玉川豆知識 No.147
玉川学園のさくら
玉川学園のキャンパス内には、さまざまな種類の桜の木が数多くあります。園芸種のみならず、多くの野生種も見られます。代表的なものは染井吉野、大島桜ですが、寒緋桜や江戸彼岸といっためずらしい種類の桜も花を咲かせます。また、玉川学園創立当時に、塾生や教職員の手によって植えられた桜の苗木も、今では立派な大木となって見事な花を咲かせています。
1.玉川の丘を彩ってきた桜
玉川学園機関誌『全人』あるいは『全人教育』に掲載されています「玉川の丘を彩ってきた桜」についての記事を、桜の写真とともにいくつか紹介します。
『全人教育』第573号(1996年3月号)に次のような記述があります。
創立初期より学生や教職員らが労作により主にソメイヨシノ(染井吉野)を植え、その後には各地よりさまざまな園芸品種を導入してきたため、種類が増えてきました。このようなことから構内には自生のヤマザクラや染井吉野の大木がいたる所に点在し、長い歴史を感じさせるすばらしい景観となっています。




同誌には、1996(平成8)年当時の玉川の丘にあった桜の種類や本数が次のように記載されています。
玉川学園の構内全体を見ると、野生系が474本、染井吉野が325本、園芸品種が380本、その他品種名がはっきりしないものが175本あり、全部で1,354本、種類はおよそ100です。
(略)
構内全体として野生系が多いにもかかわらず染井吉野がよく目立ちます。染井吉野は短期間で一斉に開花するのが特徴で、しかも創立初期に道路沿いに植えられたものが大木となって見事な景観を映しています。






『全人』第715号(2008年3月号)には次のような記述があります。
「桜の花がきれいだね。まるで君たちの入学式を神様が喜んでくださるようだ。42年前・・・・・・先生が伊豆大島から何千本と買(こ)うてきた」と小原國芳は、小学部入学式の祝辞で述べた。1972年4月のことである(学園史料室所蔵ビデオテープより)。
(略)
桜の木は学園内を走る小田急線の線路の両側、商店街や住宅地の道路沿いにも、当時の教職員や生徒たちの労作によって植えられた。
当時植えられたソメイヨシノは寿命のため多くは朽ちたが、いまも花を咲かせるものもある。今を盛りに咲いているものは、朽ちた後に植えられたものであろう。


『全人』第853号(2020年10月号)には、駅から坂下門につづく桜並木のことが記されています。
玉川学園でも創立翌年の1930年頃から塾生と教員の労作により、学園と街中に大島由来の約3,000本の桜の木が植えられました。駅から坂下門までつづく桜並木は東京の名所と評判を呼び、池の端に陣取る花見客への苦言が『全人教育』に収録されています(1965年4月号)。










2.写真で見る「玉川の丘の今年の桜」















3.玉川の丘桜図鑑
上述のとおり、玉川の丘を彩る桜は何種類もありますが、その開花については、『全人』第840号の谷本亮教授の書かれた研究エッセイ「桜と共に迎えた玉川の記念日」に次のように記載されています。
学園内で、真っ先に咲く桜は、咸宜園の前庭にある河津桜と経塚山の北東側に植えられている椿寒桜です。そして、正門近くにある駐車場に植えられた寒緋桜が続きます。寒緋桜は野生種のひとつで、日本では沖縄本島や石垣島など南西諸島で見られる亜熱帯に適応した桜です。
(略)
そして、3月下旬、桜色の濃い陽光や江戸彼岸系の糸桜が咲き始めるといよいよ春の装いが増してきます。糸桜は野生種である江戸彼岸から派生したもので、その下垂した枝ぶりが最も大きな特徴のいわゆる枝垂れ桜です。
やがて3月下旬、山桜、大島桜、染井吉野が咲き始めて春爛漫の景色が学園を覆っていきます。
(略)
学園の桜の季節は、染井吉野のあともまだ続き、次は八重桜の出番となります。濃いピンクの関山、逆に清楚な薄桃色の松月そして普賢象、変わったところでは黄色い花弁の鬱金、緑の花弁の御衣黄と4月中旬まで私たちの眼を楽しませてくれます。


<経塚山の北東部斜面>

<大学教育棟 2014の横、東側駐車場>

<農学部農場の小田急線沿い斜面>

<大学8号館南側など各所>

<経塚山北東の三角点付近>

<大学7号館入口通路脇など>

<聖山、観音庭園の西側>

<農学部農場入口付近など>

<K-12経塚校舎の正門付近>

<大学1号館東側>

<大学6号館正面右側>

<大学6号館正面左側>
桜の開花は春だけではありません。四季折々に可憐な花を咲かせることが知られています。『全人』第840号では、十月桜が次のように紹介されています。
玉川学園に植栽されている数ある桜の中でも少し風変わりなものがあります。十月桜です。多くの人には聞きなれない名前かと思いますが、これは豆桜と江戸彼岸の関係した栽培品種で、その最も特筆すべき特徴は、秋冬にかけて開花するという性質です。その名の通り、開花のピークは10月になります。

参考
「日本の花、サクラ」(石川晶生、梅木信一共著『生命と自然―ライフサイエンス入門―』より)
サクラはそのほとんどが北半球の温帯に分布し、特に日本にはその種類が多い。
(略)
花の色はピンクや白が多いが、カンヒザクラの赤やウコンの黄、そしてギョイコウの緑もある。花弁は5枚を基本とし、一重咲きや八重咲きがある。キクザクラでは100枚以上にもなる。開花時期は春だが、フユザクラやジュウガツザクラなどは秋や冬にも咲き、フダンザクラは夏を除き年間を通して咲いている。
「日本のサクラ類」(石川晶生他編『さくら百科』より)
サクラ類は落葉高木または低木で、ふつうは丸い樹冠を形成するが、シダレザクラ(枝垂桜)のように枝が垂れ下がる樹形のものや、枝も花も真っすぐに上を向くアマノガワ(天の川)、また枝が横に広がる傘状のショウゲツ(松月)など、樹形もそれぞれに特徴がある。
(略)
我々がふつう桜と認識しているものは、分類学上はバラ科のサクラ属に含まれる樹木である。
(略)
日本の野生種は、ヤマザクラ、オオヤマザクラ、オオシマザクラ、カスミザクラ、エドヒガン、マメザクラ、タカネザクラ、チョウジザクラ、ミヤマザクラの9種類であるが、カンヒザクラを含めて10種類とすることもある。








四季桜は、春と、秋から冬にかけて二度開花する二季咲きという珍しい桜です。
参考文献
- 石川晶生、梅木信一、藁谷洋子「玉川学園の桜」(『全人教育』第573号 玉川大学出版部 1996年 に所収)
- 石川晶生、梅木信一共著『生命と自然―ライフサイエンス入門―』 玉川大学出版部 1994年
- 石川晶生「日本のサクラ類」(石川晶生他編『さくら百科』 丸善株式会社 2010年 に所収)
- 谷本亮「桜と共に迎えた玉川の記念日」(『全人』第840号 玉川大学出版部 2019年 に所収)
- 白柳弘幸「玉川の丘、再発見!⑩玉川学園の桜」(『全人』第715号 玉川大学出版部 2008年 に所収)
- 小原國芳監修『全人教育』第188号 玉川大学出版部 1965年
- 小原芳明監修『全人』第853号 玉川大学出版部 2020年