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玉川豆知識 No.14

植物の病気を減らして食糧危機を回避するために

2014.11.06
農学部生物資源学科 教授 渡辺京子

2011年に70億人になった人口は、今後36年で92億人になることが予想されています。みんなが生きていくためには、今より1.5倍もの食糧が必要になります。しかし、もうすでに畑にできる地球上の土地は限界近くまできていて、これからは同じ面積でどれぐらい収穫できるか?これが食糧危機を回避するためのポイントです。

さて、どうやれば収穫量を増やせるのか?いろいろ工夫があるとは思いますが、まずは、現在の飢餓人口とされている8億人分の食糧になるはずの量(収量の約14%)が生理病や、感染性の病気で食べられなくなっているところから着手することが近道だと思います。

家の冷蔵庫の中で腐っている(病気の)野菜は全体のごく一部で、畑、市場でも病気が原因で多量に廃棄されています。スーパーでもなお陳列する前に、毎日0.05%程度の野菜は病気で廃棄されています。植物の病気はウイルス、細菌、かびなどの微生物が植物に感染することでおきます。人間と同じです。

今年は植物の病気によって歴史に残る大きな出来事が日本で起きました。1972年から育てられてきた吉野梅郷の1266本もの梅が伐採されました。この原因は、日本では2009年に始めて確認されたプラムポテックスというアブラムシが媒介するウイルスで、発見後5年でこのような残念な結果となりました。この病気については、見つけたら報告してほしいと各県の試験場(東京都の事例)や国の機関が情報提供のお願いをしていますが(植物防疫所  ウメ輪紋ウイルス(プラムポックスウイルス)の緊急防除について)、「植物は病気になる」という概念が市民に広く知れ渡っていなければ意味がありません。今年は、また、病原性の強いキウイかいよう病菌(細菌)が発見され、緊急対策として農家の感染木は伐採されました。他に拡がらないようにです。しかし、庭のキウイがその病気に罹っていることに気づかない人がいれば、そこが感染源になってまた拡がっていきます。

人間の病気では、世界的にみるとエボラ出血熱が大流行しています。日本では、デング熱がニュースになっています。これらを防ぐために、正しい知識をもって我々が行動することが必要なことは、明らかです。でも、植物の病気も同じであることは、ほとんど誰も気づいていません。
十分な栄養と薬が人間の健康に必要なように、健康な野菜を育てるためにはなんらかの肥料と農薬は必要です。また、植える植物の組み合わせで病気になりにくくすることも考える必要があります。農薬散布は悪だと思っている人がいますが、植物を病気にはしないけれど毒を生産する微生物が感染している可能性だってあります。また、逆に植物に病気が少しぐらいあっても、植物病原菌は人間には感染しないしほぼまったくと言っていいほど人間の毒にはならないことは知られていません。これらを知らずに独自解釈による「安全できれいな野菜」を求め過ぎるとおかしなことがおきます。
さらに、植物工場で育てれば、野菜は病気にはらないと思っているのも間違いです。工場でも野菜は野菜、完全無菌にするためには、あのエボラ出血熱の対応をしている方々と同じ装備をしてなくてはいけません。微生物間の競争がないと、本当は病原性の弱い微生物でも植物を病気にすることができます。しつこいようですが、人間と同じです。だから、病気にしないために、植物の正しい診断法の開発も植物工場の普及には不可欠になるのです。

研究の様子

人間は従属栄養生物です。月に行こうと火星に行こうと食糧だけは必要です。そして、私達の動物タンパク源となるほとんどの生物も従属栄養生物で、植物なしでは生きていくことはできません。植物を失うことは、植物と動物という両方の栄養素を失うことになります。人知れず医学関係者が感染経路の解明や、ワクチンの開発、治療薬の開発を必死で行っているのと同じように、植物病理学や植物医科学や農薬学などの病害防除関係者は植物の病気の感染源やワクチンなどの開発やよりよい育て方で農薬を減らす方法などを研究しています。しかし、微生物は進化(分化)して次々とあたらしい病原性を持ちます。地球温暖化によって植物の状態も変わります。終わりのない戦いでもあります。
今後、深刻な食糧危機を迎えるにあたっては、専門家だけの力では太刀打ちできません。多くの人が植物の病気の知識をもつことが、植物の病気を減らし、食糧危機を回避することにつながるのです。

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