです。でもそれだけでは不十分です。諸外国の歴史や文化、日本との関係を学び、外国人が日本を訪れる理由を深く理解する必要があります。台湾への研修旅行は、日本のインバウンド対策を体験的に考える機会でもあるのです。
訪日観光客の国・地域の内訳を見ると、中国、韓国、台湾などの東アジア諸国からの旅行者が7割を占めています。ゼミで台湾を知り、フィールドワークを通して東アジア全体の歴史や文化に興味を持つ学生が1人でも増えることを願っています。
歴史を切り口に異文化を理解できるようになった
高校時代から世界史に興味があり、歴史的な視点を用いながら観光を学べる曽山先生のゼミを選んだのは自然な流れでした。日本に近い東アジアだけでなく、アメリカやイスラム諸国の歴史や文化を総合的に学んだことで、世界を広い視野で見られるようになったと実感しています。
卒業後はホテル業界に進む予定です。留学で培った英語力と、歴史を踏まえた異文化理解の姿勢を活かして、インバウンド観光の促進と地域の活性化に貢献するのが目標です。
【大塚有紀さん】
私が曽山ゼミを選んだ理由の背景に、留学先でムスリム(イスラム教徒)の女子学生と知り合ったことがあります。
それまでは「ムスリムの女性は常に抑圧的な生活を強いられている」と思い込んでいたのですが、彼女たちは寮の部屋に帰るとベールを脱ぎ、派手なお化粧をして楽しく踊ったりしていた。そんな姿を見るうちに、歴史や宗教も含めて異文化を知りたいと考えるようになりました。研修旅行では、ガイドブックにはない私なりの発見をしたいです。
【竹内彩海さん】
学びのDATA
ゼミでは夏季休暇に台湾への研修旅行を実施している。日程は3泊4日で、第1回目だった昨年度は、台北市内を中心に日本統治期の建築群をめぐる「ヘリテージツアー」に加えて、観光資源の調査、国立台北大学の学生との交流会などを行った。今年度も同様に行う予定
2016年度ゼミ旅行のポイント
観光地訪問
- 日本統治期の建築群を見学
- お茶どころの「猫空」など、ツアーでは行く機会の少ない観光地を現地調査裏千家今日庵(家元)での茶道体験、大徳寺大仙院での座禅体験
交流行事
- 国立台北大学で、英語による大学紹介をはじめとした交流を実施
成果発表
- グループごとにレポートを作成。プレゼンテーションを行う
2017年4月13日取材
『全人』9月号(No.819)掲載