オオウバユリ

環境保全の意識の高まりから、古くから居住する先住民族の伝統文化や知恵が再評価されている。北海道の先住民族であるアイヌにとってほとんどの生き物がカムイ(神)であり、自然の恵みをもたらしてくれる贈り物である。
オオウバユリ(アイヌ語でトゥレㇷ゚)も神話にも登場する重要な食料源である。5月に掘り出した鱗茎からデンプンを取り出して食用に、腹痛時にはくず湯のように薬用にも利用された。残りの繊維や皮は、ドーナツ状にしアキタブキ(コルコニ)の葉でくるんで数日寝かせ発酵させる。これはトゥレㇷ゚アカム(ウバユリの環)、あるいはオントゥレㇷ゚(発酵させたウバユリ)と呼ばれ重要な保存食となる。
北海道弟子屈農場ではやや湿った林床などに本種の群生地がみられる。本種のみならず、ギョウジャニンニク(プクサ)などアイヌが利用する植物は湿潤環境に分布する種が多く、開発による乾燥化で生育地が減少している。開拓民による過剰な採集も個体数を減少させた。アイヌの伝統文化保護という観点からも、これらの植物をいかに保全していくかは重要な課題である。
(農学部教授 南 佳典)
『全人』2025年5月号(No.904)より
オオウバユリ(大姥百合)
学名:Cardiocrinum cordatum var. glehnii
ユリ科ウバユリ属
本州中部から北海道に分布し、湿り気のある林内に自生する多年草で、7年ほどかけて7~8月に十数個の黄緑色ないし緑白色の花を付ける。草丈は1.5~2.0m、関東地方以西に分布するウバユリより大型で花の数も多い。なお、デンプンの採集には花を付けていない個体を利用する

