ウェスタンレッドシーダー
カナダ西海岸の森を歩いていると、必ずと言って良いほど本種に出会う。その多くは巨木として存在し、千年以上も長生きすると言われている。ヒノキに似るが属レベルで異なる種で、同所的(やや高標高ではあるが)に分布するYellow cedarがヒノキ属の樹木である。
他の樹種にはない存在感で異彩を放つ本種は、何千年も前から北米先住民によってカヌーや家屋、道具などに利用されるのみならず、信仰的な用途としてマスクやトーテムポールの素材となり非常に重要な意味を持つ。また樹皮は衣類やバスケット、根や葉などは薬として利用される万能な樹木である。これは本種が抗菌作用のある物質(thujaplicin)を含んでおり、腐朽や虫害に耐性を持つためである。この特徴は自然界においても有効で、倒木となっても腐朽しにくく、その上で新たな樹木実生が育つ“Nurselog”となる。
森の中で出会う本種は某(なにがし)かに利用された跡が見られるものが多い。北米先住民によって利用された痕跡が残る樹木を“Culturally Modified Trees (CMT)”と呼び、樹皮剥皮や伐倒跡などがそれに相当する。北米西海岸の森を歩くときには、そういった痕跡を探すことも楽しみの一つである。
(農学部教授 南 佳典)
『全人』2019年9月号(No.841)より
ウェスタンレッドシーダー
学名:Thuja plicata
英名:Western redcedar
和名:ベイスギ、アメリカネズコ
ヒノキ科クロベ属
樹高70m以上、胸高直径6m以上にもなる巨樹で、湿潤な土壌環境の林内に生育する。老齢樹になると梢端が二叉以上に分かれることがあり“cake-fork shape”と呼ばれる多重樹冠を形成する。ブリティッシュコロンビア(BC)州西海岸では低標高から2,000m程度の標高まで分布する。BC州の州木である