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玉川豆知識 No.217

中学部の事務室当番

かつて中学部に「事務室当番」という生徒当番がありました。事務室に一日つめて、電話対応、欠席・遅刻生徒名の担任教員への伝達、お客様へのお茶出し接待、事務室の美化労作、先生方および生徒のお弁当の注文・管理などを行っていました。

1.事務室当番の一日

中学部の事務室当番(通称:事務当)は2年生が一日ずつ担当。2年生全員が体験します。事務室当番に当たった日は、授業には出席せずに、ほとんどの時間、事務室で過ごします。小テストがある時には、その時間だけ教室に行ってテストを受けることが可能。この事務室当番は、2005(平成17)年まで継続して行われました。

事務室窓口で受付対応

2002(平成14)年の事務室当番の一日はつぎのとおりです。

  • 朝7時30分に学園本部に寄って、中学部が購読している新聞をピックアップする。
  • 中学部校舎に到着すると事務室に行き、台所でお湯を沸かす。お湯が沸いたら、ポット2本ずつにお茶とお湯を入れる。
  • 朝の8時前後は、家庭からの欠席や遅刻の電話がかかってくる。電話を受けるのは中学部3年生の週番の生徒で、学年、クラス名、生徒の名前を記録する。事務当はその先輩の受け答えの様子を観察するとともに、連絡のあった欠席者および遅刻者の名前を担任教員に報告する。
  • 朝一番の仕事が済んだら、事務室や先生方が集まる部屋の机を拭くなどの美化労作を行う。
  • 原則お弁当は持参する決まりであるが、家庭の都合でお弁当を持って来れない生徒は、通学弁当(通称:通弁)を注文することができる。事務当はこの通弁の代金を計算し、先生方が注文した分とともに、電話でお店に注文する。そして配達されたお弁当に名札をつける。
  • 購買部での販売を行う。購買部を開く時間は、第1時限目開始前、休憩時間、昼休み、第5時限目終了時。
  • 中学部を訪ねて来られたお客様にお茶を入れて出す。
  • 先生方のお茶はセルフサービスだが、流しにたまった食器は事務当が洗って片づける。
  • その他さまざまな雑用に対応する。
  • 「事務室当番日誌」に必要事項を記載する。
  • 放課後、翌日の事務当の生徒に、仕事の引継ぎを行う。
学園本部より新聞をピックアップ
注文し配達されたお弁当を確認

玉川学園機関誌『全人』第648号(玉川大学出版部/2002年発行)に事務室当番について以下のような文章が載っています。

生徒たちも、このいつもと違う一日を楽しんでいるようです。「先生方に『お疲れ様』と言われて嬉しかった」「洗い物がたまって猫の手も何本か借りたかった」「中学生をやめて就職した感じで貴重な経験」「主婦みたいだった」「中学部のみんなのためにやっている、という気持ちで仕事した」(1998年の「事務室当番日誌」から)
そして、一日の終わりには、ほとんどの子が「またやりたい!」といって帰ります。「百見は一労作に如かず」の精神は、誰も言わなくても、ちゃんとここにも生きていました。

『玉川学園中学部 全人教育の実践』(玉川大学出版部/1979年)には、事務室当番についてつぎのような記述があります。

当番になった生徒は、一日授業に参加せず、仕事のあい間を見て自学をする。しかし、多少の学習の遅れには代えられない生活実践教育を、生徒は受けるのである。用務員的な人を置かず、「自分達の生活は自分達の手で運営する」という生活労作精神を受け継いでいる場でもある。

同書には事務室当番を経験した生徒の体験談も載っています。

昨夜は胸がドキドキしてよく眠れず、寝たかと思ったら今朝は四時半に目が覚めてしまった。昨日は皆に仕事を聞き回って、その手順を覚えたり、お客さんへのお茶の出し方や電話の応対の仕方を家で練習した。それから学校案内の一番よい道順も考えたのだが……。

(Eさん)

とにかく非常に失敗だらけでした。お茶を入れれば薄いし、茶わんを洗えば割っちゃうし、最初の電話の応対では「はい、〇〇です」なんて自分の名前を言っちゃうし、数え上げたらきりがないくらい。でも午後には大分上手にできるようにもなりました。事務の先生に色々教えていただきましたし、国語の〇〇先生もコップの洗い方を教えて下さいました。お使いも、小学部、本部、ポスト、塾食堂にいきましたし、お客さんが八組、電話も二十本以上かかってきててんてこまいの一日でしたが、身になったことがたくさんありました。言葉づかいや礼儀がとても大切なこと、仕事は手順よくやらなければいけないことなどです。

(Mさん)

潟山盛吉氏との共著『身近かで見た小原國芳先生―体験的小原國芳論』(玉川大学出版部/2024年発行)の中で、石橋哲成名誉教授が、自身の体験を通して「事務室当番」についてつぎのように述べています。

用務員さんのいないのが玉川教育の特徴でしたので、通学生には「オヤジ当番」はなくても、「事務室当番」というものがあり、当番に当たった日には、事務の先生方の隣に用意された生徒用の机付の椅子に座り、必要に応じて電話に出たり、お客様にお茶を出したりしました。電話での応対の仕方、お茶の出し方も実践の中で学びました。中学部では、それがまた生きた勉強と考えられていました。お昼には先生方にお茶を出す機会があり、事務室当番を通して、先生方や事務の先生方とも親しくなることができました。

かつては小学部でも、最上級生の児童2名ずつが一日事務室につめて、自習をしながら電話対応、お茶出し接待、事務室の美化労作などを行った「事務室当番」がありました。このような形式の「事務室当番」は2018(平成30)年まで行われていました。現在でも、Primary Division(幼稚部~5年生)の4年生対象に「事務室当番」は存在しています。ただし、担当時間は朝の授業前と昼休みのみです。担当内容は、朝は美化労作、昼は配付物があればそれを各教室へ届けること。

2.事務室当番心得

『中学教育―玉川学園―』(玉川大学出版部/1965年発行)に、「2年生道徳資料集」に掲載されている「事務室当番心得」が載っています。

  • 1
    予鈴三十分前には登校し、まず窓を開けて朝の新鮮な空気を入れること。
  • 2
    やかんに水を入れ、ガスコンロにかけ、洗場付近の清掃をすること。
  • 3
    テーブルの上を片付け、拭き掃除、床や玄関の清掃、靴箱の整頓を朝会が終わるまでにしあげてしまうこと。
  • 4
    購買部での販売は、手ぎわよく、間違いのないようにすること。売った品目をノートに書き、最後に先生に報告すること。購買部を開く時間は、第一時限開始前・休憩時間・昼休み・五時限終了迄で、その他の時間は一切売らないこと。
  • 5
    先生方から用事をいいつかった時は、その仕事を正確に果たし、その結果を必ず報告すること。
  • 6
    来客の際は、てきぱきと応対し、玄関ではスリッパを、応接室ではお茶を直ちに出し、こまかい事にも気をくばること。お客様が帰られたら、すぐテーブルの上を片付けること。
  • 7
    電話の応答は、相手方及び用件をはっきり確かめ、語尾を明瞭に感じのよい話し方をすること。
  • 8
    帰る時に、清掃、戸締りをし、「事務室当番日誌」をつけて、事務の先生に提出し許可を得ること。
  • 9
    事務室当番勤務中に暇があったら自学ができるよう、その準備もしておくこと。
  • 10
    土曜日の下校は二時頃なので弁当持参のこと。

電話のかけ方、お客様の接待の仕方、購買部での販売方法など社会生活に必要な対応や心構えを、事務室当番を通して体験しながら学べることはとても価値あることです。また、先生方の仕事を間近で見ることができる良い機会となりました。

『全人』第648号(玉川大学出版部/2002年発行)に掲載されている事務室当番の記事より

参考文献

  • 小原芳明監修『全人』 玉川大学出版部
       第648号(2002年)、第896号(2024年)
  • 潟山盛吉、石橋哲成著『身近かで見た小原國芳先生―体験的小原國芳論』 玉川大学出版部 2024年
  • 玉川学園編『玉川学園中学部 全人教育の実践』 玉川大学出版部 1979年
  • 玉川学園五十年史編纂委員会編『玉川学園五十年史』 玉川学園 1980年
  • 玉川学園編『玉川教育―玉川学園三十年―』 玉川大学出版部 1960年
  • 玉川学園編『玉川教育―1963年版―』 玉川大学出版部 1963年
  • 玉川学園中学部編『中学教育―玉川学園―』 玉川大学出版部 1965年

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