クズ
林縁の木々を覆いつくすクズ農学部で覚えたことのひとつに「作物の栽培は雑草との戦い」がある。学内農場には雑草防除に使う様々な機械や薬剤があり、同室の先生たちと一緒に刈払い機を担いで防除に勤しむ。そんな時、刃に絡んで作業を中断させてくる厄介なつる性植物がクズである。
クズは乾燥した根が漢方薬の葛根湯として、でん粉は葛粉として利用できる有用な植物だが、雑草レベルではそこまで根も太らない。太いツルが地をはい、樹に絡みつき、管理の手間が増え、作物の成長を抑制し、邪魔でしかない。被害は日本に留まらない。アメリカに渡ったのち、急速な成長スピードに刈払いも除草剤も追いつけず、今では世界の侵略的外来種ワースト100に指定されている。
そんなクズの新しい一面に気づけたきっかけは、フラワーデザイン部との出会い。ある日、顧問の先生からクズを5mほどいただけないかしら、と相談を受け、喜んで了承した。出来上がった作品は、クズのツルが個々の花を繋ぐことでひとつの世界を表現していた。立場によって、こうも印象が変わるのかと、広い視野を持つことの大切さに気付かせてくれた植物である。
(農学部准教授 上原 歩)
『全人』2025年10月号(No.908)より
学名:Pueraria lobata (Willd.) Ohwi subsp. lobata
マメ科クズ属
秋の七草のひとつ。日本全土の山
野でふつうに見られる、つる性の
多年生草本植物。茎の基部は木質
化し、長さは10mに達する。葉は
3つの小葉から成り、小葉は長さ
10〜15cm。根に共生した根粒菌
が固定した窒素は、本種の急速な
成長を支えている(窒素固定)
クズのツルを活かしたフラワーデザイン作品
花期は7~9月で、紅紫色の花が総状に多数つく