キアシドクガ

ようやく手に入れた夢のマイホーム。自然に囲まれた素敵な場所だ。しかし喜びも束の間、我が家はガの幼虫に包囲された。とてつもない量だ。近所からは悲鳴が聞こえてくる。どうやら家にまで入ってきたようだ。
黄と黒が混じったガ、キアシドクガだ。数年単位で大発生を繰り返し、ひどいときは彼らが食草とするミズキやクマノミズキが丸裸にされてしまう。幼虫から成虫になると真っ白な姿に変貌を遂げ大空を乱舞する。空を埋め尽くすほどのその白い姿には、ときに美しさすら感じてしまう。
分類学的にはドクガの仲間であるが、毒はない。庭木などに彼らの食草がなければ、特に物理的な害が生じる訳ではない。ただ大量のガの幼虫が迫り来れば不快な気持ちになる人が大多数だろう。
自然との共存が叫ばれる中、こうした不快害虫とどう付き合うかは難しい課題だ。連日押し寄せる彼らに殺虫剤を使えば人や他の生物への影響も懸念される。ときには私たち人間が一歩下がって、生物観察の絶好の機会と捉えるくらいの寛容さを持つのも一興かもしれない。
(農学部教授 關 義和)
『全人』2024年11月号(No.898)より
キアシドクガ(黄脚毒蛾)
学名:Ivela auripes
ドクガ科
北東アジアに分布し、日本では北海道、本州、四国に分布(九州も分布域とする図鑑もある)。卵の状態で越冬し、4月頃に孵化する。町田市では、5月中には蛹化し成虫が群飛していることが多い。我が家には2021年を最後に訪問がない。次の大発生に備えて心の準備を始めたい

