ユウコクラン

ユウコクランの花。花弁はどれでしょう?

鹿児島南さつま久志農場の周囲は、緑濃い照葉樹の深い林に覆われている。この林の中に立ち入ることは相当困難と思われるが、意外や意外。タブノキやシイ・カシ類で構成される林内は、晴れた日でも薄暗いため、林床に生える植物は少なく、歩きやすい。
そのような林内を注意深く観察していると、ツヤのある葉をもつユウコクランにちょくちょく出会う。花の時期は5月。ご覧のように、非常に独特な形の花を咲かせる。花が小さく黒~紫掛かった茶褐色花で、あまり美しいとは言えないが、多数の花を咲かせ、なかなか見応えがある。また、独特な香りがかすかに香る。
自家受粉では着果しないため(自家不和合性)、花数が多い割に着果は少ない。しかし、このランは種子繁殖以外にもユニークな繁殖手段をもつ。葉の落ちた古い茎(バルブ)の先端付近に高芽(たかめ)を形成する。この芽が肥大し、指先程度の大きさに成長すると、ぽろりと落下する。台風に伴う大雨が頻発する当地では、高芽は急斜面を流れる雨水によって、親株から離れた場所に運んでもらうことも容易だろう。

(農学部教授 山﨑 旬)
『全人』2019年11月号(No.843)より

ユウコクラン(幽谷蘭)

学名:Liparis folmosana
ラン科クモキリソウ属

九州~沖縄、伊豆諸島や紀伊半島、台湾、香港に分布する。常緑広葉樹林の林床に生える。同属のコクランと類似するが、本種の方が大型で花数も多い。花の直径は1cm程度。日本の一部地域(伊豆諸島、和歌山県、長崎県)では絶滅危惧種に指定されている

開花中のユウコクランの花序(5月中旬)
ユウコクランの高芽。基部は薄い鞘葉(しょうよう)に覆われている