史料は語る 34
「馬鹿になれ 馬鹿になれ 大バカに！」
小原國芳 筆蹟
紙本墨書 色紙 時期不詳
縦27.0×横24.0cm
小原國芳の「價値轉倒」と題した一文がある。京都帝国大学で卒業論文執筆時、フレーベルの日記に「ソークラテースも愚人なりき。ペスタロッチーも愚人なりき。愚人ならでは出來ない尊い事業だ」という言葉に出会う。「己を無にして、悧巧さを捨てゝ、貴い意味の愚人になつた時のみ、ホントの敎育は出來る」と悟り「ホントの敎育硏究に一生を捧げたいと、固い決心が生まれました」（『女性日本』1932年７月）などと、思いを綴っている。
旧制成城高等学校を卒業する学生から一生の指針になる言葉を書いて欲しいと頼まれ「馬鹿になれ 馬鹿になれ 大バカに！」と大書した。学生は驚きつつも理解してくれたようだと述べている（『全人』1929年５月）。
「馬鹿になれ」の話のときにでてくるのが、菊池寛『恩讐の彼方に』の禅海和尚の話だ。出家して諸国をめぐり豊前国（現在の大分県）の耶馬溪に寄ったとき、山国川沿いの断崖を通行する人馬が転落死することを知る。鑿で300メートル以上も岩塊を掘削することを祈願し、村人の協力も得て30年以上の歳月をかけて開通させた。
小原が「馬鹿になれ」と説いたのは「ピラミッドの土臺石」のような人、人に知られないところで善行をかさねる人、聖書のマタイ伝に出てくる「第二里を行く者」が世の中にもっと必要なためだ。他者のためにつくす生き方は人生観の大きな転換となる。禅海和尚が完成させたトンネルは青の洞門として今も遺され、偉業は伝えられている。
白柳弘幸 学術研究所 特別研究員
Stay Foolish
When writing his graduation thesis,Kuniyoshi came across Froebelʼs reflections on Socrates and Pestalozzi, and he realized that true education can only be achieved when people overcome egocentricity and cunning, and remain steadfastly honest, even to the point of seeming foolish.
While teaching at Seijo High School,under the old education system, Kuniyoshi sent one of his students a message to “stay foolish”. At first, the student was bewildered, but in the end, he grasped the intention. Kuniyoshi wanted to tell his students to stay foolish so they would never think of giving up their lifelong dreams.
Kazuhito Obara
President, Vice CEO, Associate Head of School
English version finalized in collaboration with
Paul McBride
Director, Center for English as a Lingua Franca (CELF)
『全人』2025年11月号（No.909）より
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