故きを温ねて 85
汝の若き日に汝の造り主を覚えよ
「幼少の頃、とてもひ弱かった私が数え年とはいえ、九十までも生き永らえたとは全く神様の恵みであり、奇蹟ですらあります」(『全人教育』1976年2月号)と小原國芳が述べたのは、亡くなる2年前のことであった。
健康の秘訣について「借金をすること」「摂生を守ること」「身体を鍛えること」をあげ、最後に「信仰を持つこと」と述べている。小原は電信技手の頃にキリスト教を知り、鹿児島県師範学生の時に受洗した。若き日のキリスト教との出会いが教育者として一生を貫く軸になった。
「教育の根底に宗教が必要」(『全人教育論』)と小原は考え、玉川学園創立期は聖山礼拝を、また戦後になって各部の情況に応じ礼拝を実施した。本学での礼拝はキリスト教形式を採っているがキリスト教など一宗一派の伝道を目的としたものではない。大学での礼拝講話では、文化人と言われる方や僧侶の話を聞いた思い出を持つ卒業生も多いことだろう。
講話は聖書の言葉や先人の教えなどを聞き、一人ひとりが自己を見つめ直す時間であった。小原の礼拝講話では「汝の若き日に汝の造り主を覚えよ」(旧約聖書コレヘトの言葉章1節)の聖句をしばしば取り上げていたことを思い出す。小原は「両親の死という深刻な悲劇が、何よりの宗教の芽生えを生みつけてくれた」『自伝』1)と胸の内を明かしている。青年國芳が心の迷いや悩みを救う拠り所として宗教を求めたことは、察するに余りある。
(文=白柳弘幸 教育博物館)
『全人』2021年1月号(No.856)より