エビヅル

葡萄色と書いてエビイロと読むように、古く日本ではブドウのことをエビと呼んでいた。エビヅルは日本に自生している野生ブドウである。
日本に自生するブドウとしてよく知られているヤマブドウは冷涼な気候を好むのに対し、エビヅルは温暖な気候を好むため、鹿児島南さつま久志農場周辺にも自生している。しかし、ヤマブドウよりもさらに小粒で種が大きいため、あまり利用されることはない。
ブドウは比較的乾燥した気候を好むため、降水量の多い南日本で栽培する際は雨よけ栽培が一般的であるが、野生のエビヅルは梅雨の長雨や台風にも負けず、秋にはたくさんの小さな実をならせる。
木に巻き付いて育つため、日当たりの良い、高い場所に果実は多く実り、採取は容易ではない。ヤマブドウ同様、酸味と渋みが強く、生食には向いていないが、果汁を絞るとほんのわずかではあるが、フルボディの赤ワインのように濃厚なエビヅルジュースを得ることができる。美しい葡萄色の果汁はいつまでも眺めていたいが、放っておくとワインになってしまうので、すぐに飲んでしまったほうが良いだろう。
(農学部技術指導員 深澤元紀)
『全人』2018年1月号(No.823)より
エビヅル
学名:Vitis ficifolia
ブドウ科
全国に自生する雌雄異株のツル性の落葉低木であり、巻きひげで他の木にからみ生長する。平地の林縁などに多く見られ、潮風にも強いようで海辺にも生育する。ヤマブドウと比べると葉が小さく、厚みがあり、葉裏にはクモ毛がある

