玉川豆知識 No.212
日本で初めてリベラルアーツの名を冠する学科、学部を設置
2003(平成15)年4月、文学部にリベラルアーツ学科が開設されました。日本で初めてリベラルアーツの名を冠する学科の誕生です。玉川学園女子短期大学教養科を廃止しての改組だったため、教養科の入学定員をそのまま使用しての新学科設置となりました。そのため収容定員は2倍に増加。そしてリベラルアーツ学科が完成年度を迎えた2007(平成19)年4月には、学科を学部に改組して、リベラルアーツ学部を開設しています。
1.文学部にリベラルアーツ学科を設置
アメリカのカレッジはもちろんのこと、多くの総合大学(ユニバーシティ)でも、リベラルアーツの考え方が基本にあります。学生はここで文系・理系を問わず広範な学問領域を学び、多くの分野で通用する知的マインドを養っています。玉川大学では、このリベラルアーツという考え方に、わが国の大学教育が進むべき方向があると考えました。しかもこの考えは総合的な人間力の育成を目指した玉川学園の全人教育の理念に合致するものです。
玉川学園女子短期大学教養科が廃止されることとなり,その入学定員をそのまま使用して文学部に「リベラルアーツ学科」を設置することになりました。入学定員を変えることなく改組ができたため、修業年限4年のリベラルアーツ学科の収容定員は、修業年限2年の短期大学の教養科の収容定員の2倍となりました。現在では、短期大学を改組あるいは廃止して、その定員を使って大学の学部や学科を設置することは認められていません。
リベラルアーツの名を冠する学科の設置は、日本で初めてとなります。文部省(現在の文部科学省)に提出した設置認可申請書で、リベラルアーツ学科設置の必要性が、つぎのように述べられています。
これからの学問の高度化,精緻化は,それを支える各学問の習熟と新たな知識や情報の獲得を前提としてのことであろう。加えて,実利,職業,専門といった領域における固有な目的や単一の視点に予め拘束されない自由な学習,それによって培われる複眼的視点や柔軟な思考方法が基礎・基本となると考えられる。
このような前提にたてば,学部での4年間は特定専門領域の学習に特化するのではなく,むしろ,「すべての学問に通用する基盤としての知的マインドの涵養」と「それを活用する技法の獲得」にあてる教育体系,すなわちリベラルアーツを構築することこそが肝要といえよう。
高等教育機関における生涯学習や大学院レベルにおける社会人入学が整備されつつある今日,また,従来の日本型終身雇用体系に代わるキャリアプランが多様化していくなかで,これからの学部教育のありかたの一つとして,なによりも必然性あるものとして「リベラルアーツ学科」を構想した。
リベラルアーツ学科については、学部として設置することも考えられましたが、まずは文学部の中に学科として設置することとなり文部省に相談。文部省からは、リベラルアーツを冠する学科であれば、文系・理系を問わず広範な学問領域を学べるようなカリキュラムが必要であり、文学部に設置することには無理があるとの指摘。さらにリベラルアーツの中に文学が含まれるのではないかという意見が付されました。しかし文学部の中に学科として設置する当初の目的をなんとしても実現させるために、さらに文部省と交渉。「人文科学」を視座の中心に据え,学生が自己の関心に応じてさまざまな分野を多角的・総合的に学ぶことのできるリベラルアーツ型カリキュラムを構築して、新たな学びのスタイルを提案するという学科を設置したいのだと説明。文部省との何度もの交渉の結果、文学部の中にリベラルアーツ学科を設置することが認められました。それにより認可申請であっても届出と同様な扱いとなり、審査、手続き、書類作成がかなり簡略化されました。
カリキュラムの中心には、「生命と環境」、「人間と社会心理」、「社会政策」、「芸術と文化」、「コミュニケーション」、「ライフデザイン」、「日本の言語と文化」、「ICT(コンピュータと情報)」といった8分野からなるリベラルアーツ科目群を配置しました。
2.リベラルアーツ学部の設置
新しく開設した学科を学部にするには完成年度(開設年度に入学した学生が卒業する年度)を迎える必要があります。そのため文学部リベラルアーツ学科が完成年度を迎えたのを機に、文部科学省に届出を行い、2007(平成19)年4月にリベラルアーツ学部を開設。すでに学科として存在していたため、設置認可申請ではなく、届出手続きでの学部設置となりました。届出手続きであったため、認可申請と比較して、審査、手続き、書類作成がかなり簡略化されました。
リベラルアーツ学部を設置した理由について、文部科学省に提出した設置届出書には、つぎのように記載されています。
社会の多様化や学問の細分化あるいは融合化により、学際的な教育および研究の充実が一層求められている。そうした社会状況下において21世紀のわが国を担う人材の育成には、幅広い学問に適応することができ、かつ現代社会を生き抜く知的マインドとそれを活用できる技術を身に付けるゆるぎない相互教育が必要である。すなわち、国際化や科学技術の進展等社会の激しい変化に対応しつつ、国民としてはもとより国際社会の一員としての現実を正しく理解する力と自己の進むべき方向性の明確化が求められている。ここに「教養教育」の重要性が見直され、これを重視し、科学的かつ論理的な思考力と判断力あるいは体験を伴う行動力を修得する総合的な学力の育成を最大の目標とし、また人文科学系の学問に偏らず、総合的に学べる教育環境の提供を社会的な要請と考え、「リベラルアーツ学部リベラルアーツ学科」を設置することとした。
さらに設置届出書には、この学部の教育・研究の特色についてつぎのように記されています。
リベラルアーツ学部におけるモットーは「構想し(Plan)、実践し(Practice)、推進する(Promote)」である。細分化した狭い分野に限定された知識の習得に留まらず、基礎基本を重視しつつ、各自の研究テーマに従って研究を推進する。すなわち、本学部は「総合的教養教育」の機能を重点的に担い、その機能を十分に踏まえた教育・研究を展開する。
リベラルアーツ学部では、2023(令和5)年4月より、ダブルフィールド制をスタート。より自由に異なる学問分野を学ぶことができるようになりました。具体的には、心理学・社会学・国際関係論・文学・民俗学・環境学・文化論・身体論・情報学・ポップカルチャー研究などの学問領域を広範囲にカバーする「リベラルアーツ」の学びを拡充し、Human、Society、Culture、STEAMの4つのフィールドを設定し、その中から2つのフィールドを選択し、複数分野を連携させながら学べるようになりました。
- STEAMとは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)を統合的に教える「STEM教育」に、芸術(Arts)を融合したもの。これらを統合的に学ぶのが「STEAM教育」です。
具体的には、1年次に開講される『リベラルアーツ総合研究』という授業で各フィールドの概要を学び、2年次の春学期に1つ目のフィールドを選択。2年次の秋学期に2つ目のフィールドを選びます。また2年次から開講される『オフキャンパス・スタディーズ』では、企業でのインターンシップやフィールドワーク、国内外での異文化体験など、キャンパス外の場に出ることによって、学びを社会で活かすための実践能力を身に付けます。4年次に開講の『リベラルアーツプロジェクト』では、学内のさまざまな施設を活用して論文、楽曲、Web制作、舞台上演、インスタレーションなどの研究・表現方法で、自分自身の年間の学びを一つの形にしていきます。大学4年間の集大成としての科目です。
リベラルアーツ学部設置検討分科会座長で初代リベラルアーツ学部長である佐藤久美子氏著「リベラルアーツ学部」(『全人』第698号/玉川大学出版部/2006年)に、リベラルアーツ教育についてつぎのような記述があります。
玉川は創立以来、「偏りのない知識を持った、円満な人間形成――全人教育」をめざしてきましたが、リベラルアーツの考え方と根本的につながるのです。さらに、人文科学・社会科学・自然科学に至るさまざまな学問分野を「広く」学際的に学ぶと同時に、特定の専門領域を多角的な視点から「深く」追求していくのがリベラルアーツ教育です。
関連サイト
参考文献
- 『文学部リベラルアーツ学科・教育学部乳幼児発達学科設置認可申請書』 学校法人玉川学園 2002年
- 『リベラルアーツ学部設置届出書』 学校法人玉川学園 2006年
- 小原芳明監修『全人』 玉川大学出版部
第650号、第652号(2002年)、第698号(2006年)、第882号(2023年) - 小原芳明「文学部『リベラルアーツ学科』と教育学部『乳幼児発達学科』の新設について(『全人』第650号 玉川大学出版部 2002年 に所収)
- 山崎真稔「文学部にリベラルアーツ学科を新設」(『全人』第652号 玉川大学出版部 2002年 に所収)
- 佐藤久美子「リベラルアーツ学部」(『全人』第698号 玉川大学出版部 2006年 に所収)