故きを温ねて 67
共に学び、共に遊び、共に歌い、共に働き、特に共に食べる
小原國芳著『理想の学校』に、講演から帰った小原と学生たちとの談話の様子が載る。講演旅行のこと、水産学部設立のこと、玉川大学全学部を教師養成にしたいことなどと、小原の「夢の学校」の話は多岐に及ぶ。
小原は学生たちの近くで暮らしたいと創立期から聖山中腹に自宅を置いていた。しかし、学校の規模が拡大し公務も増した。「大学生が四千五百となると、中々名前も覚えられぬ」(『全人教育』第239号) と述べた。そのため昭和40年代中頃から、大学新入生をクラス単位で小原私邸の「お客の間」や「雷々亭(らいらいてい)」に招き、学生たちとの懇談会を設けた。
学生たちの訪問日には、お茶菓子のことなどを毎回心配していたと元秘書より伺ったことがある。それだけ学生たちの訪問を楽しみにしていたのだ。全クラスの訪問が終わるのは年の暮れる頃だった。
懇談会で小原は学生の一人ひとりに名前は、生まれはどこなどと質問をする。講演で訪問した学校の卒業生には、〇〇先生はお元気かと質問を重ねた。話題や人脈の広さ、記憶力に圧倒された。そうした懇談会の思い出を持っている卒業生も多いのではないかと思われる。
教師は生徒や学生と「共に学び、共に遊び、共に歌い、共に働き、特に共に食べることは絶対必要」と小原は強調した。教育博物館職員にクラス懇談の時の思い出を聞くと「雷々亭で、シュークリームが出ました」と即座に答えが返ってきた。
(文=白柳弘幸 教育博物館)
『全人』2019年5月号(No.838)より