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オットー・フリードリッヒ・ボルノー

2014.03.19

玉川教育に多大な共鳴を覚えた、ドイツの教育哲学者

1991(平成3)年2月10日、一人のドイツ人哲学者の訃報が、朝日新聞に掲載された。彼の名はオットー・フリードリッヒ・ボルノー。享年87歳。彼の死が日本の新聞に掲載された背景には哲学者、教育学者としての業績もあるが、何より日本における哲学研究に多大なる影響を与えたことがある。玉川学園とボルノーの間にも、強い結びつきがあった。

オットー・フリードリッヒ・ボルノーは1903(明治36)年、当時のドイツ領のシュテッティン(現ポーランド)で生まれた。ゲッティンゲン大学で結晶の格子理論など物理学と数学を学ぶ。当時のボルノーを指導したのはマックス・ボルン教授。ボルンは1954年に波動関数の確率解釈の提唱によりノーベル物理学賞を受賞している。ボルノーの人生に大きな変化が生まれたのは、教育者であるパウル・ゲヘープが設立した田園教育塾、オーデンヴァルトシューレで教鞭を執る機会を有したことにあった。「これが私に独り自己を見つめる時間を与えた。私がそれからボルン教授の助手としてゲッティンゲンに戻ったときには、私は物理学にたいする心のつながりを、もはや見い出さなかった。直接な人間的な事柄の方が、私にはもっと重大に思われた。それで、哲学と教育学の第二の勉強を始めた」と、後に彼は述懐している。そして彼が最初に聴講したのが、エドゥアルト・シュプランガー教授の講義だった。その後ボルノーはゲッティンゲン大学に戻り、1931(昭和6)年に教育学と哲学の教授資格を取得。そして1953(昭和28)年にはシュプランガーの後継者としてテュービンゲン大学へと招聘される。以後、1970(昭和45)年の退官まで教授として学生の指導にあたると同時に研究を続けた。

こうした研究活動の合間を縫ってボルノーは日本を訪問。その際に小原國芳とも会っている。ボルノーと小原が出会ったのは1959(昭和34)年の秋のこと。東京で世界の比較教育学会が開かれ、その関係で海外の教育学者が多数玉川学園を訪れたのである。その中の1人がボルノーだった。「日本に行ったら、ぜひ玉川を見よと、シュプランガー教授はおっしゃいました」と、当時ボルノーは小原に語っている。シュプランガーが玉川を訪れたのは1937(昭和12)年のことだからボルノーが訪れる22年も前のこと。よほど印象強く記憶に残っていたのだろう。その後、1966(昭和41)年にもボルノーは玉川を再訪している。その時、学生を指導する講師として。数回の講義を行った後、「ぜひ名誉教授に」という玉川大学の申し出も快諾している。そうした関係から生まれたのが玉川大学出版部が発行している「世界教育宝典」の一冊『人間学的に見た教育学』。ボルノーによる書き下ろしである。刊行は1969(昭和44)年。まさに玉川学園の創立40周年の年であり、何よりの贈り物となった。ボルノー自身も「代表的著作と自負する。世界で最初の版が玉川大学出版部から刊行されることを誇りとする」と訳者宛の私信で記している。ボルノーはその後も5回にわたって玉川大学を訪問。学生たちに平易な形で哲学と教育学の本質を説くと同時に教員と親交を深め、玉川大学の教育研究の発展に多大な支援を行った。このような永年にわたる日独文化交流と日本の哲学・教育学への功績により、1986(昭和61)年度秋の叙勲で勲三等旭日中綬章を受章した。

玉川学園の創立50周年に際して、ボルノーは祝辞を寄せている。その中で彼はこう述べている。「このお祝いの日に、思いはまず、かつての功績ある創立者の小原國芳先生に遡ります。彼は、大きな世界的な視野で眺めると、ドイツではヘルマン・リーツ、パウル・ゲヘープ、グスターフ・ヴィーネケン、クルト・ハーン等が含まれる、田園教育塾の一連の創立者たちの1人であります。世界共通の精神史的な関連から眺めてみますと、彼は大都会や一面的な知性教育の、表面化された文化に対向して、自由な田園に素朴で根源的な生命への復帰を求め、玉川学園の機関誌においても全人教育という言葉で表されているように、すべての力を含んだ人間全体の教育を求めた人であります」。玉川はゲーテが「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」の中で夢見た教育を具現化したものであり、創立者の小原國芳は人間性の巨匠であるとも述べたボルノー。彼は物語の中の理想郷を、玉川の丘に見たのである。


参考文献
小原哲郎編『全人教育』第513号 玉川大学出版部 1991
細谷俊夫編『教育学大事典』第5巻 玉川大学出版部 1978
O.F.ボルノー(浜田正秀訳)『人間学的に見た教育学』(教育宝典 (25)玉川大学出版部 1969
O.F.ボルノー(浜田正秀訳)『哲学的教育学入門』玉川大学出版部 1973
O.F.ボルノー(石橋哲成訳)『思索と生涯を語る』玉川大学出版部 1991

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